ポケモンマルチバース考察⑥

 昭和にはレジェンドキャラがいた。キャラ自体は一人ではないが、性格もほぼ同じで、中の人が同じだったので、いつも同じ魂のキャラを見ていた気持ちになるのだ。ざっと50年間もだ。中の人、すなわち声は昭和のレジェンド、野沢雅子さんだ。この方の声のアニメを通っていない日本人はまずいない。悟空の声といえば知らない人はいないだろう。これを通っているとマルチバースの世界観にすんなり移行しやすい。

 風大左衛門(いなかっぺ大将)→鬼太郎(ゲゲゲの鬼太郎)→ひろし(ど根性ガエル)→星野鉄朗(銀河鉄道999)→孫悟空(ドラゴンボール)だ。性格はほぼ似たような、直情的な熱血漢で10歳〜数百歳(妖怪だから)の男子。大左衛門と悟空は、難しい事はよくわからないが正義感が強い文句なしの脳筋キャラでサトシに通づるものがある。主語は、「わし」「オラ」なので、絵に描いたような垢抜けない田舎育ちの主人公で、多くの少年達には親近感があった。鉄朗とひろしは前の二人のように人間離れしてない年相応の子供なので、いろいろ苦労する分少々クセがあるが、やはり脳筋だ。鬼太郎は年齢が人間ではないので長く生きている?分冷静で知性的だが、いざとなると脳筋が発現するので、全員ほぼ脳筋と言っていいだろう。これは少年が主人公のアニメの定番だったのだ。

 悟空の旧友クリリンは(中の人が)ルフィに転生しているので、そちらのルートもあって、こちらもなかなかの脳筋キャラだが長いなるのでここでは説明を省く。

 過去に何度か書いた気もするが、星飛雄馬→ヤムチャ→アムロ→星矢→地場衛というルートもある。特筆すべきは星飛雄馬とアムロ・レイが同じ人という点だ。アムロというとコナンの安室もあってやや紛らわしいのだが、昭和世代がアムロといえば圧倒的にガンダムのアムロの事を指していて、うっかりすると話が噛み合ってない場合もある。この路線は日本のアニメ史上の重要なポイントなので押さえておこう。

 こういった変遷を語り出すと話が長くなるので省くが、野沢熱血漢主人公ルートは別格なのだ。アニポケの主人公が変わってもピカチュウの声が同じで安心した人も多いだろう。そうだその気持ちなのだ。こうやって、アニメ視聴者は、同時代の作品を超えた異世界転生に慣らされていったのだ。アニオタに声優に異様なまでの情熱を注ぐ人達がいるのは、こういった変遷を理解し、自分に引っかかる対象が分かっているからだ。

 原作とアニメ化された作品のキャラはしばしばイメージが違う事があって、コアな原作原理主義者が不満を持つ事があるが、長年放映してきたアニメにはどう足掻いても勝てない。999やドラゴンボールはアニメ化前以前から知っているが、鉄朗の声も悟空の声も、もはや不動のイメージだ。鬼太郎もあの声しか浮かばない。あの声でないサザエさんやドラえもんがもはやイメージできないのと同じだ。そんな昭和生まれは多い筈だ。時間が経てば経つほど、その傾向は強くなっていく。だから声優の交代は、アニメ作品にとってしばしば存亡のかかった重大事項と言って間違いない。主人公サトシの声が代わるぐらいなら、主人公自体の変更になるのは正解だ。ピカチュウももはや、あの声以外はイメージできないのは皆、わかっている。

 原作のサトシと言った時点で原作原理主義は破綻している。どのサトシが本物のサトシだというんだ?原作のサトシ自体が時代や、こうした流れから派生したコラージュのコピーなのにだ。サトシもそうした熱血少年主人公路線の流れの中にいる後継者だ。サトシがスーパーマサラ人と言われるのも、サトシが悟空型主人公の後継者である事を皆がわかっているからだ。難敵が現れたときのリアクション。悟空「オラワクワクするぜ」サトシ「ワクワクする」って、ああ、制作側もわかってやってる。サトシはやはり悟空の後継者だよな。

