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日本の一般家庭で作るSourdough Bread

 以前から気になっていたサワードゥブレッドを作ってみたものの、予想外に苦戦した記録。この記事を書きながらも何度も何度も修正し、ようやく定番の手法が決まったのでまとめておく。9割が言い訳なので、結論(道具とレシピ)だけ見たい方は目次のリンクからどうぞ。あくまでも、我が家での作り方です。


Sourdough Breadとは?

 簡単に言えば、小麦粉や果実などに自生している酵母や乳酸菌などを使って発酵させたパンのこと。ドライイーストを使って強制的に膨らませるのと違い、複数の天然微生物群共存下で発酵が進むため、軽い酸味と独特の風味が生まれる。(Wikipedia参照

何故、作りたくなったか?

 元々、ライ麦パンとか味のあるパンが好きだった。海外旅行先で出てくるパンが美味しく、だんだん日本のパンが旨いと思わなくなってきた。フワフワ感だとかバター風味だとかミルク風味だとかは要らない。そのうち、どういうわけか買ってきた普通のパンでお腹が緩くなることが多くなってきた。ドイツパンとかではそうはならない。はっきりとは分からないが、ベーキングパウダーとかが良くないのかも・・・と思うようになった。
 「それなら、自分でシンプルなの作ればいいじゃん」

情報集め

 当時、日本語での情報が書籍・ネットであまり転がっていなかった(最近はそうでもない。ここnoteでもそこそこ記事がある)。対して、海外では御大の著作「Tartine Bread」に代表されるように、れっきとしたジャンルが確立している。
 本作は日本語訳もあるが、まぁお高い。地元図書館にもないので、国会図書館で閲覧し、必要箇所のみコピーする(後日中古本をゲット)。が、店舗でのパン作りを主眼に置いているので、一般家庭向けには少々アレンジが必要。また、書籍類だと手の動かし方だの生地の状態の見極めだのを知るのが難しい。
 ここはやはり動画で。YouTubeには、一から作る様子をアップしてくださる奇特(←この漢字の使い方はいかがなものか)な方々が多くてありがたい。新旧・各国取り混ぜて観て回り、基本的お作法を学ぶ。

最終的に最もリピったチャンネルがこちら。感謝です(投げ銭したいくらい)。

この辺に落ち着いた理由はこちら。

  • 種起こしに手間をかけていない

  • 家庭用キッチンの環境ででき0そう

  • 分量を動画内外で明示(自身のwebサイトにもリンク)

  • 失敗例も躊躇なく紹介・各種リカバリー情報あり

  • トーク少な目

 海外の方々は毎日のように焼いてるので手際が良い。見てると自分でも簡単にできそうな気になってくる。こちらの方々は、視聴者たちからの相談・質問にも応じ、新しい動画にどんどん反映させている。

挑戦の日々と出てきた問題点

 動画通りに作れれば世話無いが、実際はそう簡単ではなかった。自然のものを使ってるので、お土地柄は極めて重要な要素であり、影響する範囲は多岐に渡ることがわかってきたのはだいぶ経ってからだった(理系にあるまじき迂闊さ)。

種起こし(Starterづくり)

 これができなければ話にならない。強引に生地仕込みに持っていっても確実に失敗する。一方で「種起こしに手間をかけたくない」は絶対条件で、作り始めたころからの最大の難関だった。当初参考にしていた情報では、

  • 新鮮な粉と水を等量混ぜて1日放置

  • その半量を捨てて、捨てた分と同じ量の粉と水を混ぜて1日放置

  • ↑を繰り返す

  • 1日で2倍のかさになるまで増えたらStarterのできあがり(3~5日後)

  • これを毎日繰り返す

 これでまだStarterですよ。おまけに、繰り返す間に捨ててるわ、どんどん増えるわで、SDGsはどこへやら。(途中から捨てずにとっておき、失敗して無駄に増えたのと併せてパンケーキやCrackerにしましたが)

