深読みで楽しむDetroit: Become Human (13) 約束の地へ

はじめに
 本記事はDetroit: Become Humanを最低でも1度はクリアした人向けの、本編ネタバレ満載の内容となっています。さらには本編の内容を直接解説した部分が3割くらい、残りの7割が深読みと邪推とこじつけで構成されています。以上の点をご了承の上、お読みください。

【「ジェリコ」シノプシス】
 廃棄場を生き延びたマーカスは、壊れかけたアンドロイドに教えられた「自由の地」ジェリコを探す。渡されたグラフィティを手掛かりにたどり着いたのは、放棄された貨物船だった。

被虐者たちの「約束の地」
 英語ではジェリコと呼ばれる都市ですが、これはヨルダン川西岸地区にある世界最古の都市エリコを指します。エジプトで奴隷同様に扱われていたユダヤ人は、モーセの指揮のもとで神に約束された土地カナン(エジプトからユーフラテス川までの地域)を目指して40年間放浪します。この40年の間に、(神目線で)品行を問題視されたモーセを含むエジプト生まれのユダヤ人は全て死に、次世代のユダヤ人たちがモーセの後継者に指名されたヨシュアのもとで「約束の地」に住み着いていた異民族の殲滅戦を行います。ジェリコ(エリコ)とは、ヨシュアによる「約束の地」奪還の最初の標的であり、ユダヤ人の指導者としての彼の能力を示した最初の戦場でした。

 現在のエリコは、国としては独立予定のパレスチナ自治区に属しています。モーセの出エジプトはユダヤ人の解放と自立の物語ですが、現在はそのユダヤ人(イスラエル人)がパレスチナ人を弾圧している状況にあります(イスラエル目線では、古代と同じように自分たちの土地を征服しているだけなのですが)。どちらが支配する側で、どちらが解放される側なのか、立場というのは流動的なものですね。
 聖書の中で「乳と蜜の流れる土地」と形容されただけあって、イスラエルをはじめとするヨルダン川周辺やイラク、レバノン、アフガニスタンなどは伝統的に農業の盛んな土地です。中東というと砂漠のイメージがありますが(実際にアラビア半島に関してはほとんどは本当に何もない砂漠なのですが)、現在のイラクでメソポタミア文明が栄えたことからもわかるとおり、アラビア半島の付け根から少し東側あたりは本来は人の住みやすい場所なのです。だからこそ、エジプトを逃れたユダヤ人たちも手に入れたがったのでしょう。

地下鉄道の暗号
 ジェリコへの道しるべとなる記号ですが、これはかつて黒人奴隷たちが自由を求めて北軍地域へ、ひいてはカナダへと逃げるルートとなった「地下鉄道」の中で、暗号となったと言われているキルトの文様です(キルトの文様が本当に暗号だったのかには、資料が少ないため異論もありますが、ここで重要なのは「そういうネタを拾った」という点でしょう)。
 ジェリコへの道しるべとして使われている記号は通称「モンキーレンチ」と呼ばれ、「逃亡奴隷を支援するためにあらゆる手段を集結させよ」というメッセージが込められていると言われています。その一方で、ジェリコに集まったアンドロイドはただ死ぬのを待つだけでした。意図的に選んだものかどうかはわかりませんが、考えさせられるメッセージです。
 逃亡奴隷たちはキルトの模様や黒人霊歌などにメッセージを込めて、仲間たちに解放への道を伝えていたのです。そのあたり、仲間にしか理解できないメッセージでジェリコへの道を伝えたアンドロイドの行動にも通じるものがあります。
 のちにマーカスが歌う曲(Hold on just a little while longer)も黒人霊歌の一つですが、他の著名な曲では例えば「深い川(Deep river)」の「ヨルダン川を超えればわが故郷がある」という歌詞は「オハイオ川を超えれば南北戦争の北部に属し、奴隷を解放してくれる自由州がある」というメッセージですし、「ヨシュアはエリコと戦った(Joshua Fit the Battle of Jericho)」もまた「エリコの城壁=我々が囚われている壁を破れば自由になれる」というメッセージが込められていたと言います。他にも「鋤から手を離すな」というフレーズが北斗七星(別名・鋤)の示す方向、つまり北に向かって歩き続けろという指示で、複数の曲に含まれていたりもするのです。苦境に喘ぐ奴隷たちに、解放手段について教えると同時に、約束された救済と励ましを与えてくれるのが、彼らの民謡である黒人霊歌でした。
 
アンドロイドは使い捨て
 さて、一本道で比較的短いこの章ですが、ちょっと突っ込んでおきたいところがいくつかあります。まず一つ目、開始地点となるファーンデール地区は、デトロイトでも比較的内陸部にあります。この地域から湖に出ようとすると、最短距離でも25キロ以上あるんです。ゲーム上じゃ1キロもなさそうだったけどな!
 デトロイトの地理的な面で触れた通り、この街はもともと製造業で作ったものを水上輸送で海外に輸出することで栄えてきました。なので、ジェリコが放棄された貨物船であることはとても筋が通っています。加えて、近年の海運業では、税負担の軽減や賃金の安い外国人船員の雇用をやりやすくために、パナマなどの国で船籍を登録するケースがほとんどです。もしかすると、ジェリコももともとはアメリカ国籍の貨物船だったものが、デトロイトの衰退と海運業界内の競争で放棄されることになった船なのかもしれません。
 ただ、デトロイトが「安い労働力」であるアンドロイドを大量に供給できるようになったのですから、それを活用すれば海運業界も大きくコストダウンできるようになるかもしれません。もしそうなれば、アメリカの経済を押し上げる一つの手段になり得るでしょう。今も世界の国際輸送のほとんどは、海上輸送で賄われているのですから。

 もう一つ、駅を降りた後、二番目のグラフィティに向かって右側のベンチで会話している親子。これは、オープニングでリブートされたカーラを覗き込んでいた客の女の子と、この母親です。オープニングではどうやら、家庭用のアンドロイドを買ったようですが、「おばあちゃんのやることがなくなってしまうので」たった2日で廃棄してしまうようです。そりゃアンドロイドも反逆するわな。

 というかおばあちゃんの相手をアンドロイドにさせてはどうか。大人しいし、話はよく聞いてくれるし、いい茶飲み友達になってくれそうなんだけどな(単におばあちゃんがアンドロイド嫌いだっただけかもしれませんけどね)。

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