深読みで楽しむDetroit: Become Human (12) 焼き加減はいかがいたしますか

はじめに
 本記事はDetroit: Become Humanを最低でも1度はクリアした人向けの、本編ネタバレ満載の内容となっています。さらには本編の内容を直接解説した部分が3割くらい、残りの7割が深読みと邪推とこじつけで構成されています。以上の点をご了承の上、お読みください。

【「逃亡者」シノプシス】
 カーラは目を覚まし、見かけを変えるために服を着替えて髪を切る。ふと外を見ると、警官たちが自分を探しているのがわかった。アリスとともに、警官の目をかいくぐって逃れようとするカーラだったが……。

ラルフはなぜ不安定なのか
 この章の始まり方は3通りありますが、個人的にはやはり廃屋からのスタートが一番盛り上がる気がします。一つには、カーラとコナーが確実に邂逅するルートであること、もう一つは誰あろう、ラルフの存在です。
 ラルフはカーラが自分たち以外で初めて出会う変異体であり、廃屋に泊まらない限りその後のストーリーには関わらないキャラクターですが、出番の短さに対して強烈な印象を与えます。その特徴は、何と言っても「精神の不安定さ」でしょう。初登場時から幾度かナイフでアリスを脅す一方、カーラに説得されるとすぐに謝るなど、善意なのはわかりますが感情の波があまりに激しく、一晩の宿を借りるにもためらってしまった人もいるかもしれません。
 ラルフは自分のことを三人称で話します。これも実はちょっと面白い点です。というのも、マーカスが変異した時、マインドパレスの文字は命令形(英語では2人称、フランス語では3人称)から1人称に変わるという形で、自我の発生を演出していたからです。そこから考えると、いまだに三人称で思考するラルフは、他の変異体と同じレベルで変異している(自我を覚醒させている)わけではない、という可能性が生まれてきます。しかし、しかしです。ラルフはキッチン一面のRA9という落書きについて問われた時に限り、一人称(I don't know)で話すのです。
 ここから想像するに、ラルフは変異はしたが、完全に変異しきれない程度に頭脳・精神面(マインドパレス?)が破壊されてしまっているのかもしれません。実際に彼の左顔面は高熱を照射されることにより修復不可能なほど破壊されていますし、精密機械というのは得てして熱に弱いものです。自我が統合できない程度に脳神経機能が破壊されていると考えれば、彼の統合失調症にも似た症状の説明もつきます。

十分に加熱してお召し上がりください
 一晩寝たカーラが服を着替え、髪を切って戻ってくると、ラルフが「朝食」を片手にアリスを怯えさせている光景に出会います。まあ、確かに毛焼きもしてない獲物をぶん回してたら驚くってもんです。大きさと体型、毛の色からすると、ラルフが入手してきたのはいわゆるドブネズミではないかと思います。
 ただ、ネズミ(げっ歯類)自体は世界ではそこそこ食用にされています。例えばモンゴルではマーモットは夏の珍味ですし(1日張っていれば1匹ぐらいは取れるそうです)、ガーナではブッシュミート(野生肉)の一つグラスカッターとして、庶民の重要なタンパク源となっています。問題は、どちらも感染症を媒介する可能性があること。特にモンゴルのマーモットはペストの媒介者でもあるため、生で食べると命に関わる可能性があります。外務省のサイトでも「社交辞令的にどうしても食べなければいけない時は、よく焼けた肉片をちょっとだけ食べること」とされています。
 ガーナでは、そもそもブッシュミート全般はしっかり焼いて食べること、という啓発活動が行われています。まあ、エボラとかも動物が媒介ですしね……。でも美味しいらしいです。一度、味見はしてみたいです。ただなラルフ、お前それ焼いてるとは言わないから。炙っただけだから。毛焼きできてるかすら怪しいから!!ドブネズミとか感染症広めるの大得意な生き物じゃないですか。。。
 
