ポケモンマルチバース考察⑦

 サトシは基本、ポケモンバトルとポケモンの事以外にはほぼ関心がない。ポケットモンスターの看板を背負うキャラとしては非常に真面目な、ポケモンに全振りしているキャラだ。サトシ程ではないが、チャンピオンのダンデも人生の8割ぐらいはポケモンバトルに全振りしている。チャンピオンになるにはこれぐらいでないと難しいのだろう。人生のある時期にこの使命を与えられる場合(ダンデ)と、最初からそのために生まれてきている場合があるが、サトシの場合、後者の最初からポケモンマスターになるプログラムを与えてられて生まれた方だ。後者の場合、脇目も振らずに目標に向かって生きる運命になる。どちらかにせよ、プログラム以外の人生設計とは無縁な人生を生かされる事になるが。サトシは既に10歳でヒトとして終わった呪われた人生を送る事になる。これがアニメの主人公で本当によかったのだ。

 ポケットモンスターの看板を背負う主人公という性質上、人生を楽しむとか、美味しいものを食べるとか、毎週のポケモンを見るとか?舞台を見に行くとか、豪華客席で世界一周するとか、サトシにとってはすべておまけで、基本的に関心の外にある。悟空やベジータのようなサイヤ人達にとって食事は戦闘に必要なカロリーと身体を維持する栄養素を摂るためのサプリのようなものだ。当初のベジータはカロリーブロックのような携帯食を食べていた。サイヤ人には食事を楽しむという概念すらない。同様に、サトシにとっては世俗の楽しみは比較的どうでもいい事だから、ストーリー的に仲間や状況に合わせて無難にやり過ごしているだけの事なのだ。

 たとえサトシが最終回のそのままに成長して大人になっても、ダンデ以上にストイックなキャラになるだけだろう。それこそサトシの原型レッドがシロガネ山に篭ってしまうような未来しか見えないのだ。その点では、まだ、チャンピオン業をこなして、後進への指導や自分のファン達へ役割をきちんと果たしているダンデの方が人間的にだいぶマシなのだ。

 サトシの意外性といわれるのは、世間では絶対と思われているところの例外を狙って突いてくるサトシの戦い方だ。シトロンやショータのような秀才タイプのトレーナーにはサトシの意外性が人一倍よく見るのだ。サトシの強さにはムラがある。ダンデに勝って世界チャンピオンになった後に、カスミとのバトルにあっさり負けたりもする。常勝はサトシの目指すポケモンマスターの役割ではないから、これで悔しがらなくなった点は評価できる。

 サトシが最も得意とするポケモンバトルにおいても、ポケモンのみならず、トレーナー自身がバトルの基本から格闘技の体系をコツコツ積み上げてきた強さを持つサイトウのような実力派キャラにはサトシは相当苦戦する。たとえチャンピオンになった後でも、実力からいえば、3回に1回ぐらいは勝てるかな程度だろう。意外性しかサトシに勝機はないのだ。この先半世紀サトシがバトルを研鑽を続けたとして(この時点で、悟空やSFのリュウになる未来しか見えないが)、我流のサトシが、何代にも渡って整えられた流派の体系を超えられるのか?まあ無理だ。自分が新たな流派の開祖になるか自分が何代分も生きる以外では。悟空でさえ亀仙流という基盤があったし、三代分ぐらいは現役で闘って強くなった。もし、これを永遠と続けていた者がいたらどうか?3000年前のカロス王のAZのような怪物が生き続けているぐらいだ。滅んだ世界から生き続けている者がいても突飛な話ではない。

 これがわかればシロナの本当の怖さがわかる。サトシと似たところのあるダンデよりシロナの方が確実に強いのは間違いない。サトシの実力では10回に1回勝てればいい方だ。その1回を、マスタークラスのバトルのタイミングで引き寄せたサトシをシロナは認めたのだ。いざという時にそれができるのはポケモンマスターの才能ともいえる。

 しかし、サトシにとって致命的な事に、それだけではポケモンマスターには到達できないのだ。才能は認められても、サトシには足らないものがある。チャンピオンになっても、この先何をしたらポケモンマスターに近付けるのか見当が付いていない。このまま線路を進めば、サトシの将来像は、ただポケモンバトルが強いだけのレッド、更に老いてボンジイになるしかない。そして、絶望的な事をいうと、サトシが運良くポケモンマスターになったとしても、全盛期の力を持ってしても本気のシロナには及ばないだろう。ディープな視聴者は察している筈だ。シロナはやばい。おそらく人間ではない。サトシが勝てる相手ではないし、ダンデはポケモンマスターになるべき者が超えるべき山としてシロナが設定したという事だ。長年、ダンデがランキング1位、シロナが2位という事はダンデ以外はすべてシロナに倒されたのだ。実力が均衡している筈のマスタークラスでは通常こうはならない。2位の者が狙ってやった結果という事でしかない。対シロナ戦の、小細工なしの正面からの殴り合いなどらしくない。唯一、サトシに勝目のある戦いをしている。

