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韓国の友だち

2011年、ブラック企業を退職したばかりの夏、疲れていたのでとりあえず生活圏から離れた場所に行きたいと思い東京のゲストハウスにしばらく滞在していた。tripというよりはtravelのつもりで。同室のメンバーはフランスの女の子、韓国の女の子、私。昼間はずっと寝ていて夜になるとクラブへ行くという生活を1ヶ月続けているらしいフランスの子とはほとんど顔を合わせなかった。一度だけ拙い英語で会話をしたが「人生に疲れている」といったことを話していた。人生を楽しんでいるの間違いではなく?と思ったが、フランス人には色々あるのだろう。

ある日私の下のベッドを使っていた韓国の子があることで困っていると話しかけてきたので、応急処置をしてあげた。
日本語が話せるようだったので、少し話をした。韓国人なのにエリという日本人みたいな名前で、すぐに覚えられた。私より2歳下だと言っていた。次の日が誕生日とのことだったので翌日そのときはまっていた「はらドーナッツ」をあげた。私の滞在が最後の夜に一緒にビールを飲んだ。
それでもう永遠に会わないだろうと思っていたら、なんと私の次の目的地である京都のゲストハウスに先回りして待ち伏せしていた。そこのスタッフやお客さんと既に仲良くなっていた。

京都のゲストハウスでは色々あった。
スタッフのオーストラリア人の男の子はエリに恋をしていたけれど、エリには既に長く付き合っている恋人がいて、全く相手にされていなかった。そして前から滞在している別の女の子がスタッフの男の子に恋をしていて、エリに嫉妬していた。
私はその三角関係を傍観していたが、大変気まずかった。正直一人で京都を周りたい日もあったが、男の子が頑張ってレンタカーなどを手配して色々と連れて行ってくれたので、それはそれで便利ではあった。一人だったら行けないところまで行けたと思う。

今なら言えるが、スタッフ君、あんなアプローチじゃ全然だめだね。まわりくどいことばっかりせずに最初に告白しろよな。当たって砕けた方がダサくない。

みんなで行った琵琶湖

エリは昔お世話になったというホストファミリーがいる兵庫へ一旦行くと言い、今度こそお別れだと思っていたら、数日後また戻ってきた。結局帰国する日まで毎日花火したりサイクリングしたり一緒にのんびり楽しく過ごした。

それから何度か日本で会い、私は1度だけ韓国へ行った。
韓国への一人旅はハングルが読めないとかなりきついなと思った。普段自分の行動をどれだけ駅や道路の案内看板に頼っているかがよくわかった。
仁川空港はロビーまで地下鉄みたいなものに乗っていくのだけれど、自分が乗っていいものなのか判断できなかった。
買い物するときも「ボントゥ ピリョハセヨ?(袋いる?)」すら何かわからなくて困った。
中学のときに行ったカナダではこんなことはなくて、なんとなく相手が何を言ってるかわかったし、案内看板の文字は読めたのでここまで困らなかった。ホストファミリーとも滞りなくコミュニケーションをとれていたと思う。義務教育の英語は意外と実践に間に合うものだ。馴染みがあるかないかで全く違う。
基礎知識のない言語圏に行く場合はもう少し事前に準備しておくべきだった。(これじゃフランスなんて絶対無理そう)

エアソウルで行って、ソウルのホンデに滞在した

韓国は富山空港から2時間で行けてしまうので、東京や大阪より全然近い。
そんな短時間で行ける全く違う世界があるというのが面白い。
色んな街に連れて行ってもらったけれど、滞在していたホンデが一番エネルギーを感じられた。私が知る限り日本にこういう場所はないので新鮮だった。

私は全く韓国語がわからないし、エリも日本語ができるとはいえ最低限の簡単な会話程度なので、二人でいても何を話すでもなく、ただ一緒に過ごした。同じ時間に起きて、同じものを食べて、同じものを見て、同じ時間に寝て。会話が必要なときはお互いGoogle翻訳を使った。お酒を飲みながら翻訳画面を見せ合った。普段使わない男性的な口調や体言止めで表示されるのでそれが結構面白くてお互いよく笑った。韓国は漢字(というか漢字の読み)も使うので、共有できる単語も結構多いことが意外だった。
滞在中に色々教えてもらって韓国語を覚えたが、寝たら忘れてしまった。エリも最後に会ったときはもう日本語ほとんど忘れたと言っていた。その場で使い捨ての言語があったっていいじゃないか。