 「乳酸菌と発酵酵母の共生」が目標なのだが、酢酸菌が優勢になってしまうと困るらしい。発酵系の研究室出身の身としては株の分離をしたいところ。pH試験紙を使ってpHチェックをしてみると、pH2~3という強烈な酸性に陥っていることがあった。匂いでわかるとも言われているものの、必ずしも一致しない。どちらかというと直接なめて確かめる方が確実だった。舌に乗せてピリピリくるとまず間違いなくStarter作りは失敗する。そして、こういう時のStarterは粘性が低くてサラッとした感じになる。水面に少しだけ浮かべてみるFloating Test(自分では、手をかざして「浮け!」と念を送るので『水見式』と呼んでる)では、上手にできると生地のままふんわりと浮くのだが、一直線に沈んだり、拡散してしまう場合はもう絶望的である。
 hoochと呼ばれる灰色の水が上層に溜まったりするのも心配の種だった。これを捨てるべきという人と混ぜてもOKという人がいて悩んだり。
 増えたり増えなかったりのムラもまた激しい。運良く増えたStarterを薄く広げて乾燥させて保存したりしたが、起こし直しに失敗するなど、一時はだいぶココロが折れそうになった。

 そして、海外の禁断の白い粉(合法)に手を出す。

 Sourdoughの本場San Franciscoより100年以上年季の入った(ホントか?)種菌をゲット。日本の業者からでも買えるが、お値段を鑑みて直接購入。生のStarterをどうやって空輸するのか、検疫は大丈夫なのか。ドキドキしながら受け取ったのは、ヒートシールされた数センチ四方のビニール袋に入れられた薄い褐色の斑粒入り粉末。手作りドライイーストとも言えるが、見ようによっちゃヤバいブツだ。(植物由来だけど食品扱いなので検閲対象外)

ま、まぁ、単なる小麦粉ということで

 同封の取説に従いActivate。全量いきなり使って失敗するのが痛いので、1/4だけ使い、残りは秘蔵(いまだに冷蔵庫の中)。このおかげで失敗は激減した。
 さらなる成功率アップのために取り入れたのが比率の見直し。元種と等量の粉と水を加えるのではなく、元種を容器の角っこにちょびっと残した状態で目的のStarter量の半量+αの粉と水を入れて併せる。Scrach法(Scraping法とも言うというこのやり方にしてから、確実にStarterづくりができるようになった。元種1:粉1:水1でも増えなかったのが1:5:5でめっちゃ増える。もっと元種の割合を減らしてもOK。おそらく、元種の割合を減らすことで乳酸菌などの共存菌が過剰に増えるのを抑制し、酵母とのバランスが取れるのだと推測される。

 海外ではパンが主食、対してこちらは米が主食でパンは時々。つまり常時生きのいい状態にしておく必要がない。少しだけ余らせたStarterを冷蔵庫で休ませておき、時々餌やりをして、必要な時にリフレッシュする方法に落ち着いた(最近こちらの方法がよく紹介されてる感じ。そりゃそうだわな)。
 冷蔵温度も低すぎないよう野菜室の片隅を定番ポジションにしている(下記一次発酵参照)。余りStarterに対し容器の空隙が大きいので、保存中に高確率で表面が乾く。hoochもほとんど出てこない。これもカビない要因かも。
 作る容器や混ぜる道具のお勧めなども様々だったが、増え方がはっきりわかるような垂直な壁の丸底のガラス製が良さそうだったのでダイソーのキャニスターに決定。蓋のはめ具合を変えることでいい感じで通気可能になるので、Starter起こし時には蓋を少し浮かせ、冷蔵庫で寝かせるときはぴったり閉める。
 混ぜる道具は適当。しっかり混ぜられればOK。内壁を整えるのも兼ねて、100均のシリコンヘラを使用している。

粉の種類

 強力粉、ライ麦粉、All-Purpose Flour(中力粉)、全粒粉・・・タンパク分○○%とか言われても、同じものがおいそれとは手に入らない。タンパク分が高ければ高いほど良さそうだが、灰分も影響するだとか、実際国産と外国産でどのくらい違うのかとか、全粒粉は自家製粉した方がいいのか、などなど迷うことがたくさんあった。
 まずは、ルーチン化できるように近隣のスーパーの強力粉・ライ麦粉のラインナップをチェックし、ネットでも良さそうな粉と全麦(製粉していない丸のままの小麦)を検索。自家製粉をするには・・・と検索してて一目ぼれしたのがMockmillやKomo Fidibusのような電動のセラミック臼による家庭用製粉機。そこそこいいお値段なので、旧タイプや中古などの出物を漁り、騒音が小さい方のKomo Fidibus(旧Hikiki)で半額程度の良品をゲット。試しに製粉してみたところ、いかにも全粒粉という感じの(つまり荒い殻がちょっぴり目立つ)粉が取れた。
 ただ、これを使っても当時問題だったStarterできない・パン膨らまない問題は解決しなかった。目立つ殻を篩でのぞかないと膨らみの邪魔になるという説もあり、自家製粉の利用はいったんお預け。高野豆腐を砕いて豆腐粉なるものも作れるらしいので、そのうち活用するつもり(いつになることやら)。
 この後、定番の粉にたどり着いたころと、StarterづくりにScrach法を取り入れたころと、発酵の見極めが安定してきたころが重なり、粉の選定だけが本当に効いたのかどうかは不明。確かに、種菌についてきた取説にも「粉も水も何使ってもOK!塩素臭い水だけはやめてね。」ってあったしなぁ・・・

