リゲルの憂鬱(仔エレフ+仔オリオン)

「なぁエレフ…俺達いつかここから出られんのかなぁ…」

いつもと変わらぬ夜。身体の疲労に反して眠れぬ夜。
エレフセウスの隣に寝転んでいたオリオンがぽつりと呟いた。

「何言ってんだよオリオン…お前がそんなこと言うなんて珍しいな」

城壁を作り上げる奴隷の数は日に日に増えていく。
その奴隷に充分な寝床など与えられるはずもなく、外で夜を過ごすものも少なくはない。
力の弱い子どもである二人もその一部であった。

エレフセウスはごろりと寝返りをうってオリオンに顔を向ける。
寝転んだ先にあった草が鼻をかすめた。

「こんな暗い空見てっと俺でも不安になんの!」

茶化すように喋るオリオンは声こそいつものように明るいが、その視線は未だ空へと向けられたままだ。
今はあまり顔を見せたくないのかもしれない。
エレフセウスは少し考えてから、自分も空を見る事にした。
少しの静寂。
オリオンが気まずそうに口を開いた瞬間だった。

「大丈夫さ。」

唐突な言葉に、今度はオリオンの方が隣に顔を向ける。

「…何で?」

「あそこにさ、あるだろ。」

断言するようにはっきりと言うエレフセウスに疑問を投げかけると、エレフセウスは真上に指先を向けた。
指差す方向を辿ると、それは暗い夜空であった。

「…何が?」

言いながらオリオンは夜空から木々へと視線を移した。
暗く吸い込むような色をした空はオリオンに漠然とした不安を与える。
いつかは自分達もあの中に消えてしまうのだと。

「オリオン座だよ。」

オリオンは自分の名前に少し驚いて、思わずもう一度夜空を見上げた。
ぱしぱしと瞬くと、オリオンの頭上にはたくさんの星々が輝いていた。
吸い込まれそうで弱々と点滅しながらも決して消えない光。

「母さんに教えてもらった。あの星達をつないだものはオリオン座っていうらしい」

エレフセウスの指先が、今度はオリオンに向けられる。

「だからお前はさ、あれに向かって笑ってりゃいいんだよ。あれはお前だもん。」

紫の丸い瞳がオリオンを映し出した。

く、とオリオンが小さくふき出す。

「あーあ、エレフ君こんな時間まで起きてちゃあ明日寝坊して痛い目見るね。」

「誰のせいだよ!」

悪態をつきながらも、エレフセウスは何故か安心していた。
おやすみと寝返りを打って背を向けた友は、きっと明日も笑うのだろう。

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リゲルはオリオン座で一番明るい星だそうです。

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