 サトシがコロッケ好きなのも、昭和の少年キャラの後継者である事を証明している。コロッケ好きは、敗戦後の昭和20年〜ハンバーガー(ハンバーグが社会性を持って広く食べられるようになる)昭和50、60年代の間に育った者の嗜好で、当時の制作側にその世代が多かったのだろう。昭和生まれはコロッケ好きが多いのだ。ちなみにハクション大魔王のハンバーグ好きも実は元々はコロッケ好きだったが後天的に変更された経緯がある。ピザのように手掴みでハンバーグは食べない。アレはどう見てもコロッケだ。ハンバーガーが普及する前の時代なので、ハンバーグを手掴みで食べるという不自然な表現になっている。ハンバーガーじゃないぞ、ソースの付いた油ギトギトの挽肉の塊を手で掴んで食べるんだぞ。いくらアニメでもアレだ。コロッケ好きを前面に出したサトシはキャラこそ平成だが中身は昭和生まれなのだ。

 声だけではない、キャラデザインにおいても、明らかに転生(オマージュともいう)者というキャラはいる。こと、ポケモンにおいては、有名どこの転生者がゴロゴロいて、古いところではバカボン一家も登場したし、その忍者ナルトだよねというのもいたし、最近ではポケモンリーグの王者ダンデとライバルのキバナが並んでいる姿に既視感を覚えた人も結構いたようだ。あのキャラ設定は鬼滅の刃の炎柱煉獄杏寿郎と音柱宇髄天元だろう。リザードンで炎を使うダンデと炎柱煉獄、派手好きなキバナとやはり派手好きな宇髄。見る人が見ればすぐにピンとくる。当の鬼滅でも彼等は現代に転生したシーンが最後に描かれていて、かようにアニメ界隈では転生は日常的に行われている。

 ここは、新シリーズにも繋がる重要なポイントになってくる筈だが、そもそもポケモンマスターとはなにか。サトシは10歳相当の子供なので、世界中のポケモンと友達になる事という表現になるが、やはり、本人はイマイチわかってない。わかってないからポケモンマスターになれないわけではないが、サトシに語らせるのは酷というものだ。

 一度、ポケモンマスターの定義を考えてみよう。

1.マスタークラスで優勝し、ポケモントレーナーの頂点に立った事がある。マスタークラス入りしており、ポケモンリーグで頂点に手が届くランキングにある。

 但し、常に頂点は求めていない。実は、ポケモンリーグからのアプローチでは、チャンピオンにはなってもポケモンマスターにはなれないのだ。ダンデがポケモンマスターではない理由の一つがこれだ。
 生来のポケモンマスターの資質はある筈のサトシだが、ムラっ気が大きくて、間が悪いとコロコロと負ける。初期にバッジがなかなか獲得できるほど勝てなかったのは、そもそもポケモンマスターがポケモンバトルからのアプローチでは到達できない性質のものだからだ。頂点まで登り詰めた上で、それが体現できないとポケモンマスターではない。優勝時の11歳のサトシがそれを言語化すれば、すべてのポケモンと友達になるという表現になるのだろう。アニポケに出ているかは未確認だが、Nというゲーム展開上のキャラがいて、ポケモンはトモダチ、人間からポケモンを解放という過激な思想を持っていた。ポケモンは友達路線は危うさも含まれている。どう差別化するか、真剣に考えないとポケモンマスターの位置付けが微妙になりはしないか?

2.勝ち負けにあまりこだわらない。これは戦う動機の問題だ。納得のいかない勝ち方はしないといってもいい。

 定義化すると難しいのだが、勝ち負けには拘らないが、マスタークラス相当の実力は保証されていなければならないだろう。強さだけでいうなら、チャンピオンのダンデが山頂に立つなら、ポケモンマスターは山頂にある平地に立つ者というのが適当か。例えば、勝ちに拘るあまりにリザードンの力任せの攻撃で一方的に叩きのめすやり方はポケモンマスターの戦い方ではない。勝つための戦いで強くなって失敗した例として用意されたのがダンデだろう。

3.ポケモンに信頼されている。

 ポケモンとトレーナーは、剣闘士とローマ市民の関係に似ている。悪い言い方をすればポケモンは殺し合いの道具だ。文字通りの道具としてポケモンを扱うトレーナーをポケモン達が信頼するだろうか?ポケモンの痛みや苦しみを理解して、ポケモンの成長やバトル後のケアに努力しないトレーナーではダメだ。この悪い見本がシンジだ。本当に見本過ぎるので、誰かに見せるためにわざとやってる感じすらある。