 それと、ライ麦粉はぜひとも取り入れたい素材なのだけど、低グルテンのため生地がべとつき、膨らみもよくなくなる弱点がある。何回か試して1割か2割ぐらいが良さそうだと見当をつけた。この事もあって、強力粉のタンパク分は13%以上をお勧めする。Starterづくりで「前回ちょっと元気なかったかも。。。」という時は、Starterにも同様の割合でライ麦粉を使うと生きが良くなる。
 後述の成形時の最終段階でくっつき防止に使うのはグルテンのない米粉が良いとのこと。海外サイトでは『入手は健康志向の食品店で~』と紹介されてたけど、ここは日本。選びがいのある米粉がたくさんある。が、適当にストックの上新粉を使用することにした。

水に恵まれた日本

 日本と海外のパン制作環境の違いで大きな要因と考えていたのは粉と水。そこで(初めてだったかもしれないが)海外製のミネラルウォーターを買う。硬水・軟水が要因なのかも・・・という予想を裏切り、全く効果はなかった。日本は水きれいだしなぁ。。
 ただし、夏は仕込みに失敗する率が高い気がする。発酵温度の制御ミスもあるだろうが、水道水に含まれる塩素などの消毒剤が夏は多くなっているかもしれないので湯冷ましをできるだけ使うことにしている。とはいえ、くそ暑い夏にあまり湯を沸かさないので、ついうっかり忘れることも多いが。

塩にも恵まれた日本

 グルテン強化には必須とのこと。海塩が良いだのミネラル多めが良いだのと様々な説があるが、ここは日本。塩の種類なら負けていないし、スーパーで普通に売っている天然塩で十分と思われ、実際そうだった。

混ぜ方に結構惑わされた

 どの順番で混ぜていくのかも、Bakerによって結構さまざまだったりする。
   水+粉 > +Starter > +塩
という明らかに混ぜづらそうな順序だとか、『簡単に混ぜて~』とかおっしゃる方々を信じてやってたらムラになってリカバリーが大変だった。粉の種類にも依るとは思うが、各工程でできるだけ均一に仕上げる方が良いと思われた。いろいろ試してみたうちで、Starterに直接塩が触れるとアグる(凝集ができる)のが厄介だったので、粉にあらかじめ塩を分散させておくことにした。そういえば、普通にドライイーストでパン作るときも塩と離して混ぜるべしとあったような気が・・・粉も半量入れてしっかり合わせてから残りを混ぜるとダマになりにくい。底からヘラで返すようにして生地を切らないようにする。
 グルテン形成促進のためのStretch&Foil法や、いい感じに気泡を作るためのCoil&Foil法は、やはり動画があってよかったと思う。回数・程度は人それぞれなのだが、これは粉の性質に左右されそうなので、自分がチョイスした粉に合わせた手順を(適当に)定めた。
 混ぜるのに使う生地泡だて器なるものも手に入れたが(Amazonが何故か激安)、ヘラのほうが使いやすいので死蔵している。

(下)何故にこの形状?

発酵時間と温度(まさかの電気工作?)

(温度に関しては、1年中室温を一定にキープできるお宅の方は気にせず室温発酵でどうぞ)
 1次と2次があるのは定番だが、温度はやはり重要だったようだ。海外サイトでは『家の中のあったかいところ』とか『オーブンの上』とか、頼むから温度測ってくれと言いたくなるくらい適当。日本と違い、気温の変化がさほど大きくないのも相まって、至適温度がサッパリわからんかった。
 温度を示してくれるサイトもあるが26℃~30℃とばらばら。そして、我が家のオーブンでは設定できるのは最低でも37℃。小型温冷庫を改造しようかどうか悩み、最終的に発酵器を使うことを決める。
 が、既製品のお値段が高い。また、既製品は冷却機能はないため、室温より低い温度の設定は不可。いろいろ考えた結果、自作を思いつく。

