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アクロストンさん性教育ワークショップレポ(後編)

「勃起って、まず筋肉がゆるむところからなのか・・・」

 お恥ずかしながら知らなかった、というより考えてみたことがなかったに近いんだけど。でも筋肉がゆるんで血管も広がり、そこに血液がたくさん入ってきて固くなり勃起が起こるって・・・超理屈が通ってる!めちゃ納得!!

 ということだらけだった、大人も目から鱗がボロボロ落っこちるアクロストンさんの性教育ワークショップ。からだってすんごい合理的なシステムだなって、改めて(からだに)敬意を表したくなった。研究活動でメルロ=ポンティの「知覚の現象学」を読んだ時の、「うおー!人間の知覚ってすごすぎ!!あんなことも、こんなことも勝手にやってくれちゃってるなんて!」という感動を思わず思いだした。でも人間のこのミラクルな仕組みも、きっと図鑑とか教科書に「こうなっていますよ」って書いてあるだけだったら何の感慨も抱かずにスルーしてしまうんだろうなと思う。当たり前のようでいて、それって実はすごいことなんだよという視点を提示してくれる人がいてこそ、ミラクルに気づくことができるのである。アクロストンさんの「からだってスゴイよね、面白いよね」という眼差しによって、からだとワクワクしながら出会い直せたっていうのが最高の経験だった。きっと子どもたちにとっても同じだったんじゃないかな。「女の子のお股には3つの穴があるよ。おしっこの出る穴、赤ちゃんが出てくる穴、うんちの出る穴だよ。」って教わったんだけれども、帰ってから一生懸命3つの穴がちゃんとあるか目で見て確認しようとしていた子どもさんもいたそうである。お話を聞いて「えっ!3つ!?(自分のからだなのに、見えないから知らなかったし考えたこともなかったよ)」って衝撃を受けたんだろうし、当たり前に生きている自分のからだに改めて意識を向けてみる経験ができてよかったなぁと思う。「(親からもらった)からだを大切に」なんていうような死んでいるスローガンを掲げる前に、子どもたちには自分のからだに目を向けてみること、知ること、面白いなとかすごいなとか思う経験を積み上げていって欲しいと改めて思った。きっとその先に、自然と「大切にする」振る舞いが作られていくんじゃないだろうか。

 さて、性にかかわるからだの仕組みや営みについて事実をありのままに伝えて頂いたのだけれども、生理やセックスの時に使う道具(生理用品やコンドーム)についても実際に触れて、実践的に学ぶことができた。生物学的に男性生殖器を持っている子どもたちにとっても、まだ生理がきていない子どもたちにとっても、「紙ナプキンをあけて」「ショーツに装着してみて」「経血に見立てた毛糸をこぼさないように、触らないように」「ショーツから外して捨てる」という一連のフローは初経験だったんじゃないかと思う。というか大人だって普段自分が使っているもの以外のナプキンを前にして、「どっちが前だろう?」とか、「えっこんなに大きいの?」と戸惑っていたくらいなんだから、子どもたちの「未知の体験ゾーン」への不安はさもありなん、である。でも「こういうものなんだ」「こういうふうにしたらいいんだ」と実際に体験して知ることで安心できるだろうし、生理のない人たちも「生理中の人たちはこういう経験をしているんだな」という想像がしやすくなると思う。生理のない人たちが生理について、生理用品について知ることが大事だと思うのは、そのことを通して「違いのある他者」がどんな経験をしているのかを知る、ということに尽きるのではないだろうか。相手が生理のことで困っていたらタブー視せずにコミュニケーションがはかれたり、意識的にも無意識的にも自然な配慮ができるようになったりできたら、生理のある人にとっても、生理のない人にとっても、今よりもっと生きやすい環境になるんじゃないかと思う。

 なんていうのかな、私たちが住んでいるこの国の文化は「察する」ことを要求するんだけれども、「察する」ための情報がそもそも乏しいっていうか、与えられていないことが多すぎるんだと思う。「そのうち自然と分かる」「なんとなく周りを見てたら分かる」から教えなくていい、なんていうのは大人の怠慢だ。だからいい歳した生理のないオトナが「生理(経血)もおしっこみたいにコントロールできる」と思っていたり、生理中の人がトイレで何をしているのか想像できずに「トイレが長い!(さぼっている!)」と心ないことを言ってみちゃったりするのだ。でもそれはその人たちだけの責任ではなくって、結局彼らも「きちんと教わってない」のである。察する、配慮することにつながるような知識が乏しいのであって、それは教育の失敗なのだ。だからアクロストンさんが子どもたちに手渡している実践的な知は、全子ども、ひいては知らない全大人にも届いて欲しいと半ば本気で思っている。

