大人になるきみへ⑤ きみが⽣まれて、きみの周りの⼈はどんなに喜んだことでしょう!
★★★『大人になるきみへ』というのは、帝京大学病院難聴児親の会のメンバーが、5年間話しあい、知恵を出し合って執筆し制作した小さな本です。幼児期の言語指導を終えて、これから思春期を迎えようという子どもたちに向け、ああでもない、こうでもないと言い合った挙句にたどりついた11本のメッセージ。8人のお母さんたちが分担して執筆しました。
2本めのメッセージでは、喜びの中で生まれてきたこと、そして親が子どもに持ち続ける「愛」と「感謝」と「エールを送る気持ち」について語っています。★★★
きみが⽣まれて、きみの周りの⼈はどんなに喜んだことでしょう!
きみは、⽣まれたときのことを話してもらったことがありますか?
お⺟さんはお腹に⾚ちゃんがいることがわかったときから、⾃分の体にとても気を使います。まず、⾷べもの。
たとえば、嫌いだったレバー。⾷べたくなくても、それが⾚ちゃんに良いとわかると、無理して⾷べます。また、好きだった漬物が、塩分が多いからやめたほうが良いと聞くと、⾷べるのを我慢します。⾷品も今まで以上に吟味し、添加物や栄養、鮮度などにとても敏感になります。
また、⾵邪をひいたり、病気にならないように注意します。お腹に⾚ちゃんがいるときは、薬が飲めないのです。⾼いヒールの靴をやめたり、重いものを持たないようにしたり、⾛らないようにしたり。それらはみんな、⾚ちゃんが⼤切だからです。
こうして10カ⽉間、お⺟さんのお腹の中にいた⾚ちゃんが⽣まれるとき、また⼤変です。10時間も苦しみます。なかには3⽇間苦しみが続く⼈もいます。でも、その苦しさもおぎゃーと⽣まれた瞬間、忘れることができるのです。
ひとつの命の誕⽣。それは感動的でうれしいものです。それまでの苦労や苦痛が楽しみに変わります。⼤切に、⼤切にして待っていた⼦どもです。お⽗さんはお⺟さんに感謝し、おじいちゃん、おばあちゃんも駆けつけ、みんなで喜びます。もう家族の⼀員です。
⾚ちゃんは⽣まれたつぎの⽇から、お⺟さんのおっぱいを吸うことができます。最初はなかなかうまくいかなくて、なんとか飲ませたいと必死です。やっと飲んでくれたとき、うれしくて、うれしくて涙が出ました。こんなに⼩さくても、⽣きていることを実感しました。
そしてこんな⼦に育ってほしい、あんな⼦になってほしいと願いながら、⽇に⽇に⼤きくなっていく姿を楽しみに過ごします。
毎⽇の⽣活が⽣まれた⼦ども中⼼に変わっていきます。
部屋の雰囲気も変わり、ぬいぐるみやおもちゃも多くなります。それは、⼦どもの喜ぶ顔が⾒たいからです。明るく元気に育ってほしいからです。
家具の⾓やドアの取っ⼿に布を巻いたりするのも、ケガをしないようにするためです。
休⽇はゴロゴロ寝ていたお⽗さんが、いっしょに遊んでくれたり、公園へいっしょに出かけたり、お⽗さんの⽣活もガラリと変わります。
いままで厳しい顔をしていたおじいちゃんが、孫が⽣まれたことで、とても明るく、ニコやかになったなんてことも、よくあります。性格までも変えてしまうこともあるんですよね。⼦どもの⼒の素晴らしさを感じます。
そんなある⽇、その⼦に障害があることを知ったとき、みんな「どうすればいいんだろう。私に何ができるのだろう。この⼦はこの先どうなるのだろう」と、とても悩みました。
⾃分の無力さに、とても苦しみました。
いくつかの病院を訪ねたり、難聴を知るための本を読んだり、いろいろな機関とも相談し、この⼦にとっていちばん良い⽅法をとろうと、家族みんなが協⼒しました。兄弟は、お⺟さんやお⽗さんを取られてしまったような、寂しい思いもしました。
幼児期、お⺟さんと勉強したときのことを覚えていますか?
伝えたいことを⾔葉でわかってほしい。要求を⾔葉で⾔ってほしい。友達と仲良く遊べるようになってほしい。そんな思いから、みんなが必死だったのです。そのおかげで 家族の絆がより深くなったのも事実です。
もちろん、いちばん頑張ったのはきみだったでしょう。
そして、きみが育っていく過程で、お⽗さんやお⺟さんも、多くのものを学ぶことができました。 ⼈の優しさ、⼈の苦しみ、思いやりといったことを、それまで以上に感じることができるようになりました。
それまで、あまり知らなかったこと、考えてもみなかった社会に⽬がいくようになったこと。良くしていこうと⾏動する勇気を持てるようになったのは、きみのことがきっかけになりました。
親になってから、たくさんの⼈と出会い、豊かな⼈⽣になったと思います。きみのおかげで、みんなが成⻑しているのです。
それぞれの⼒を合わせ、家族の絆がより強くなっていることを、うれしく思います。
そして、これからも、きみの周りのみんなが、応援しているのです。