実家からの宅急便で使われた箱を流用
冷却風取り入れ口(要見直し)
庫内温度がなかなか下がらない真夏・冷却ファンはカラフルにライティング
生地発酵中 ガラスボウルならカメラでリモート監視可能

 発泡スチロールケースにUSBヒーターパッドを敷き、放熱のアルミ板と少し足のある網を乗せる。冷却にはスマホ用の冷却ファン2種を組み合わせ、穴をあけた蓋から外気を冷却して取り込む方式にした。温度制御はデジタルサーモスタットを利用。既製品の約1/4のお値段で完成した。しかし、冷却ファンは結露しやすく、冷却機能は思ったほど効率が良くなかった。案の定、庫内温度を28℃に設定しても、クーラーのない我が家の真夏は平気で30℃を突破してしまうので、家の中で最も涼しい物置に置いている。冬はそこそこ安定している。ペルチェを使えば多分夏でも安定すると思われるが、結構なお値段なので見送り。そのうち、秋月電子か千石電商でパーツを漁ろう。

 温度は、当初28℃にしていたが、Starterづくりがなかなか安定しない。大体が粘り気が低く、酸っぱい感じになる。Starterの酸性度が高いとStarterが増えたとしても、本発酵中にグルテン形成が進まず、いわゆるNo  Bubbleな円盤型パンが焼きあがる。(そして涙を流しながら食べるか、フレンチトーストなどに再利用する)
 低い方が良いとの説もあり、現在は26℃に設定。自作発酵箱内には余ってたAtom Camを仕込み、蓋を開けずに発酵状態がスマホで見れるようにした。外出先でも状況確認ができるのは楽しいが、物置にWiFiを飛ばすために中継器を増設した。
 発酵を見極める条件は、Starterは約2~3倍、1次発酵は約1.5~1.7倍、2次発酵は低温で長時間・・といったところがどなた様も共通のご意見。特に1次発酵でWindow Pane Testをクリアし、発酵させすぎないことが重要。ここで欲張ると、たぷんたぷんでベトベトの生地になり手に負えなくなる。おそらく乳酸菌等が優勢になって生地の酸性度が強まり、せっかくできたグルテンが傷ついて形を保てなくなるらしい。ひどい場合は、粉を足して油を塗ったパン型に入れて無理やり焼成する。もちろんふくらみは激減し食感はよくないが味は悪くない(経験済み)。蒸しパンにするのもいいそうだ。
 2次の低温発酵は海外では必須ともいう感じなのに、日本ではあまり用いられず、1次と同じ温度で短時間(少し膨らむまでとか)が多い感じ。低温発酵のこだわりは出来上がりの風味らしいが、確かに低温発酵しないと味に差が出る(実父の実食感想より)。先日、一次発酵の一部も低温発酵にするプロセスを知り、自分の生活ペースに合った時間配分ができるので目下お気に入りとなっている。この低温発酵も、一概に冷蔵庫のどこでもというわけではなく、吹き出し口近くの比較的低温の方は良くないとか。確かどこかで、海外の冷蔵庫の庫内温度は日本の一般のものよりも若干高めと聞いたことがある。確かに下段や野菜室の方が良さそうな感じなので、そこを定位置にしている。低温発酵は長時間なので、乾燥防止にビニール袋掛けしている方もいれば、成形時の形を維持しクープを入れやすくするためにあえてかごと布だけで表面を乾燥させる方もいる。最近取り入れた後者の方がクープは断然入れやすく、いわゆるOven Spring(窯伸びによる盛大なふくらみ)もできるようになった。同様の理由で、発酵かごは通気性があれば何でもよく、100均で適当に網かごを調達した。
 布といえば、製パン用の布巾などを特別調達したくなかったので、新品のキッチンワイパーを使ったりしていたが、前述参考YouTubeチャンネルの方が蒸し布を提唱していたので使ってみたら、おっしゃる通り便利。流石日本人の方ですね。 打ち粉不要とのことだが、まだ踏み切れないでいる(昔、だれたパン生地を布にべっとり付着させてしまい、布ごと捨てたことがある小心者)。