 ポケモンマスター以上の力のあるシロナは、自分がポケモンマスターになる気はない。なるべく矢面には立たないように生き、ポケモンマスターに相応しい者の判定者のような役割を持っているようにみえる。だからシロナに認められたサトシは、ポケモンマスターの最有力候補にはなったのだ。これが唯一の救いだ。後はサトシ自身の問題だ。Nのようにポケモン側に着いて人間と対立するのか、人間に絶望し、やがてフラダリのように腐り落ちるのか。いずれにしろ今現在のサトシはいずれ人間を切り捨てざる得ない運命だ。そこがサトシの今後の最大の分かれ道だ。今のところ、人間性でもサトシはダンデには及ばない、強さ賢さでシロナを超えるのはサトシの人生の長さではおそらく無理だ。どちらをみてもポケモンマスターには及ばない絶望の未来しか見えてこない。

 ここでサトシを変える可能性があるのはセレナの存在だ。セレナはサトシにとっての「プロトカルチャー!」だからだ。ポケモンを助けるためなら迷わず高所から飛び降り、庇って技を食うサトシ。人間には滅多にこうはしない。XYでセレナは事故で何度か落下したり危険な目に合っているが、サトシがセレナの手をとって一緒に落ちたり、庇ったりの描写は割と新鮮だった。崖から3人手を繋いで跳んだのも仲間のシトロンを救出するためだった。ポケモンと人間が争えば高確率でポケモン側に着くサトシがである。サトシにも人の心あったんだ‥ややもするとセレナがサトシを振り回しているようにみえるが、セレナが現れてからのサトシは違った。ポケモン同士のバトルは日常でも、サトシが人間を守るために、いきなりポケモンを攻撃したのは、リーリエを攻撃しようとしたウツロイドにアイアンテールを打ち込ませた時ぐらいだろう。

 かつて自分はマクロスのミンメイが嫌いだった。あの画?あの声?あの性格?あの恋愛体質?なぜそれ組み合わせた?最初から、主人公を振り回す小悪魔的なキャラとした設定されたていたなら、まあわかる。でも、ミンメイは実は健気でかわいい娘という制作側の意図が透けて見えるのがものすごく嫌だったのだ。あれが昭和でいうところの普通だった。令和になった今でも、それを普通としか思えない人は少なくない。だからアニメとアニメ視聴者はバカにされてきたのだ。(実はアニメよりも中身のない)トレンディドラマを観ずに、アニメを観ている連中と。今になってみれば、何十年も前に作られたアニメ作品が海外で高く評価され、次々にリバイバルが作られている。当然の評価だと思う。

 実は、ミンメイは不吉なキャラとして知られている。劇場版公開の矢先にスポンサー倒産は有名な話だ。関わった者を誰も幸せにしない力を持っているのだ。声を担当した中の人も、ミンメイのイメージが薄れるまで大変そうだった。それぐらいミンメイの魔力は強い。なにしろストーリー的にもゼントラーディ軍を内部分裂させ、本体を殲滅してしまったぐらいだ。ゼントラーディ軍はプロトカルチャーとの遭遇のショックのあまり、ミンメイ個人の暗黒面を誤解拡大解釈して潰れたと思っている。マクロスの戦闘機バルキリーのバトルシーンはアニメ史上の歴史に残る程に有名な傑作だ。そのマクロスで最も重要なキャラはミンメイなのは間違いないが、マクロスの続編はあってもミンメイ絡みのスピンオフは誰も作らない、正直観たくないからだ。マクロスは傑作だがミンメイは‥が正直な感想だ。星一徹然り、つくづく昭和というのは、本人も含めて誰も幸せにしないキャラが中心にいて、当たり前のように振る舞っているのを当然としていた時代だった。そんな物語が有難いと感じる人達が沢山いたという事なのだろう。

 だからバトル硬派は、制作側すらよくわからなくなってしまったマクロスの続編を投げてボトムズへ流れていったぐらいだ。アニポケのセレナが一部の人から異常なまでに嫌われるのはわからないではない。いつか通った道だからだ。だからこそだ、セレナはミンメイとは違う。でもプロトカルチャーの役割は持っていると。セレナへの評価はゲッコウガ同様にジガルデの反応から判断できる。

