見出し画像

「カッコだけのファル子ss

「トレーナーさん、今ちょっといい?」
「ごめんね、こんな夜遅くに押しかけちゃって。どうしても今話したいことが……」
「……って服がどうしたの?」
「ああっ!そう、さっきまでちょっと走ってたんだ、ちょっとムシャクシャしてて……アハハ……」
「ウマドルが夜にこんな汗だくで男の人の部屋に来るなんて、誰かに見られたら一大事!トレーナーさん、部屋に入っていい?」

「……」

「トレーナーさんの部屋に来るのも久しぶりだね。2年ぶりかな?あっ!まだジャパンDDのレイ飾ってくれてたんだ。ファル子、嬉しいな~。」
「あの頃はセンターに立つために必死だったよね。ファル子も、トレーナーさんも。」
「皐月賞のおかげでダートに専心する決意ができて、でもやっぱりダートのレースは芝のレースほどはお客さんが来なくて。クラシックが終わってからはファル子がダートを盛り上げるんだ!って頑張って、ファンのおかげでウマドルの輝きを思い出して。本ッ当に怒涛の3年間だったね。」
「URAの後はDWCに誘われたのもあってウマドル活動が中心にはなったけど、それでも走ることは続けてきた。トレーナーさんと一緒にね。」

「でも、」
「でもね、2年前からだんだんウマドルのイベントが増えてきて、ファル子、前みたいにトレーニングの時間が取れなくなってきたよね。トレーナーさんも気づいてるでしょ?」
「それに、去年からとっても強いウマ娘たちがダートにも来たでしょ?走ることが大好きなウマ娘たちが。」
「あの娘たちのキラキラ〜って輝きはすごいんだよ!まだまだ足りてない不安定な部分はあるけれど、前だけを見ている真剣な表情、誰よりも速く駆け抜ける強い意志を持った目。」
「彼女たちを見てるとなんだか眩しくて。」
「……昔のファル子もあんなふうだったのかな?」

「…………」

「トレーナーさん!」
「ファル子、ファル子ね。競走バ、もう引退しようかと思うんだ。」
「……」
「……やっぱり驚いたって顔はしてくれないんだね。」
「アハハ。トレーニングの時間もまともに取れないようじゃ、やっぱりレースに失礼だもんね。ファル子もそう思うよ。」
「だからさ、トレーナーさん。」
「……そんな悲しそうな顔しないでよ。」
「今までウマドルと競走バの両方だったのが、ウマドルの方だけに専心するって思ったらさ、ほら……たいしたこと……ない……。」

「……」

「……」

「……あのね、トレーナーさん。」
「ファル子ね、トレーナーさんとだからここまで来れたと思うの。」
「トレーナーさんにダートを勧められて、皐月賞で芝をキッパリ諦めて、有馬記念に連れて行ってもらったおかげでダートをもっと盛り上げようって思えて。」
「ううん、それだけじゃない。今まで競走バを続けてこれたのも、ウマドル活動の負担にならないようなトレーニングメニューを考えてくれたおかげだもんね。ファル子のファン第1号として色々なことを教えてくれたのも、トレーナーさんだった。」

「……」

「だからさ……」
「皐月賞のときみたいに、ファル子に競走バのこと、キッパリ諦めさせてくれないかな……?」

「……」

「……」

「ジーーー」

「………………」

「ごめんなさい、トレーナーさん。やっぱりそんなことトレーナーさんが言えるわけないよね。ファル子、すっごく酷いことさせようとしてた。」
「ファル子、トレーナーさんのそういう優しいところ大好きだよ。今までも、これからも、ずっとずーっと。」

「……」

「でもね。」
「それは、競走バのファル子のお話。」
「ウマドルは恋愛禁止!これだけは絶対だもん。」
「だから……」
「トレーナーさん!一つだけ。最後に一つだけファル子のお願いを聞いてくれますか?」

「……」

「これが最後。本当に最後だよ。もう芝のコースに出たいなんて言わないし、いきなり減量に付き合ってほしいなんても言わない。」

「……」

「……それじゃあ言うね。」

「…………」

「ファル子を、」
「あなたの担当ウマ娘スマートファルコンを、全力で引き止めて。」
「……」
「ウマドルなんて諦めて、競走バとしてもっともーっと駆け抜けようって抱きしめて。」
「……」
「笑顔で送り出したりしないで、卒業を全力で阻止してほしいの。」
「これが、トレーナーさんの競走バ、スマートファルコンの最後のお願い。聞いてくれますか?」

「……」

「……」

「……」

「あぁ。やっぱりファル子はウマ娘なんだね。」
「トレーナーさんの力、全然痛くないんだもん。ファル子よりも太い腕なのに、こんなにも軽いなんて。ずるいよ。」
「優しい抱擁。そんなんじゃ、全然トレーニングしてないファル子でも引き止めれないよ。」

「……」

「もっと、」
「もっと強く抱きしめて!」
「ファル子を、スマートファルコンを支えてくれた力はそんなもんじゃないでしょ!」

「……」

「そう、それでいいの。トレーナーさんの愛、いっぱい受け取ったよ。」
「でも、でもね……」
「それでもファル子は止まらないよ。だって……」

「……」

「だって、ファル子はウマドルだもん……」
「たとえどれだけたくさんのものを犠牲にしても、ファンのみんなに夢を届けることを選ぶ。それが私のウマドル道なんだもん」

「……」

「……」

「……………………」

「それじゃあトレーナーさん。今までお世話になりました!またファル子のライブに来てくださいねー!」

「…………」

「ああ……」
「ファル子に、芝を走れる才能がちゃんとあれば……」
「ファル子が、もっともっとトレーニングを真剣にやっていれば……」
「ファル子が、こんなにもウマドルとして成功していなかったら……」

「……」

「お互い、こんなにも悲しい涙が流れることはなかったのにね、」

「ファン第1号さん。」


……


…………



って話考えたんだけど、どう?」


「ファ、ファル子的にはちょっとNGかな〜。」