成形

 1次発酵時に容器にオイルスプレーしておくと生地離れが楽になるそうだが、せっかく余計なものを除いたパン作りをしているのに何だかなーって感じがするので不採用。今のところいいガラスボウルをつかえていないので、生地離れのよくないステンレスボウルに甘んじている。
 成形にも諸説あり、スクリーンのようにうすーくひろーく伸ばしてたたみなおしたり、2回も成形したりと、どれがいいのやら。結局は、適切に発酵させた生地の気泡をつぶさないように優しく丸め、かつ表面はグルテン膜の力でぴんと張る感じで包み込むようにするのが良さそうだということになった。ドライイーストを使う一般的なパンの成形では、ガス抜きと称して結構しっかり目に1次発酵後の生地を潰すが、これをやるとクラムの少ない硬めのパンになる。
 加水率の高い生地であり、かつ1次発酵が進み過ぎるとべたつくため、適度に打ち粉が要るが、使いすぎるとお化けのような気泡が内部に焼成されてしまい、『焼成後の見た目は膨らんで万歳→カットしてがっかり』という目に合う。

焼成

復温
 焼成前の復温は賛否両論。だが、後述のとおり家庭用小型オーブン温度の事情を考え、余熱時間を使って室温でなんとなく復温している。多分完全に復温されてはいない。生地の張りが弱いとここでだれることがある。

クープ
 縦一直線が主流。飾りクープ入れてる人あまりいない。きれいなOven Springを目指して専用ナイフの購入も考えたが(実際はクープ以前の問題なんだけど)高すぎるので自作。

上にあるのが自作ナイフ

両刃の安全カミソリに割り箸で柄を付ける。ステンレス刃の方が作りやすい。柄を付けずに、片刃を直接持ってクープを入れるのもあり。要は切れ味の良い刃であればなんでもいい。錆びないので鉄鋼製よりステンレス製がおすすめ。

オーブン
 我が家のオーブンは、いわゆる電子レンジに付属の・・というやつ。上下から加熱はするが、温度制御はなんとも心許ない。オーブン温度の自主管理の必要性は初期のころから考えていた。参考先の海外の方々はビルトインのでかいオーブンがキッチンに普通にある。片や、日本の普通の家庭にコンベクションオーブンなんてそうそうない。一般的には250℃が限界であり、パン焼き向きを謳っている高級品(一時は買い換えようかとも思った)の300℃のオーブンでも時間制限(3分とか!)がある。さらに、メーカーの庫内温度情報を鵜呑みにしてはいけないという話を聞いて、即座にBBQ用の高温用温度計をゲットし、測ってみた。すると、「250℃で余熱」を指定し、余熱完了となっていても、実際には230℃以下であることが判明。オーブン側の余熱時間は信用ならないので、「余熱無し250℃・60分」をマイ余熱時間に設定している。

蒸気
 焼成では温度とともに重要なのが蒸気。クープが焼き固まる前に生地の膨らみに応じて広がる。バゲットを焼くときはクープにオイルを垂らしたりするとか。
 スチームオーブンではない我が家だが、海外の方のオーブンでもそんな特殊機能のあるものを使っている方はほとんどいなかった。主な方法は
①庫内に強制的に蒸気を充満させて焼く
②密閉性のある蓋付き鋳物鍋またはパン焼専用の窯ごと焼く
 蒸気は鍋内に追加もあり
の2種類。
①は予熱時にLava Rockも一緒に加熱しておき、焼成時にRockに熱湯をかけ蒸気を発生させるというもの。石から遠赤外線も出ていいぞ~という説もあり、試しに(すごく小さいが)石焼き芋用の石でやってみたところ、蒸気が大量に庫内に発生した瞬間、オーブンがエラーを吐いて止まった(汗)。マジで壊れたと思った。あとから知ったが、庫内のセンサーに影響するので、スチームオーブンを謳っていない製品の場合やめた方がいいとのこと。幸い放置したら復旧したので一安心。
 蒸気の追加方法には、パン生地に水スプレーか、氷一欠片。水スプレーはすぐに乾いてしまいそうなので、何となく氷のほうがいいかなぁと思っている。

