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サンタクロースは糖尿病

わたしの夫は、クリスマスの夜は必ずと言って良いほど家にいない。
やれ出張だ、やれ仕事で遅くなる、など理由は様々だった。
結婚当初、家族団らんのクリスマスを期待するわたしは不満に感じていたが、ここ最近は「夫はサンタクロースに違いない」と悟りの境地でいた。

そして、昨年のクリスマス当日。
夫は糖尿病で緊急入院することになった。

10年ほど前から糖尿病の薬を毎日飲んでいたのだが、日ごろの不摂生が祟ってか、食欲不振で痩せ始め、頻尿、喉の渇き、めまい、便秘と下痢を繰り返す、手足の先が冷たくて感覚が無いなど、糖尿病のありとあらゆる症状が出始めていた。

そういえば最近、朝起きると夫の口の周りにチョコレートが付いていたり、服に柿の種がこびり付いていた。
夫は、食べることが大好きなのだ。

最初、入院することになったと聞いたとき、わたしは無性に腹が立った。
だらしない食生活、運動不足、すべて夫の自業自得ではないか。
わたしは年末年始は仕事で忙しいうえ、娘は大学受験間近。
それに、サンタさんを待っている子どもたちはどうなるの。

なんて迷惑な!

その日の夜、クリスマスの日。
わたしは夫が入院している病院の前に立ち、病室にいる夫に外を見るようLINEでメッセージを送った。
夫は病室の窓から顔を出し、わたしに手を振った。

退院予定は年明けの1月10日。
入院すれば、クリスマスケーキも、おせち料理も、大好きなおしるこも食べられない。

さっきまで腹が立っていたのに、初めて保育園に子どもを預けたときと同じ「かわいそう」という気持ちで、帰りは後ろ髪を引かれるようだった。

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