日本に来てくれたときは、自分では行かない地元の観光地を歩くことができて楽しかった。

エリのリクエストでアニメ映画のモデルになった家に行った
金沢のひがし茶屋街

言葉が通じなくても、というか通じないからこそ、相手が疲れてるとき、困っているとき、これは違うな、これならOK、という空気感がかなりよく伝わってきた。エリと過ごすと、いかにいつも言葉に頼って気遣いをおざなりにしているかが認識できる。適当に声をかけることで気遣ったつもりになっているというか。

ふだん、歳をとればとるほど言葉でモメることが多すぎてうんざりしている。自分も割と偏屈ではあるが、周りも歳を重ねるごとに偏屈になる。どんな人であれ、礼儀がある限りは礼儀で返せるけれど、そうじゃない人にはこちらもそのように対応するしかない。もしこちらから礼儀をなくして接している場合、大切にする価値がないとどこかで感じているからだ。
昔、親や職場の愚痴ばかり言う人がいたが、そんなことを聞いて同調してあげることは友情とはいえない。その辺に転がっている友人関係なんてその程度のものだと思う。あの人はきっと今でも解決のためには動かず、同じ場所にとどまって、おともだちに不満を聞いてもらっているのだろう。
言葉が関係を壊すことはあったとしても、言葉が築き上げる友情って割合としてどのくらいあるのだろうか?「友人関係を保ちたいなら、あなたもちゃんと韓国語勉強したらどうなの」というアドバイスをいただくことが時々ある。言葉以外の共通言語はたくさんある。日本人の友人とは60歳になったときにどうなっているか全くわからないけれど、エリとは一生友だちだと思う。私たちがお互いに礼儀を欠くことは一生ありえない。
(相手の言語を学ぶことも礼儀といえば確かにそうですね)

そんな韓国の友だち、エリが先日結婚した。
定期的にお互いの国のトレンド食料品を郵送で交換しているのだけれど、今回は結婚祝いを贈った。結婚式の動画をもらったので、そのワンシーンを刺繍にした。
壊れないか心配だったけれど、無事に着いたと写真を送ってくれた。
「真心が伝わったぞ」と男性口調のたくましい感想をくれた。

飾ってくれたらしい。手前の花瓶は昔プレゼントした前川わとさんの作品。
国際郵便で生花は送れないので刺繍のミモザを

お礼のLINEが来たときに最近BTSの特にジミンが好きだと話したら、韓国に来た時はアイドルに全く興味なさそうだったのにと驚かれた。確かに街中BTSの広告だらけだったかも。
はたして彼らはアイドルという括りなのか?とも思う。Butterのライブパフォーマンスの出だしをご存知でしょうか。7人の動きがパンケーキから滑り落ちるバターそのものなんですよ。世界一かっこいいバター。小学生のときに体育の授業で創作ダンスというものがあって先生の指示では何をしたらいいのか全くわからなかったけれど、これを見れば理解できる。
BTSはもちろん、BLACKPINKなんてもっと何もかもが新しすぎる。(How You Like Thatが大好き)他にもプレイリストで知らないアーティストの曲を聴くことがあるけれど、K-POPはどれもおしゃれ。デザインも、私は日本より韓国の方が好きだ。
昔好きだったイ・ランやOOHYOという韓国のアーティストの話をしたことがあったけれど、エリはそのとき「誰それ」と言っていた。OOHYOは最近ドラマに使われたりしていたようなので、もしかしたら今は知っているかもしれない。

エリと私が京都に居た2011年、ちょうど京都の美術館でフェルメール展をやっていたので二人で見に行ったことがある。オランダは郵便制度が17世紀から整っていて、そのことから手紙に関する作品が多いのだとか。2023年、日本と韓国の間は小包ならEMSで数日で送れる。あの時はみんながスマホを使うようになってまだ間もない頃で、郵便なんてそのうち使わなくなるだろうと思っていたけれど、10年後、お互いにこんなに重要なものになるなんて。

春に富山まで夫婦で遊びに来てくれるんだって。
今更だけど、ちょっとは韓国語を勉強してみようと思う。

食料品の説明メモを書く時間が一番楽しい

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