ダブルダッチオーブン
 小さいオーブンは開け閉めするだけで庫内温度が激変する。上述の蒸気の問題もあるので、②の鍋か窯を使う方法がメジャーになっている。キャンプ用品でおなじみのダッチオーブンタイプで、蓋も調理に使えるダブルダッチオーブンをチョイス。オーブンに入るサイズかどうか確認が事前に必要。我が家では庫内天井のヒーターギリギリの高さなので、出し入れするときに接触しないよう気をつけている。最初に買ったOvermontではなかなかうまくいかず(多分他の要因もあるだろうけど)密閉性が悪いんじゃないかと疑い、別メーカーのLodgeに買い替えた。当然だがこの手の器具はクソ重たい。そして我が家のオーブンはだいたい肩の高さくらいのところにあるので、250℃に加熱した鉄鍋を持ち上げて出し入れする。毎回やけど回避との戦い。特に夏は袖の無い服なので気合が入る。
 鋳物鍋を使うので予熱時間も長めに設定。電気代が気になるところだが、毎日焼いてるわけでもないのでさほど高くなった気はしない。
 また、ダッチオーブンや専用窯を使う時のスタンダードな焼成のプログラムは、
  ①250℃以上の高温で20分くらい
  ②蓋を外して200〜220℃にして5〜10分
なのだが、この方法だと、オーブンがちゃちいせいか、最終的に焼色が上面に偏りがち。なので、②で蒸気逃がしに蓋をずらす程度で、温度も下げずに焼く方法も検討中。

ミトン
 前述の通り、クソ熱くて重い鉄鍋を出し入れするのに普通のミトンは危険だった。耐熱とはミトンだけが耐えられるだけということであり、熱は通過。マジで手まで熱くなる。そのうちミトンが耐えきれずに焼けて穴が空いてきたのでプロ用でも買おうかと調べると、断熱ミトンなるものを初めて知った。これものすごくいい。見た目が家庭用っぽいのもいい。高いけどオススメです。

冷却
 焼成後の冷却にはセリアのスタンドロースターを使用。簡単に足が作れて、焼けたパンの底が蒸れずに放冷できる。

消毒は必要なのか?

 きれい好きな日本の皆様は、やたら熱湯消毒だの納豆菌コンタミ防止だのに気を使ってらっしゃるが、そもそも微生物「群」を鍛え上げて使うのがSourdough。ちょっとやそこらの雑菌など気にしなくて済むようにしたい(めんどくさいから)。
 なので、ただの一度も消毒作業はしていない。実際、目に見えてカビが生えたことは一度もない。

現在のSourdough Breadのレシピ

 以上の検討を踏まえて確定した我が家での基本レシピはこちら。いろんなサイトからのいいとこ取り。Window Pane Test・Stretch&Foil法・Coil&Foil法・成形法はこちらの一押し動画も参照のこと。
 食べたい2日前(前回作ってから1週間を超えていたら3日前)より準備を開始する。Starter起こしの12〜24時間と仕込み&一次発酵の数時間を確保できるスケジュールから逆算する。
 発酵箱の温度は26℃に設定し、室温・冷蔵以外では発酵箱に置く。2次発酵以外は蓋などで乾かないようにする。
 当然だが、明らかにカビた場合は安全のため思い切って廃棄すること。

材料

 強力粉 270g + α(打ち粉用に多めに用意)
  スーパーでも見かける『日清 パン専用小麦粉
  打ち粉用はふりふりストッカーに入れておく
 ライ麦粉 30g
  適当な市販品
 塩 6g
  適当な市販品
 米粉 打ち粉用
  適当な市販品 ふりふりストッカーに入れておく
 水 210g
  水道水でOKだが、夏は湯冷ましが良いかも。加水率は72%。

道具

ボウル
 本当は発酵の具合がわかる垂直体が良いが、発酵前後の作業がしづらい
 ガラスのほうが生地離れが良い
 蓋有りがよいが、なければビニール袋に入れるなどして乾燥防止
スケッパー
 ボウルの壁面に沿う形状のものとストレートのもの両方あると良い
発酵かご
 何でもOK
蒸し布
 ダイソーのものでOK
Starter用容器
 ダイソーのガラスキャニスター(ステンレス蓋付、240mL)
クープ入れナイフ
 ステンレスの両刃安全カミソリと割り箸で自作
オーブン
 一般家庭用 250℃まで
クッカー
 LODGE(ロッジ) ダブルダッチオーブン L8DD3
断熱ミトン
 グッとつかめる耐熱ミトン
ベーキングシート
 クッキングシートより(繰り返し利用できる)こちらがおすすめ
スタンドロースター
 空冷できればなんでもいい
他、発酵箱、Starterや生地を混ぜるヘラ(小と大)、粉フリフリストッカー など

Starterを起こす

 冷蔵庫の野菜室でお休み中のStarterの様子を確認。乾いている表面部分を取り除く。
 前回作ってから1週間を超えていたら、5gの強力粉と水を加えて混ぜ、容器内を整えて約12時間置く。うっすらと細かい泡が見えていたらOK。ダメなら一部を捨てて同じこと+砂糖をちょびっと追加してさらに約12時間置く。
 この元種に30gの強力粉と5gのライ麦粉と35gの水道水(夏なら湯冷まし)を加えて混ぜ、約12時間置く。

