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リクルートの人事として体感した心理学的経営

先日、私が担当するファンリーシュアカデミアの2回目の講義を行いました。ファンリーシュアカデミアは経営に深く関わり、事業と社員両方の観点から組織・人の価値を最大化する「ストラテジック・ピープルパートナー(SPP)」育成を掲げるアクションラーニング形式のプログラム。

ちなみに今回はZOOM開催となったので、4時間講義なんて時間持つのかな?って思ったけど、ブレイクアウトルームで少人数での議論もできるし、休憩も入れていくことで、無事開催できたのもよかったよかった。

今回のお題は「心理学的経営~個をあるがままに生かす~」という本を題材に、実際にリクルート創業者の江副さんであり、大沢さんに師事してきた株式会社EHRの兼松さんをスペシャルゲストに来てもらい、講義をさせて頂いた。講義が楽しかったんだけど、なにより自分自身も勉強になったので、少し議事録的にメモを残しておきたいと思う。

心理学的経営とは・・・

こちら読んでください(笑)元々は1993年に発売された本なので、今から27年前。不思議なのは今読んでも新しく感じる本。一度は絶版になり、amazonで10万くらいの値をつけていたが、兼松さんのご尽力もあり、昨年再販されることになった。(約30年前の本が再販されて、異例のヒットだとか…)

リクルートの強みは個なのか、組織なのか

リクルートという会社のイメージをお聞きすると、ほとんどの人が「個が強い、強そう」って言ってくれる。(きっと褒められてない場合もあると思うけど、前向きに受け取っておこう)

実際、採用8割(採用で勝負の8割は決まる!)ってくらい採用にこだわっているので、優秀な人、素敵な人が多いと思う。

でも、この「心理学的経営」を読むと、リクルートという会社が、組織としていかに「個をあるがままに生かす」ということに拘り、いろいろな仕掛けをしてきたかというのが分かる。

自分自身、事業にいるときは、常に高い山を目指して頑張ってきたと思っていたけど、この本を読んだり、人事を経験させてもらったことで、いかにリクルートという会社が組織として、個人個人に最適な場所を用意してくれてたかというのが分かる。若い時にMVPとって「やったー」とか言っていたのが恥ずかしいくらい、手のひらで踊らさてる感じだったかも(笑)もちろん、これはこれでとてもいい成功体験になったのだけど。。。

リクルートの創業は1960年で、今年で60歳。60年前から個を起点に強いチームを作るということにチャレンジしているというのが凄いし、60歳になっても変化であり、カオスを大事に、新しいチャレンジしているのが強さの秘訣ではないかと思う。

一度作ったホールディングス&事業会社体制も、来年には再度ALLリクルートに統合する。これもそうだけど、一度決めたことであっても、状況が変われば対応も変える。この柔軟性がまさに、『最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である(ダーウィン)』だなぁと思う。


兼松さんから教えてもらったこと(議事録的に)

図1

本に書いてあることは、本を読んでもらうとして、兼松さんと一緒に講義して、学びがたくさんあったので、メモしておきたい。

リクルートは元々は東京大学新聞というサークルからスタートしている。なので、サークルにはいろんな人材がいる。やる気がある人も、無い人も、サークルに対する意欲も違う。そんな仲間たちとやっていくには「個をあるがままに生かす」しかなかった。
江副さん、大沢さんを始め、森村さん、鶴岡さんといった創業時メンバーはみんなユングのタイプ分類的に「内向型」で、いわゆるリクルートイメージとは対極的な人達。事業で成功するために、自分たちとは違うタイプを好んで採用した。
個をあるがままに生かすことは、個人の成長につながる。個人の成長は必ず、組織の成長につながる。
個をあるがままに生かすのと、個が好きなコトを好き勝手にやるのは違う。単にわがままを聞くことではない。
リクルートの戦略は単純。学生、企業が喜ぶことをやり、結果としてリクルートも喜ぶハッピートライアングルを作ること、以上。そのためには、個が生き生きと働くことが不可欠だった。
「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」のように、社員の心に響くメッセージを作ることがとにかくうまかった。会社の考えをトップダウンで下ろす(言えば分かる)のではなく、社員が当事者として動き出すためのメッセージを出していた。
「で、おまえどうしたい?どう思う?」はやりたいことをやりたい人に任せるシンプルな手法であり、部下の個を理解するためには必要なコミュニケーション。
カオスでゆらぎをつくり、そこで成長させる。それで組織を伸ばす。安定は衰退。
一人一人の成長実感を作りためには、本当の意味での「フィードバック」が大事。なんちゃって1on1ではない。ちゃんとフィードバックするためには、「今ここ」で起こっていることをちゃんと見ていて、その場でのフィードバックが大事。
人間をどう捉えているのかが大事。人は非合理なもの。それをビジネスという合理的なものにおいて、どう生かしていくのか。人は非合理だということを分かっていないと、うまくいかない

