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皆川明『つづく展』から受け取ったもの

服を着ることは、芸術家でもない表現の手段も持たないごく普通の自分には、小さな自己表現だと思っている。好きなものを好きなように、誰に気兼ねすることなく、死ぬまで、そう疑いなく思って生きてきた。なのに、最近は歳を重ねていく自分をつまらなく、悔しくさえ思うようになり、着る服に迷うこともしばしばで、それはつまり私にとっては生き方に迷っていること気付かされる瞬間だ。

服は素晴らしい。ミナペルホネンの服が出来上がる全ての工程に関わるたくさんの方々の想いが重なり、まるでアートのようなそれが着る人の手に渡った瞬間、服は完全に着る人のものだ。そう思う時、皆川さんがファインアートではなく服を作ることを選んでくださったことに感謝せずにはいられない。私たちはそれに袖を通す時、自分がただの妻であり、ただの母親であるだけの存在から、私が私であることを思い出す。展示を見ていくうちに服が好きだった気持ちを思い出し、胸が熱くなった。長く愛されたミナペルホネンのお洋服と共に綴られたエピソードを展示したコーナーでは涙を流した。

服はいつも私と共にあった。これまでもこれからも、何の輝きもない日々などないのだ。諦めないで、若い頃の自分には出来なかった表現がきっとある。そう信じさせて貰えた気がしている。これから先も服を着て生きていく自分を楽しもう、久しぶりにそう思えた。

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