発酵器に入れたところ

2倍以上に膨らめばOK。

12時間経ってないけどいい感じ
蓋を少し浮かせると通気状態

ダメなら(汗)、約60gを取り分け、同様の粉・水を混ぜて12時間置く。(取り分けたダメStarterは冷蔵・冷凍しておき、パンケーキとかに混ぜ込む)
 出来上がりは、軽いフルーツフレーバーのような香りがする。(日によって違いあり・多分微生物群の種類による)

生地を仕込む

 ボウル(ガラスが良いがステンレスでもOK)に水210gと活性化させたStarter60gを併せる。最初少しだけStarterを浮かべてみて状態を確認。全体をムラの無いようよくヘラで混ぜる。

きっちり分散

 余りのStarterは密閉し、冷蔵庫の野菜室で休ませる。

ほんとはもう少し内壁をヘラできれいにすべし

 別容器に強力粉270gとライ麦粉30gと塩6gを量り入れ、Starterを混ぜたヘラで全体を均一になじませる(洗い物を減らす)。

まぜまぜ

その半量を水+Starterに加え、いったんヘラでダマが無くなるまでよく混ぜる。

まぜまぜ2

後に残りの半量を加える。全体の粉けがなくなって均一になるまで、底から返すように混ぜる。すでに水和(グルテン形成)が始まってるので、あまり激しく混ぜない。

混ぜるというより粉に水気を吸わせる

 スケッパーでボウル内を整え、蓋をして室温または発酵箱で30~60分置き水和させる。この時の大きさを覚えておく

いつも同じ要領で作れば覚えなくても・・・

グルテン形成(Window Pane Test・Stretch&Foil法・Coil&Foil法)

 粉類を計ったボウルはそのままFinger Bowlにする(洗い物を減ら[以下略])。指を水で濡らし、Window Pane Test(生地を両手でつまんで薄く膜状に延ばせるかどうか)をする。

撮影のため片手でやるのがつらい・・・

もうかなりグルテン網ができているが、さらなる強化のためにStretch&Foil法を行う。生地の端をつまんで上へ伸ばし、

ほんとはもっと上まで伸ばせる(撮影のため片手なのでできていない)

戻しつつ生地の上に乗せてたたむ。

優しく乗せる

ボールを回しながら、つまむ端を移動させて順繰りにStretchする。柔らかいところを探りながら回してStretchし、だんだん生地が固くなって伸ばしにくくなるまで行う。

明らかに生地に抵抗感が出てくる

生地を整えて

室温または発酵箱で30~60分置き、

少しダレる

もう一度同様にStretchをする。濡らしたスケッパーで上下さかさまに返す。

 室温または発酵箱で30~60分置く。この時の上の面が焼成する時の上の面(パンにとっては顔?)になるので、この先はきっちり張りを出すようにしていく。

 できたら、気泡の形成促進のためにCoil&Foil法を行う。発酵はすでに始まっているので、生地を優しく取り扱う。

少しだれるけど、若干膨らんでいたら順調な証拠

硬めのスライムのようになった生地の左右両サイドから下面に手を入れ、上に持ち上げつつ、上の端を下面にCoilのように丸め込ませる。

上の端が下面に丸め込まれてます

同じく下の端も下面に丸め込ませる。

判りにくいけど、下の端が下面に丸め込まれてます。

ボールを90°回転させ、同じ作業をする。

上を丸めた


下も丸めた

 スケッパー要らずで生地を持てて、生地の表面に気泡が入っていれば順調。大きい気泡は破っておく。詳しくは上記紹介YouTubeのお手本動画参照。蓋をして発酵箱に置く。
 スケッパーは洗って乾かしておく。

【この段階で一旦低温発酵に持ち込むのもあり。下記一次発酵を見極める時間が取れなさそうだったら、蓋をして冷蔵庫に放り込んでもOK。この間も発酵が進んでいる。】

1次発酵

 最初の仕込みの時点を基準として1.5〜2倍の大きさになるまで発酵させる。少なすぎると出来上がりが膨らまず、多すぎると焼成時に生地がだれる。ここも出来上がりの肝の一つ。
 Starterの生きのよさ加減と発酵温度によって時間が変わるので、融通の利く時間帯にここのステップを合わせる。大体3~6時間。
【一次発酵を低温にすると、生地の温度が低いので次の成形がしやすい。発酵が足りないようなら室温か発酵箱で追い発酵させる】