 今なお、ジガルデとカロスの怪物と戦い続けるゲッコウガ、樹に変化したままのゼルネアス、カロスには未回収の要素が多過ぎる。サトシはいずれ、カロスに戻らなければならない理由がある。一度もカロスに戻ってこないままポケモンマスターに落ち着くわけにはいかないだろう。アルセウスのAが始まりなら、ジガルデのZは終わりを意味している。

 サトシリセットがなぜ必要だったのか?答えは明快だ。優勝してチャンピオンになる事を遅らせる必要があるからだ。ストーリー的にもサトシのポケモンマスター成立の条件としてもだ。サトシが頂点まで登り詰めてしまえば、後のバトルは消化試合になる。サトシがダンデに勝ってチャンピオンになった後の、祭りの後のようなあの白けた感じだ。BWのアデクのサンタロウ(サトシの事)ただ強くなるだけでいいのかね?の言葉に実は真実が仕込まれていたのだ。

 ロケット団もイマイチやる気を欠いて、何をしたらいいのか躊躇している感じ。あれが消化試合ということなのだ。ストーリー全体に消化試合の様相が現れて、もうこの展開が長く続けられる余地がない事が見えてきた。もし、リセットがなかったら?際限なく強くなる事しか目的のないバトルジャンキーのサイヤ人のようになるしかない。

 サトシは、終わりが見えてきてもなお、チャンピオンになってもポケモンマスターにはなれていないのが、視聴者にもサトシ本人にもわかってきた。サトシに必要なのはそこじゃなかったのだ。バトル経験値をシリーズ毎にリセットさせてサトシを弱体化させた?オーキド博士は正しかったのだ。ポケモンマスターになるためには、チャンピオンになる前にサトシには履修しておくべき事があったからだ。

 そしてサトシはまた旅に出た。サトシはスナフキンさんになりたかったようだ。でもそれは無理だ。サトシは、ダンデを破ってチャンピオンになってしまったからだ。AGの短パン小僧のキヨは、サトシにそっくだった。スルーされているが、どうみても5年後のサトシだ。ちょっと間違った方向へ進んだ、スナフキンになって旅をしている世界線のサトシだ。陽気なバトル好きな兄ちゃんとして旅を続ける、ある意味理想のサトシだ。トレーナーとして実績のない時代がサトシにとっては一番幸せな旅だった。

 一番強いチャンピオンになってポケモンマスターになるという分かりやすい目標を失ったサトシには、ポケモンマスターになるという解釈の難しい目標と、すべてのポケモンと友達になるという漠然とした目的だけが残った。サトシのこの先の旅は、よくわからない目標と漠然とした目的のための旅になる。あとどれくらいサトシが人間の心を維持できるのかもわからない。究極的には、サトシは人間の味方ではないのかもしれない。ポケモンを守るために悪の組織や悪い人間とは戦えても、人間を守るために、人間に害を成すポケモンを倒す事はできないだろう。

 サトシは、ポケモンが人間の災害になっている時→きっと何か理由があるんだ。悪い人間がポケモンに酷い事をしている時→許さないぞ!がデフォだ。悪いポケモンであっても、何か理由があってそうしているとサトシは考える。その一方で、ポケモンを虐待や乱獲している人間の理由や背景を考えて行動するサトシではない。よくあるパターンだが、ポケモンハンターが、高額の費用のかかる手術の必要な子供を抱えて、犯罪と知りながら悪事に手を染める可能性がないわけではないだろう。家族を拐われたグラジオのような理由でポケモンに恨みを持つトレーナーだっているだろう。その点を考えると、サトシは人間よりもポケモンに重きを置くキャラなのだ。ではサトシが人間をもっと大切にすればいいのだろうか?