などなど。兼松さん自身も、1000人採用しろと言われたり、毎週人事異動があるような組織だったり、リクルート事件があったり、、、カオスの中を生きてきたような方。ホント、おもしろい。

リクルートの人事として体感した心理学的経営

僕自身は、人事になりたかったわけではないのだけど、ひょんなことから、リクルートホールディングス体制に移行していく際、リクルートを分社して、グループ会社と統合するといったウルトラCを推進するタイミングで人事に抜擢してもらった。そこで受けた薫陶は、今思えば「心理学的経営」そのものだと思う。

1つは人事制度。個をあるがままに生かす仕掛けがたくさんある。

WILL-CAN-MUSTというミッション設定や、表彰制度、人材開発委員会(人材育成/適材適所議論)、キャリアウェブなど(社内公募)、自己申告制度(経営陣・人事との1on1)、PVA(Professional Value Assessment/360度サーベイ)、抜擢人事(降格もセット)、New RING(新規事業提案制度)などなど、いい上司にあたるかどうかみたいな人に依存をしない仕組み、仕掛けが出来ている。これも組織力。この記事なんかが分かりやすいと思うので、興味ある人は読んでみてほしい。

図1

もう一つはタレントマネジメントというとカッコいいけど、人事異動。心理学的経営の本の中にも

組織活性化のポイントは「一に採用、二に人事異動、三に教育、四に小集団活動、五にイベント」

ってかいてあったけど、これの共通は『カオスの演出』とのこと。ここまでくると自ら機会を創り出しが、「自らカオスを創り出し、カオスによって自らを変革せよ」とでも言われている感じがする(笑)

僕はリクルートキャリアの人事として、この人事異動を担当させてもらっていたが、社長と議論をしていると、社長はとにかくエースをその部署から抜こうとする。「そんなことをしたら、この部署の業績落ちますよ」みたいなことを言うんだけど、「じゃ、このエースはこの既存の部署で最短最速で成長するのか?」と聞かれるわけです。というわけでやり直し(涙)

そして、そのエースを今までの経験では通用しないような部門や一段上のレイヤーポジションにチャレンジさせていく。そうして、単なるゼネラリストというより経営人材・リーダーを作っていくのがリクルートが人材輩出企業って言われる所以だと思う。

甲子園優勝(負けたら終わりのトーナメント戦/短期業績)のために、エースを連投完投させるようなやり方では、リーグ戦(中長期計画)は勝てない。リクルートが組織として成長し続けているのは、このエースに依存しない戦い方だからだと思う。

個人が強そうなリクルートだけど、実は組織としてとてもとても強い。それを嫌ってほど体感したのが、人事時代だったと思う。何が強いって、これを全て意図的にやっていること。末恐ろしい会社である(笑)

最後に・・・

この「心理学的経営」はリクルートだけのものではないし、どこの会社でも取り入れること、真似をすることは出来ると思う。それくらい、原理原則に則っているし、内容はシンプルだと思う。

兼松さんも仰っていたけど、「個をあるがままに生かすことは、個人の成長につながる。個人の成長は必ず、組織の成長につながる」ってことを信じれるかどうかだと思う。

特に、今みたいな変化が激しい時代だと、これが簡単なようで、難しいんだけどね。。。


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