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ROOM’s Circle by M Vol.4「アーヤ藍さん/映画キュレーター」

ミラツクのメンバーシップ「ROOM」で展開する「ROOM’s Circle」。コミュニティ内外から素敵なゲストをお招きし、緩やかにお話を伺うオンラインの場です。テーマではなく人にフォーカスし、ゲストの魅力を通じてネットワークや繋がりを創造してきました。
ROOMメンバー主導で始まった新しい取り組みROOM’s Circle "by M"、第4回ゲストはアーヤ藍さんです。

アーヤ藍(映画キュレーター)
1990年生まれ。2012年慶應義塾大学総合政策学部卒業。
在学中アラビア語の研修でシリア・アレッポに滞在するも、帰国直後から紛争状態になる。情勢が悪化するなか、シリアのために何かしたいという思いが募り、2014年、ユナイテッドピープル株式会社に入社。環境問題やダイバーシティなど、社会的なメッセージが詰まった映画の配給・宣伝事業を取締役副社長という立場で約3年間手がける。
2018年よりフリーランスになり、映画イベントの企画運営や、社会課題に関連した記事・冊子のライティング等に携わっている。苗字の「アーヤ」はシリアでもらったアラビア語のニックネームで、約6年前より仕事上の名前を自ら改名したもの。

本編

 みなさん、こんにちは。アーヤ藍です。変わった名前だと思われるかもしれません。アーヤという名前は行政上の名前ではなく、中東・シリアでもらったニックネームです。「アーヤ」はアラビア語で「奇跡」を意味するのですが、大それた思いがけないことが起きるような「奇跡」だけではなく、例えば花が咲いているところにささやかな神の息遣いを感じるような、日本でいうところの八百万の神のように、ささやかな喜びや素晴らしさに神の息遣いを感じるようなときにも使われる「奇跡」です。7年ほど前からこのアーヤという名前を使っています。

大学のアラビア語学習の研修先がこのニックネームをもらった国、シリアでした。人懐っこい方が多く、街を歩いていると知らない人からも一緒に写真を撮ってとお願いされたり、バックパッカーにも人気の国の一つでした。シリアの温かさに惹かれてまた絶対に訪れようと心のなかで誓って帰国したのですが、その直後2011年4月頃から内戦状態となってしまいました。

 少し前まで自分が過ごしていた場所に爆弾が落ちて壊れていったり、たくさんの素敵な思い出をくれた現地の友人たちがSNSで「この恐怖が続くくらいなら死んだほうがマシ」「どこにも安全な場所がない」などと発信しているのを日々目にするようになって…。そんなシリアの状況を、他人事にはしたくないと強く感じました。

 でも何ができるか分からずに悶々としていたなかで、「ザ・デー・アフター・ピース」という映画と出会いました。1年のうち1日だけでも戦争などのあらゆる暴力を世界中で止めようというピースデーを制定するために立ち上がったイギリス人の俳優がいて、彼の活動を追ったドキュメンタリー作品です。この映画を通じて、ピースデー(9月21日)をもっと多くの人に知ってもらえたら、ピースデーにも争いが止まらないシリアのような国へ関心を持ってもらえるんじゃないかと思ったんです。

 それで、当時は全く映画と関係ない、インターネット関連の企業に勤めていましたが、その会社の会議室を使って自分で上映会を開催したり、全国の大学生に上映会開催を呼びかけるプロジェクトを立ち上げたりしました。
 そうやって活動するなかで、本当に自分が伝えたい言葉を伝えられる心地よさや、本気で伝えた言葉が届いて仲間が増えていく嬉しさを感じて、ご縁も重なって「ザ・デー・アフター・ピース」の配給元でもあるユナイテッド・ピープル に入社しました。「人と人をつないで世界の課題を解決する」 をミッションに、環境問題やダイバーシティーなど、社会的なメッセージ性のある映画を配給しています。

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アーヤさんがユナイテッド・ピープルで配給に携わった作品

 3年で6作品の配給に携わったほか、市民上映会用に貸し出しもしていたので、幅広いテーマの映画を届けるなかで、私も様々な世界の問題について学ばせてもらった時間でした。2018年からはフリーランスになり、映画配給以外に執筆活動なども交えながら、変わらず社会問題に関する発信を続けています。

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映画祭では作品やトークゲスト選定も

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環境問題に関連するクリエイティブ企業で映像制作の仕事

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昨年7月からはコロナをきっかけに東京を離れて石垣島で暮らし始めました。

高山:私はメディアで発信する中で、社会問題をどう知ってもらうかに苦戦したことがありますが、 課題だと感じたことはありますか?