 (一部、名前を混同していて、シンジとシゲルが混同していたので直すが)シゲルもあっさりポケモントレーナーの道を断念して研究者になったのも、誰かの為に動いているとしか見えないのだ。
 サトシとシゲルはゲームの主人公キャラのレッドとグリーンからきていて、幼馴染でライバルで親友で元々、仲は悪くない。サトシとシゲルの関係はレッドとグリーンの関係がそのままアニポケに転用された感じだ。ポケモンマスターの初期のイメージは、おそらくレッドからきている。ただ、アニポケでレッドがポケモンマスターとして登場する事はないだろう。別のポケモンマスター像を作ってくる筈だ。

 サトシは神レベルから悪に分類されるポケモン、ウルトラビーストにまで信頼されている特異なキャラだ。アルセウス、ジガルデ、カプコケコなど神様級のポケモンに信頼され、貸しすらあるような関係だ。カロスの守護神ジガルデはサトシとゲッコウガをみて人間を信じてみようという気持ちになった。カプコケコは言葉を持たないので分かりにくいが、最初からサトシを全面的に信頼していた。カプコケコは時間移動ができるので、過去か未来まで含めて築かれた強い信頼関係だろう。ポケモンマスターは現世の努力だけで到達できる境地ではないのだろう。

 サトシの場合、あまりにも異常過ぎるが、これがポケモンマスターのマスターたる所以だ。これは条件の中で一番高いハードルだろう。これはマスタークラスでもほとんど該当者がいない、一人を除いて。まだ明かされていない部分も含めて、シロナにはサトシと同等以上のポケモンからの信頼があるのは感じられる。考古学と歴史を専門にするシロナは、人間とポケモンの歴史を俯瞰して観る事ができ、感情に流されない正確な判断ができる。彼女は神レベルのポケモンと面識もあり、意思疎通の通訳のような役割を負う事がある。

 ポケモンは人の言葉を解するが、一般に人にはポケモンの言葉がわからない。ポケモンは、ピカチュウなら、ピカ、ピカチュウ、ピカピカ、ピカピに長音や濁音のバリエーションを加えた10ぐらいの単語ぐらいしかないが、人の言葉の理解する点から考えて、総じて人よりも高い知性を持っている。こうした存在と普通に意思疎通できるシロナは極めて特殊なのだ。

 考えられる限り、シロナがポケモン世界で一番できた(一般的な生活スキルは問わない)人格を持つキャラである。ここまでの条件でみると、現世限定の総合点では、サトシよりもシロナが最もポケモンマスターに近い事もわかった。シロナは何者?この疑問の答えを埋める最も安易な回答は、シロナが前ポケモンマスターの血縁者か、ポケモンマスターとしての遺伝子を継ぐ者であるという展開だ。

 将来有望なのは、ジガルデコアのプニちゃんを懸命に守ろうとしたユリーカだ。ジガルデはサトシとゲッコウガの関係をみて人間達を信用してもいいのでないかと考え、人間を生かすために世界の滅亡を阻止した。ユリーカがポケモントレーナーになった時にはユリーカの手持ちポケモンになるのを約束したのもまんざらではない様子だった。

 まあ、XYのメンツは、劇場版の方でほぼすべての伝説ポケモンと面識があるといえばあるので、ありえないぐらい伝説級のポケモンを知るユリーカは、シロナを軽く超えそうな一番の有望株かもしれない。

4.カントー出身である。これはサトシの時代限定になるが、カントー出身のトレーナーは他の地方のトレーナーより頭一つ抜けて強いと言われている根拠として、ある遺伝子の影響があるという設定が想定されている筈だ。ここにオーキド博士が関わっている事は間違いない。この条件は出生の問題で、例外はある。ポケモンマスターはサイコロを振った偶然や、ポケモンバトルの戦績からは生まれてこないという結論になるだろう。ポケモンマスターになるための努力が無ければポケモンマスターの高みには到達できないが、高みに到達してわかるのは、身も蓋もない話になるが、ポケモンマスターは努力ではなれないという事だ。

5.ピカチュウを連れている

 これは、ロケット団がなぜあれほどにサトシのピカチュウにこだわったのかの答えでもある。ゲッコウガやルカリオなど、ピカチュウより明らかに強いポケモンはいるのにだ。彼等のポケモンマスター像のマスターがピカチュウを連れているからだろう。この点は、新シリーズのアニポケに引き続かれているとみている。

 新無印で、サトシはカントー拠点に戻った。オーキド研究所を離れ、サクラギ博士の研究所が拠点になる。これはサトシの扱い方が代わった事を意味する。シゲルが研究者の道に入った事も関係しているかもしれない。