 その意味でもっと危機的なのは、「避妊」「性感染症の予防」の知識、限定的に言ってしまえば「コンドームの使い方」の知識の不足である。そもそも「セックス」について学校で教えられないのだから、避妊の方法も性感染症予防の方法も教えてもらえるわけがない。それこそ「その内自然に」とか、「今の時代いくらでもネットで」とか思われてるのかもしれないけれども、基本脳内お花畑のワタシもこのことに関しては「えっ!そのファーストコンタクトがトンデモじゃない保障はどこに!?」と思わざるをえない。そのトンデモに出会って、トンデモを修正する機会もなく、自分が傷ついたり他者を傷つけてしまうかもしれない可能性について考えると、いてもたってもいられない気分になる。

 あんまりいいたとえじゃないのだけれども、コンドームの使い方を習得するっていうのはいわば、交通安全のマナーというか、運転免許証を取得するみたいな側面があると私は思う。自分が事故にあって傷つかないために、あるいは逆に誰かを傷つけてしまわないために、守るべきルールに関する知識と、そのルールに従うことのできる技術もあり、運転するならばそれらをきちんと習得しておく必要がある。もちろん人である以上事故はつきものだから、事故がおきた際にどうすればいいのかも合わせて学んでおいて有事に善処できるようにしておく。そうじゃなきゃ誰も怖くて運転できないし、うかうか車の通る道を歩いていられない。セックスにおけるコンドームも、自衛と他害防止という側面からは「セックスする以上コンドームを正しく装着できる」を最低限クリアしていなければならないなずなのに。それを教えてもらう機会は、ほぼない。

 これは義務教育の、大きな課題だと思う。中学1年生で全子どもに教えて欲しい。・・・と言いつつ、性のリテラシーが足りない教師が「おまえらー、コンドームつけろよー」というノリでニヤニヤお説教している絵も容易に想像できてしまったりして、気持ち悪すぎる・・と頭を抱えたくなるのも事実である。

 その点においてアクロストンさんの伝えかたは、とても素晴らしいものだった。コンドームについて学んだのは中学生以上だったのだけれども、この日参加してくれた中高生は全員女の子だったということもあり、アクロストンのたかお先生はみんなにこう問いかけた。「コンドームって、男の人の側がするものだよね。でもじゃあどうして女の子もコンドームの使い方を学ぶんだと思う?」そしてこう続けた。「セックスは、2人でするものだよね。2人で使うものだから、お互い知っているといいよね。」

 そうなのだ。
 私がコンドームの装着方法の習得を運転免許にたとえてしまうのに躊躇するのは、そこには「リスク管理」の視点しかなくて、「2人が安心して楽しむために」という(セックスに対する)肯定的要素がなくなってしまうからである。運転免許証的義務として伝えてしまうと、セックスがリスクだらけの恐ろしいもの、危険なものとしてイメージされてしまいかねない。でもこれから性の生活を営んでいこうという若い人々に対して必要なのはそういう恐ろしげなイメージではなくて、「それは2人で楽しむもの」「だからこそ必要な知識や技術がある」という肯定的な方向での知なのではないかと思う。

 さらにアクロストンのたかお先生は、子どもたちに語りかけてくれた。

 「コンドームをつけたくないって、男の子が言ったらどうしよう。つけてって言ったら嫌われちゃうかもって思うかもしれない。でもつけてって言えない、ちゃんとコミュニケーションをとれる関係が作れていないうちは、セックスはするべきじゃないよね。」(要約)

 とても心が動かされ、ぐっときたのは私だけではないと思う。上からのお説教ではなく、あくまでも対等に、そして「きっとそういう関係を作っていけるよ」という子どもたちへの信頼をあわせて、手渡された言葉のように感じた。

 これから先彼女たちが「コンドームなんてつけたくない」って言う未熟な輩に出会ったときに、「ふざんけんじゃねー!!」って立ち去るにしても、「いい歳してばかなの?」とこんこんと説教してつけさせるにしても、それらを選ぶことのできる自由を手にしていて欲しいと心から願っている。


※注
アクロストンさんもワークショップの最後で毎回お話されていたが、男の子(男性)・女の子(女性)と便宜的に分けて表現しているけれども、本来性は多様であって二元的に分けられるものではないと考えている。「生理のある人」「生理のない人」と言ってみたり、「生物学的に男性(女性)生殖器をもつ人」と言ってみたりとしているけれども、冗長になってしまうのは否めない。言語的表現の難しさを感じている。

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京都上賀茂で「梟文庫」という私設図書館を運営しています。noteでは、「生活とケア」をテーマにぼちぼち研究します。毎週金曜日更新。https://www.fukuroubunko.com/
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