アーヤさん:元々その問題に関心のある人にはリーチしやすいけれども、そこからどう層を広げていくかは課題です。また私自身は、多様な社会問題に触れる中で、実は一見関係ないように思える問題同士が、つながっていると感じるようになったのですが、特定の問題にだけ関心がある人が多くて、問題ごとにコミュニティが分断してしまっているようにも感じます。

高山:同じような問題意識を感じます。なぜ分断してしまうのでしょうか。

アーヤさん:社会問題に共感したり関心を持ってもらううためには、頭で理解するだけでなく、心で共感したり、追体験するようなきっかけが必要なのではないかと考えています。映画やドキュメンタリーはそういう入り口になりやすいのではないかと思って届けています。

高山:映画を届ける中で観た方の変化を目の当たりにしましたか?

アーヤさん:直近だと、9月〜10月に開催していた大丸有SDGs映画祭で子供の貧困に関する映画を上映した際に、観にきてくれた友人が将来里親になることを真剣に考えようと思うといってくれました。またフードロスに関する「0円キッチン」や「もったいないキッチン」も身近な問題のため、家に帰ったら冷蔵庫を見直そうと思うなど、すぐに行動の変化に結びつきやすかったように思います。
 あと、変化とは違いますが、思い出深いのは、アメリカの同性婚裁判 を追ったドキュメンタリー作品「ジェンダー・マリアージュ」を届けた時です。当時は今ほどLGBTという言葉も知られていなかった時代で、観に来てくださった当事者の方から「これを観れて本当に良かった」「生きてて大丈夫なんだと思えた」「自分たちにも結婚する権利があると思えた」などといってもらえたときは、私も「生きていてよかった、この仕事をやっててよかった」と思いました。

高山:映画は観た人の反応がすぐに見られるのが良さかもしれないですね!

参加者と質疑応答

・社会問題を伝える手段として映画を選んだのは、映像が持つ特性が問題を伝える手段として優れているという認識からですか?

アーヤさん:私は映画を選んだというよりは、ご縁で映画の世界にいつづけている感覚です。これが一番という手段はなく、写真や文字など他の手段も、それぞれに持っている力があると思っています。

・今一番関心のある社会課題はなんですか?

アーヤさん:最近は刑務所の内側に興味があります。『プリズン・サークル』という日本の刑務所を取材にしたドキュメンタリー映画をご存知ですか?取材交渉だけでも6年かかった作品です。日本で唯一、受刑者に対してカウンセリングのような対話の機会を設けている場所を追った作品なのですが、その映画を見ていると、インタビューしてみると、犯罪を犯した人たちも、過去にいじめやDVなどの暴力を受けていたり、社会の冷酷さに絶望しているのがわかるんです。だから、「本当にこの人たちだけが悪いのだろうか?」と考えさせられます。

・問題と問題が繋がっていかない、情報が届かない理由は何でしょうか。

アーヤさん:現代は情報はものすごく多いし、インターネットさえあれば、世界のいろんなことに触れられる。でもその情報にはリアルな体感が欠けていると思います。自分自身で出会っていくことや、経験していくことが大切なのではないかと自戒をこめて、感じています。

・ユナイテッドピープルを飛び出したのは何故ですか?

アーヤさん:社会問題をテーマにした映画を扱っていることで、いい人、すごい人のように、自分の像ができあがっていく感覚があって、そこから離れたかったのが一番大きいです。いいところもだめなところも含めて、人間らしくありたいですし、映画にかぎらず、もっといろんなことに挑戦したいとも思いました。

石垣島で暮らすことになったのは何故ですか?

アーヤさん:日本における気候変動の影響を追うドキュメンタリー作品の撮影がきっかけです。北海道・長野・岡山・沖縄の自然に近い場所で暮らす方々を取材するなかで、毎日身近な自然を観察しているからこそ、ささやかな気候の変化に気付けることに感銘を受けました。自分も同じように自分自身の感覚を磨きたい、自然に近いところでもっと過ごしたいと思うようになりました。

アーヤさんありがとうございました!

(聞き手:高山道亘、文章:草刈麻衣)

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