 XYZでジガルデがゲッコウガに協力を頼んだ時のサトシは40、50代の精神状態だったが、ハナコとアローラに行った時のサトシは難しい話はわからない10歳相当の子供だった。この間にサトシの身に起こった事を考えたくない。マルチバースとして理解していかないと悲惨なストーリー展開になるからだ。

 短期間の間にシトロンは、拐われて記憶を改ざんされて別人に洗脳されかかる。また、ジムリーダーの代理のシトロイドをリカバリーさせねばならず、そうすれば過去の記憶を失うという選択を迫られ、躊躇するシトロン。シトロイドはロボットなので、以前と同じ環境で同じ行動パターンを繰り返せば愛着のある姿に戻す事はそう難しくない筈だ。人間とは違う。あれはこれから記憶を失う人間を対象にした時の悩み方だ。なぜシトロンは、短期間の間に続けてこんな目に合い、あんなに深刻な顔で悩んでいたのか。これから予想されるサトシの近い未来の姿が重ねられていたからではないのか。最後の走馬灯のような回想シーンはサトシの記憶?
 リカバリーされたシトロイドが人間のように記憶を取り戻して行く過程。サトシもこうやって、過去を取り戻すというのか?ジムリーダー達とバトルした記憶、シトロンの発明品の爆発に巻き込まれた記憶、ゲッコウガを使いこなせない事で病み、セレナに雪玉を投げつけられた記憶。サトシは記憶をリセットされても、サトシゲッコウガとはリンク状態にあるので同時にサトシゲッコウガもリセットされない限り、完全にはリセットできない筈だ。それがXYZのサトシであればだが。

 新無印で再会したサトシのゲッコウガはXYZ時の頭の赤いサトシゲッコウガではなかった。ゲッコウガとサトシはシンクロ状態にあるので、ゲッコウガがサトシと認めている事は間違いない。ただ、XYZのサトシとは別のサトシだったという可能性はないか?この時のサトシはルカリオとシンクロする方に忙しく、ゲッコウガにはほとんど指示を出していなかったせいなのか。単に作画上の問題なのか。SMのサトシと新無印のサトシとXYのサトシが別人という可能性で考えてみよう。

 カロスからマサラタウンへ戻った時、手持ちのポケモンはオーキド研究所に預けられただろう。ピカチュウはサトシと同じ場所にいれば同じだろう。ポケモンの中には精神や記憶を操作できる種類のものもいる。ジョーイさんやジュンサーさんですら人格を変えられ別人にされた事があるので、ポケモンに精通している博士ならそう難しい事ではない。

 ゲッコウガだけがカロスでの記憶を持ったままジガルデと共にサトシのカロスの時間の続きを生きている。ジガルデはサトシとゲッコウガの関係を高く評価していた。これを失わせるのはポケモンと人間にとっての大きな損失だ。ゲッコウガは自分が受け持つ。これがあればサトシはあの時の自分を取り戻す事ができる。ゲッコウガを借りたのは、その特殊能力のためだけでなく、ジガルデの優しさだったのかもしれない。ユリーカとの約束を果たそうとする気持ちを持ったジガルデならあり得る事だ。ジガルデ案外いいヤツ説が立ちそうだ。

 既に指摘があるが、ボルテッカーズのモリーは完全に怪しい。間違いなくジョーイさんの擬態だ。ジョーイさんはポケモンセンター勤務でない時はしばしば擬態しているので、それ自体はそう驚くまでもない。ただ、ラッキーを連れて、職能を維持したまま擬態している点が重要だ。これは正規の職務だ。プライベートではない。ジョーイさんが世間に認知されているからこその強めの変装だ。通常、ジョーイさんは博士達とは一緒に行動しない。◯◯博士付きの研究所勤務のジョーイさんはいない筈だ。ミュウツーのような事件が起こる事を予防するためには、なるべく同じ箱の中で勤務しないよう倫理規定があってもおかしくない。博士とジョーイさんはポケモン世界の二大権威職であるから、同じ飛行船の中にいるのは異常事態だ。(優しいジョーイさんが視線鋭いポケモン監察官になってジムリーダーの実力を査定する事も知られている。トレーナーとしても相当な実力者なのだ。)更に、その上にキャプテンピカチュウがいる。もう明らかにパワーバランスがおかしい。存在自体が危険視されて当然だ。だから隠さねばならない。ボルテッカーズは何か目的があって特別編成されたチームだろう。少なくとも中心メンバーは。目的もなく偶然集まった連中の寄せ集めでは無さそうだ。あんな外見だが明確な目的があって編成された筈だ。

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