成形・2次発酵

 発酵かごに蒸し布を敷き、米粉を振っておく。

(きちんと均一に振りましょう)


 生地の表面に強力粉を振る。

(きちんと均一に振りましょう)

台の上にも薄く強力粉を振り、生地の入ったボウルをひっくり返して自然落下で台に乗せる。
 発酵がしっかり進んでいるとボウルから生地が離れやすいが、スムーズに離れないときはスケッパーで剥がして助けてやる。

もっときれいに剥がれてほしいのに・・・


 以下、必要に応じて強力粉で打ち粉をするが、振りすぎないこと。優しく20x20cmくらいの正方形にし、


縦三つ折りにしたら、


上端からゆったりとロール状に巻いていく。

(少しだれ気味・・)

巻き終わりを下にしたら左右を軽くつまんで閉じ、天地さかさまに優しくひっくり返して持ち、かごに入れる。

巻き終わり部分を軽くつまみながら表面(かごの底面にあたってる方)を張るように引っ張って閉じておく。米粉を振り、蒸し布の余分をかけて冷蔵庫の下段以下(直接冷気が当たらないところ)で12-24時間おく。

 表面(パンの底になる面)を指で軽く押して、ゆっくりとへこみが戻る感じならOK。だいぶ乾いているくらいがちょうどいい。

(軽く膨らんで、なんか亀裂入った・・)

焼成準備・仕上げ

 オーブンにクッカーを入れて250℃で30-60分余熱。オーブンの余熱機能の言うことは信用しない方向で。同時に、冷蔵庫から生地を出し、室温でなんとなく復温する。
 時間が来たら、発酵かごにベーキングシートをかぶせ、手で押さえて一気にひっくり返す。台上において、かごと蒸し布をゆっくり外す。

ここで生地がだれてこないのが大事なチェックポイント。多少生地本体が緩めでも、表面全体が乾いていると案外形を保つ。

クープを入れる。上になる方の際を少し立たせるといいっぽい。


焼成 

 250℃になっている(はずの)ダッチオーブンを取り出す。クッキングシートごと生地を持ち上げて中に入る。シートと鍋肌の間に製氷皿の氷1個を入れ、すぐに蓋をしてオーブンに戻す。 250℃20分焼き、蓋を外して210℃に設定し直し、10分焼く。焼色はお好みで延長可。


 中身が90℃以上になっていればOKとのこと。天ぷら用の温度センサーをぶすっと挿して測るのもよいが、オーブンの癖が掴めたら毎回せずとも良い。底を叩いてコンコンいい音がしたら足のある平網に乗せて1時間空冷する。

食べ方・保存

カット
 焼き具合をチェックするためにも、まずはど真ん中を一刀両断(すごいドキドキする)。外はカリッと・中はもっちり、全体に大小の気泡がバランスよく入り、カット後のナイフにしっとりめのパン屑が絡み付くくらいが好き。食べる分だけ1~1.5cm幅くらいにスライスする。

焼き方
 食パンのようにこんがりさせてはいけない。トースターで温める程度がベスト。焼成空冷直後は温め不要。少し日のたったパンは外面がしんなりし、内側が固くなった感じだが、温めるとあ~ら不思議。『外カリッ・中もちっ』が復活する。よって、温かいうちに食すべし。パンとは思えない爽やかな香りを楽しめる。

保存
 スライス前なら室温でそのまま保存可。糖分だの油類だの動物性たんぱく分だのは入っていないので、カビる心配がきわめて少ない。中央から左右へとスライスしていくのだが、その断面をぴったり合わせてジップロックに入れて冷蔵庫へ。

真ん中から2枚切り出したところ
残りは上部のように断面を合わせて乾燥を防止


 ビックリするくらい日持ちする。重ねて言うがカビが生えたことは一度もない

今後は・・

 いくつもの失敗作を経てようやく基準のお作法が確定。気は使うけど工程そのものはとてもシンプル。ずぼらな私にはちょうどいい。Starterの完成度が上がってきてるので、ライ麦100%とか、全粒粉入りとか、違う種類のパン作りにも挑戦してみたい。
 それと、ベリー類などの果実についている酵母を増やしてみるというのもやってみたいところ。梅シロップ作りに使った梅からも取れるらしいので、挑戦予定。


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