旅の途中
あれは、2019年春のこと。
僕は初めて海外へ行くことになった。
場所はベトナム。一年中蒸し暑く、信号のない道路には多くの車やバイクがなぜか事故もなく颯爽と走り抜け、忙しなくクラクションが鳴り響く。
そもそも行くことになったきっかけは友人Sから一緒にライブに出ないかと誘われたからだ。
僕はたまたまギターを弾けた。
そのSは歌手として活動していた。Sは交友関係が広く、その人脈もあって今回ベトナムに以前から交流のあった知り合いに誘われ、ライブをすることになったのである。
そして、そのSのサポートギタリストとして共に参加することになった。
そう、だから今、僕はベトナムにいる。
僕らが宿泊し、少しばかり満喫していくのはダナンという地だった。
リゾート地として新しくホテルも建設されていて、目の前には広大な海とビーチが広がっていた。
すぐさま僕はその光景に引き込まれた。もちろん日本にも綺麗な海はあるし、景色だって引けず劣らずだ。
だけど、五感で感じるものすべてが違った。
道を歩けば、新しい発見があり、また歩けばまた違う発見がある。
まさにその連続だった。
ホテルでのチェックイン。優しい男性のフロントが出てきて暑いからと冷たい飲み物を出してくれ、部屋へと案内してくれた。
到着してから2日後にライブを控える僕らは時間を持て余していた。
大きい荷物をホテルに置き、僕らはこの地を早速散策してみることにした。
ホテルを出ると、海沿いにはどこもかしこもリゾートホテルが立ち並んでいた。
所々には美味しそうなレストランやカフェもある。
僕らはしばらく歩くと、いつの間にか海とは反対側にある街の中へと入っていった。
そこでは、あのリゾート地の心地良い感じとは異なっていた。
見るからに貧しそうな夫婦が今にも崩れてしまいそうな家で灯油を売っていたり、小さな子供が手伝うように一生懸命働いていた。
表で見えているとことはあんなにも海が広がっていて美しいのに、その裏ではこうして忙しく働いているのを目にして僕は頭を殴られたように衝撃的だった。
僕は自分があまりに世界を知らなかったことに落胆した。
テレビやネットで見るだけでは決して得られない情報や感覚が体験を通して体にインプットされていく。そんな感覚だった。
もうひとつ新しく体験した感覚といえば、「時間」だ。
ベトナムへ降りたってからというもの、時間の流れが日本にいる時の数倍遅く、ゆったりと感じた。
何をしてても、どんな過ごし方をしても時間に追われることがない。
時間が僕たちに寄り添っていてくれているようだった。
たぶん、みんな思ったことがあると思う。
「なんで大人になると時間が早く過ぎていくんだろう?」と
科学的には、子供の頃はすべてが新鮮で新しい発見だから密度が濃い分、時間が長く感じるらしい。
逆をいえば、僕ら大人は短調で多忙だから、時間を短く感じる。
僕はこの時、こう思った。
「じゃあ、毎日ワクワクしておもしろい発見があって、長く時間を感じて生きていくほうがいいじゃん!」
毎日発見があって、いろんなものに感動を覚える。
その繰り返しで世界は見方によって姿を変えていける。
僕はそう確信した。
僕は、日本に帰国後、また新しい夢ができた。
「世界中を旅して音楽を奏でる。」
これが今の僕の夢。シンプルに聞こえるけど、言葉の裏には「もっと発見したい」「もっと冒険して、吸収した感動を音楽で体現したい」
そんな思いが込められている。
ほんの少しのきっかけが自分を変えていく可能性を秘めている。
旅は求める限りどこまでも続いているのかもしれない。
そう、僕はまだ旅の途中だ。
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