 それはそうと、「パパ、ママ、お嬢ちゃんだ!」とワックワクでネズミを火にかけるラルフの姿には、「普通の人間の生活」への憧れのようなものを感じます。この後、コナーが分析することで明らかになりますが、ラルフは「緑地整備用モデル」であって、変異前は人間の家族生活に織り込まれていたわけではありません。なお、同型モデルは「色あふれる世界」でマーカスのスタート地点だった公園で数多く見られます(他には「あてどなく」で情報を教えてくれるごみ収集係や、この後「鳥の巣」で出てくる都市農場UFDで使役されている者もいます。UFDのチラシは、この章の行動の中でも登場しますね)。
 ラルフが緑地整備を担当していたとしたら、公園の中で仲の良い家族や、明るい子どもたちによく触れていたのかもしれません。マーカス編の開始地点にいる人間とアンドロイドも、とても平和に共存しています。あの公園は「エデンの園」のメタファーでもあると思うのですが、公園の出口=現世(人間の世界)に近づくほどに、アンドロイドに対して横暴な人間が見えてくる構図です。ラルフもマーカスのように、元々はちょっと横暴なことはあっても、そこそこ平和的な人間に囲まれていたのかもしれません。顔を焼かれるまでは。

 ラルフのセリフでは「ジューシーだ!(succulent!)」が記憶に残りますが、アリスに食事を強要する中で、彼は「人間は焼けた肉(burnt meat)が好きなんだ!」「人間は死んだ動物(dead animals)を食べるんだ!僕は知ってる(I know that)!」というフレーズを突っ込んできます。焼いた肉(grilled meat)でも、動物の肉(animal meat)でもないのです。
 その後、コナーが分析することでわかりますが、ラルフの傷は「極度の高熱によって顔が修復不可能なまでに変形したもの」です。ということは、ラルフは「人間は(自分にしたように)動物を焼いて食う」と認識しているわけです。ラルフから見ると、人間は「アンドロイドや動物を攻撃して、焼く(、そして食う)」天敵、捕食生物に見えているということになります。

 ここでまた、ラルフには珍しい一人称(I know that!)が出てくることも見逃せません。RA9の部分もそうですが、ここはある意味ラルフが「我に返った(自我が一時的に統合された)」状態だと解釈すると、面白いのではないでしょうか。

絆の大切さ
 そうこうしているうちに、ブルーブラッドの痕跡を見つけたコナーが廃屋の扉を叩きます。カーラがラルフを銃で脅していなければ、ラルフは二人を匿ってくれますが……コナーはラルフを放置していいのか?行方不明の届け出は出てるし、明らかに変異体なのでは?ここでカーラを探すシーン、ラルフが隠し事を全然できてないのがちょっと可愛いです。やっぱりラルフいい子だな。キレたら人殺すけど……(なお2階の死体も放置される模様)。
 モーテルや廃車で一夜を明かした場合は「警察に見つからずに駅まで逃げ延びる」というルートが存在しますが、廃屋の場合はここでコナーに見つかってラルフがコナーを足止めしてくれる(それでもラルフの身柄確保されないんだ。。。)、コナーがポンコツすぎて二人を見つけられない、もしくは銃で脅されたラルフが二人の行き先をコナーに教える、のどれかになり、コナーがよほどのポンコツでない限りは高速道路越えのチェイスになります。
 ここで面白いのは、ハンクのコナーに対する姿勢でしょう。当初は「“アレ“はどうすんだ」「知らん」とコナーに関わることを避けようとしているハンクですが、いざ危険な高速道路のチェイスになるとリスクを取らないようコナーに命じます。ハンク本来のチョロさ、もとい優しさがうかがい知れる最初の場面ですね。
 にしてもなんでコナーはラルフを確保しなかったんでしょうか。確保してたら再登場場所はあそこにならないだろうからなあ。。。コナーがカーラを追いかけてるうちに、ラルフが逃げたという可能性もゼロではないですけどね。
 カーラ編は正直どこにでもある話の典型で、キャラクターも悪い意味でテンプレを貫いているものばかりなので、私としては全く気持ちが入らなかったのですが、ここも含めて「きちんと絆(人間関係)を作っておくことがその後の生存につながる(かもしれない)」というゲーム性だけは好きです。

 全くどうでもいいことですけど、この章(On the run=逃走劇)の日本語のタイトル「逃亡者」ですけど、それ英語だとカーラ編の前の章のタイトル(fugitives)ですよねっていう。何を思ってこの訳をつけたのか。ちょっと翻訳担当者の神経を疑ってしまいます。

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