ウオノラゴンの生命倫理 メガシンカとテラスタル

 ウオノラゴンが何者かというところから説明していくと、発掘された化石から復元した(正確な復元に失敗した)キメラのようなポケモンだ。そんなキメラが既に存在してしまっているのが新無印の世界線だ。そしてその存在自体が、やはりかなり微妙なのだ。ステゴザウルスのようなリュウの下半分を逆さに立たせて尻尾の先に、シーラカンスに似たサカナの頭部を取り付けた形態をしている。アニポケもゲームも見た事のない人には意味不明だろう。

 もう少しメジャーなポケモンで分かりやすいイメージで言うと、リザードンを胴体で真っ二つにして下半分を、尻尾を上にして無理矢理立たせて、尻尾の先の炎にコイキングの頭を刺して取り付けた形だ。まあ、人魚のミイラみたいなものだ。これがちゃんと一個の生物として生きてしまっているのだ。

 こう書くと、いかにウオノラゴンが生命倫理的にアウトなポケモンかわかる筈だ。少なくとも、ジョーイさんはこんな違法な再生は認めない(治療はする)だろう。もし、サトシが、外科手術的に自分のポケモン達をこんな姿にされたら、シエル・ファントムハイヴよろしく、悪魔に魂を売ってでも復讐に走るぐらいのやばい代物なのだ。でもドラゴンの専門家のアイリスはかわいいと言っていた。元の姿がわからず、既に存在してしまっている場合はこんなもんかもしれない。

 ポケモン世界の人間達の一般的な倫理観は大概こんな感じだ。ポケモン博士達は、最前線でそれを実際にやっているだけで、博士達が正気とは思えないサイコパスの異常者というわけではない。むしろ、博士達の理性が、生命倫理の一線を容易に超えようとする一般社会の倫理観を押し留めているとみるべきだろう。

 フラダリもこういう外道な倫理観に憤慨した。それ故に、いずれサトシが闇堕ちフラダリコースへまっしぐらになるのは時間の問題なのだ。元が無機物の化石で、データー化され、復元されたポケモンの合成だからギリギリ許されている?のだろう。少なくとも、間違いとはいえ勝手に新種のポケモンを作ってしまったのだから、存在しないフランケンシュタインを作ってしまったのだから普通は一大事だ。

 一体、なんでこんな事になってしまうのか?リュウの下半身とサカナの頭を誤って同一体に繋げて再生させてしまうものか?それはそれで凄い技術なのだが。

 なぜこんな間違いが起こったのか。実際の化石再現の際にも同様の間違いがあったが、何も前例がないものを組み立てるには、分析力だけでは不十分で、科学者にも想像力が必要だ。だから今流行りのAIの画を見ていると、AI任せに化石からの再生を行えば、人間よりもダメな画の復元図を描くことになりそうだ。

 前例とは、例えばヤドンというポケモンがいる。コダックと双璧のぼーっとしたポケモンで、通常、二足歩行できないのだが、尻尾の先からうまみが出ており、これにシェルダーという巨大な貝が食い付くと重さで身体のバランスが取れて、二足歩行が可能になる。シェルダーとヤドンは絶妙な共生関係にある。ヤドンは自力移動がなんとかできる程度で、思考力もほぼない。武器らしい武器もなく、食物連鎖の最底辺のようなポケモンだがシェルダーとの共生で、最終的には頭にシェルダーが食いついてヤドキングになると、人間を諭す高知性のポケモンになる。ウオノラゴン、まさかAIが了解しました、このタイプですね!と判断したのか?

 メガシンカは元々は、AZが3000年前に使った最終兵器のエネルギーの残滓のようだ。多くのポケモン達から奪った生命エネルギーによってフラエッテを生き返らせた装置を、兵器に転用してカロスを滅ぼしたAZ。自身もその中心にいて過剰な生命エネルギーを浴びたせいなのか、3000年経っても生き続けるフラエッテとAZ。その時に、兵器に使用する大量の生命エネルギーを溜めていた水晶の塊のような岩石がアレではないか?ヒャッコクシティの日時計。そこから割れたり崩れたりで分離した石がメガストーンではないのか?

 メガシンカの出自はまだ明らかにされていないとはいえ、プラターヌ博士は薄々勘付いていて、このエネルギーをメガシンカに使うというのはわりと危うい橋を渡る行為だ。プラターヌはメガシンカを手放しに全肯定している感じではない。むしろ慎重派にみえる。ジョーイさんのようなプロ意識の強い抑制力のある専門職には、メガシンカ化の協力を惜しまないが、未熟者のアランにはメガシンカを簡単に与えない方がいいとプラターヌは判断した筈だ。だからアランはメガシンカを簡単に与えてくれるフラダリに着いたのだろう。

 テラスタルとメガシンカとの関係性はまだわからないが、テラスタル化もメガシンカもポケモンにとって身体に大変な負担がかかる危険なもののようだ。メガシンカを使い続けると身体が黒く変色が始まる。溶けて変形したポケモンもいる。通常、メガ進化にはキーストーンとメガストーンが必要だ。例外はサトシとゲッコウガだ。特定のポケモンに対応するメガストーンのみメガシンカ可能なのは、エネルギーを奪取したポケモンの特性が部分的にそのまま残ったからだろう。