 XYZで登場したフラダリは、善意から人間を大切な存在と考え、ポケモンにも重きをおいて活動してきた故に、ああなった人物なのだ。逆に人間世界の秩序のためにポケモンを利用しようとしたのがサカキだ。サカキは世界征服や権力を求めるが、世界の破滅や破壊は願っていない。サカキは人間世界の秩序側なのだ。あのロケット団も世界の破壊者とは敵対する。ロケット団がサトシの本当の敵にならない事を祈りたい。

 日々、世間を騒がせている事件を見れば、サトシがフラダリのように、この腐敗した世界はもう一度終わらせる以外にないという結論に至る気持ちになったとしてもわからないではない。フラダリは、元々は人間とポケモンの明るい未来のために活動していた財団の代表だったのだ。ジガルデは世界中にセルを撒いていて、今、世界で何が起こっているのかをリアルタイムで把握している筈だ。フラダリの活動のすべてを知らないわけがないのだと考えたらどうか。ジガルデは元々、フラダリに期待していて見守っていたのだとしたら?フラダリは、それぐらいいい奴だったのだ。たとえ世界の滅亡を目論んでいたとしても本質は同じで変わっていない。恐ろしい事をいえば、フラダリは、もっと人間が好きだった場合のサトシの将来像なのだ。チャンピオンになった後のサトシがフラダリのようになるのは、そう遠くない。だが、ジガルデはサトシに期待して世界を救った。ジガルデはサトシとセレナ、シトロンユリーカ兄妹と一緒に旅をしている間に、厳しく人間を査定していた筈だ。もし、残す価値のない種族ならば滅亡させてしまおうという腹だった筈だ。フラダリの判断は、先走ってしまったが、終末の役割を持ったジガルデを使って世界を滅亡させるの判断は間違っていなかったのだ。

 サトシとフラダリの違いは、フラダリの方が人間が好きで、人間に対する自分の責任感を強く持っていたという点だろう。その責任の重さ故に世界を滅ぼさねばならなくなったのだ。幸い、将来、サトシがフラダリと同じ年齢になっても、フラダリのような社会性のある人物にはなっていまい。

 ダンデに勝って世界チャンピオンになってしまったサトシは、もう以前と同じ状況にはない。本来、自由な旅などできるはずもない身分である事に、あと数年もすればサトシ自身も気付く。サトシはポケモンは大好きだが、人間はさほどでもない。人間相手にいつまでサトシの純粋な単純さが維持できるだろうか?

 チャンピオンになってしまった者の将来は過酷だ。マスコミに追われ、行く先々で人々に囲まれ、スポンサーやタニマチに配慮し、管理され、自由などほとんどない毎日になる。シロナやワタルやカルネのように他に本職を持っている場合はまだしも、ポケモントレーナーを専門にやっている場合は、ジムリーダーぐらいしかその後の進路がない。そう考えると、シロナは本気を出せばダンデに勝てるが、余りにも面倒ごとが増えて自由を失うのを避けてあえてそうしてなかったのだろう。ポケモンバトルよりも、学芸員のような仕事をしている時の方が楽しそうだったし。一度、本気でダンデを倒しに行って、同時にトレーナーから引退してしまえばいいと考えていたに違いないのだ。ダンデに勝つ事よりも、サトシのその先を見てみたいとシロナに認めさせた事の方が重要だ。だからこそシロナ戦での勝利は、王者ダンデ戦での勝利よりも価値があった。

 元チャンピオンのジムリーダーなら箔がつくだろうが、サトシがポケモントレーナーの後進達のためにジムリーダーになるとは思えない。だいたい、サトシを一箇所のジムに留まらせるのが現実的ではないのでジムリーダーの将来像は一番あり得ないのだ。

 結論からいえばサトシやカスミのいる世界は、何度目かの世界だ。前世界が滅んだ後にできた世界だ。AZやフラダリがカロスを滅ぼしたり、滅ぼしかけたりしたように、それをしそうな人間は何度も描かれている。
 ポケモンはかつて滅亡した世界に生息していた生物を遺伝子情報から再生したコピーだ。古来のポケモン原種の再生という意味では失敗しているが。倫理的な問題はさておき、化石から再生させたウオノラゴンがすぐに実用的ポケモンとして認められている点から考えて、既に確立された手法だ。こうしてポケモンの種類が増えていくなら、オーキド博士が151種類と発表した時点とは数が違って当然だ。

 たとえ、世界中のポケモンが絶滅した時代があったとしても、ミュウはどの時代にも現れる。理論的には、ミュウ(ミュウツー)とメタモンとの卵の交配であらゆるポケモンが再生可能なはずだ。ミュウはメタモンにもなれるからミュウがいればすべてのポケモンは再生可能だ。化石から遺伝子情報を取り出して再生する技術も確立している。ポケモンの種類は後天的に増えているのだ。

 例えば、イーブイの進化が遺伝的に不安定な理由として、イーブイの進化種類が滅びた世界毎に生存していた可能性はないだろうか?それらがすべて再生されたものだとしたら‥たしかに、イーブイは次の世界にも残したいと思われてそうな程かわいいポケモンだが。

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