 石を使わずにメガシンカ状態になるゲッコウガとサトシの場合、サトシの方に気絶する程の大きな負担が行く。キーストーンには電気回路の抵抗のように一方への流出を止める機能があるのだろう。メガストーン側のポケモンから強制的にエネルギーを引き出して、キーストーン側の人間からの流出を止める感じか。なるほど、それならポケモンから生命エネルギーを集められる筈だ。

 いずれにせよ、生命エネルギーのやり取りを長く続けた結果は、ポケモンと人間は大きな代償を払う事態になる。理由なしに軽い気持ちで濫用していいメガシンカ技術ではない。アランの黒いリザードンは、だいぶ変色が進行している。全身が黒くなっているのでやがて戻れなくなるだろう。その結果、何かが起こればアランは責任を負う事になる。また、フラダリの時と同じ事をしてしまいそうだ。プラターヌ博士が近くにいれば、なんとか食い止めらそうなのが救いか。

 こういうものは大義名分なしに使ってはいけないものだ。るろ剣の剣心が斎藤に、弱くなったと罵倒されたのは、かつては維新という大義名分で鬼のように強かった剣心が薫や弥彦達さえ守る強さがあればいいと考えていたからだ。飛天御剣流は、大義名分がなければ使っていい流派ではないから代々の比古清十郎は隠れ住んでいた設定の筈だ。守るための強さを求めたアランが研鑽の果てに強さを得たダンデやキバナ達と同じように語られる事には違和感がある。危ない橋の上にいるプラターヌ博士と一線を超えてしまったフラダリの間を、そんな軽い気持ちで渡り歩く、自分の周りを守りたいだけでメガ進化の強さを求めたアランでは、海千山千ひしめく舞台上ではあまりにも無邪気で未熟過ぎる。

 だから理想も絶望も抱えて生きていないのになぜ強さを求めるとフラダリに訊かれたのだ。際どいところを攻めてるプラターヌ博士と一線を超えてしまったフラダリの間を渡り歩くアランにどんな大義名分があったのか?マロンやハリマロンを守りたいからが理由ではダメなのだ。マロンを守りたいから街中でもスティンガーミサイル持ち歩きますが通る筈がない。

 化石学者やポケモン博士達は倫理的にアウトな事でも科学や研究のためなら割と平気でやりそうではあるが。テラスタル化の研究をしていたパルデアの博士もそうだが、テラスタルは将来的にパルデア地方の現在のポケモンを滅亡させるかもしれない。この辺りが、やがて博士とジョーイさんの認識の争点になりそうなところだ。

 ポケモン世界の新たな可能性としてのテラスタル化の扱いが将来的にフリード(博士)とモリー(実質ジョーイさん)の対立軸になるか可能性がある。フリードの立ち位置はまだはっきりとはわからないが、「仕方がないか可能性にかける」と窮地でもテラスタル化に慎重なシーンがあったので、テラスタル化の懐疑側かもしれない。こう考えると、プラターヌ博士とフリード博士はわりと近い考え方をしていそうだ。戦う博士という共通点もあり、同門なのか、フリードの子孫がプラターヌのような、なんらかの関係があるかもしれない。ポケモンのテラスタル化はまだ詳細不明だが結晶化で属性が変わる事と一時的にパワーが上昇するが負担のかかるメガシンカの扱いの点での近似性も感じる。

 エクスプローラーズのキャラの名前がテラの生成物である鉱物なのは、テラスタル変容と関係している可能性が高い。彼等はテラスタルの急進派の可能性が高い。いや待てと、そういうアランのようなうっかり者のエクスプローラズに首輪を着けるのが博士の役割ではないか?

 ディアンシーは大気中のエネルギーを集めてダイヤモンドを作り、エネルギーを蓄積しておく結晶を作る事ができる。不完全だったダイヤを作る能力を補うためにディアンシーにはゼルネアスの力が必要だった。ゼルネアスは、大地中からエネルギーを集め、生命エネルギーを作る出す能力を持つ。テラスタルの本来の作られ方は、大気中ではなく大地から集めたエネルギーを結晶化する事かもしれない。それができるのはメレシーの女王ディアンシーだけだ。大気のエネルギーから結晶を作るならば、最初からできた。ディアンシーが求めたのは、巨大な大地からエネルギーを集めて生命に代えるゼルネアスの力だ。現在のテラスタルは、ディアンシーが最初から作れた、1分ほどの時間で消えるダイヤモンドのイメージに近い。おそらくは、完全なテラスタルではないのだろう。元々、メレシーは半分が岩で半分が生物という感じのポケモンで、正しくテラスタルのイメージとドンピシャだ。

 生命の細胞と結晶化は少し似ている。ある法則に従って結晶が増えていく過程は、生物の細胞分裂のようだ。結晶のような甲羅を持つ亀は生命と結晶を媒介するイメージとしてはぴったりだ。

 テラスタルは、テラ(Terra )ラテン語の大地の意味+クリスタル(Crystal)の造語と思われる。昔、テラへという漫画があり、地球の事を指すのは一定以上の年齢だと知っている。大地の結晶化という意味では、ディアンシーの作るダイヤ(の結晶)との類似性を感じる。ディアンシーのダイヤはエネルギーを蓄積しておく機能がある。まだ、不完全だったダイヤを作る力を補うためにディアンシーはゼルネアスに逢いに行った。ゼルネアスは大地からエネルギーを集め、生命に転換していく能力を持つポケモンだ。テラスタルに関しては、カロスの歴史的流れが重要な意味を持ってきそうな予感がする。

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