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日本円の為替レートについて考える①

【通貨の売買】
国際決済銀行(BIS)が公表した3年に1度の調査によると、世界の外国為替取引高は1日当たりの平均が7兆5,000億ドルです。通貨別では米ドルが対象の取引が全体の88%の6.6兆ドル、ユーロが31%の2.3兆ドル、日本円が約17%の1.2兆ドル、ポンドが13%の0.9兆ドル、人民元は約7%の0.5兆ドルです。

(出典:BISホームページ

これは1年の取引量ではなく、たったの1日の売買額です。円でも1日に180兆円の売買があります。株価、金融、経済の多くの部分が通貨の売買が全ての起点となっている理由もわかります。

東証の株の売買は増えていますが、それでも約5兆円です。世界の外為市場での円の売買と比較すると3%未満です。東証での株の売買が5兆円の時、ドルー円の取引は1兆ドル、約150兆円です。

日本円の金利はほぼ0%。いわばゼロ金利の債券です。このゼロ金利の債券としての通貨は、マネーの国際的な移動になります。円安の原因であるドル買いは、円が海外に行くことです。逆に、円高の原因であるドル売りはマネーが円に流入することです。

国際金融の窓口は大手外為銀行の国内店頭と、外銀の支店です。通貨では日本の銀行内にあるドルもドル圏の通貨です。米銀にある円は円圏の通貨です。

円安は、「円売り」が「円買い」に勝って、日本の円が海外に出ることです。円高になるとは「円買い」が「円売り」に勝って海外の通貨が日本に流入することです。

【異次元緩和の円が500兆円】
日銀は、異次元緩和として2013年から約500兆円の国債を買い増して、円通貨を500兆円増やしました。2013年から大きく増加した円が国内の設備投資、貸付金、株や債券の購入になれば、日本経済の名目成長率(物価上昇率+実質GDP成長率)は4%から6%に高まったでしょう。

その原理はフィッシャーの交換方程式でした。貨幣量×流通速度=価格×取引量、これをMV=PTと表します。(M:流通貨幣量、V:流通速度、P:価格(物価)、T:取引量)。

これはアメリカの経済学者・統計学者であるアーヴィング・フィッシャーが定式化した古典的な貨幣数量説で、フィッシャーの交換方程式と言います。

貨幣の流通速度(V)は、一定期間に「貨幣が何回」人から人へ渡るか、という回数のことで、価格×取引量(PT)は、総産出額を表します。

貨幣の流通速度を説明する前に、貨幣数量説の理解が必要ですので簡単に解説していきます。

<M:貨幣量>
貨幣量(Money)とは、世の中にある貨幣の量のことを指します。例えば世の中に1,000円札が5枚しかなかったとします。そうなると、世の中の貨幣量は5,000円となります。

<V:貨幣の流通速度>
貨幣の流通速度(Velocity)は、ある期間の貨幣の使用回数のことを言います。

この世の中に1,000円しかないこととします。その1,000円を使って、お弁当を1,000円で買えば、1回の使用になります。1,000円を受け取ったお弁当屋さんがその1,000円を使えば、1,000円の使用回数は増え、2回となります。

<MV:購買価格総額>
1,000円札が5枚しかなく、それぞれの1,000円が4回の取引を行えば、その経済圏は20,000円になります。この20,000円を購買価格総額といいます。

つまり、貨幣の流通速度が早いほど貨幣が頻繁に使用され、頻繁に交換されていることになります。

<P:物価(Price)、T:取引量(Transaction)、PT(販売価格総額)>
Pは物価(Price)を表し、Tは取引量(Transaction)を指します。

例えば、1個あたり200円のりんごが年に100個販売できたとします。そうすると、販売価格総額は20,000円となります。

<MVとPT(購買価格総額と販売価格総額>
貨幣量と流通速度、物価と取引量が同じ経済圏であったとします。そうすると、その経済圏の購買価格総額と販売価格総額は同じになります。

MV=PT

<マネーストック統計と名目GDP>
MとPは以下の数値に置き換えることが可能です。
・M:マネーストック統計
・PT:名目GDP
※物価変動を加味するため名目GDPを使用

通貨量は一国の通貨量となるためマネーストック統計、販売価格総額は一国の経済規模を表す名目GDPとなります。

<一国の貨幣の流通速度>
フィッシャーの交換方程式(MV=PT)から貨幣の流通速度が導き出せます。

MV=PT → V(貨幣の流通速度)=PT/M → V=名目GDP/マネーストック統計

『貨幣の流通速度=名目GDP/マネーストック統計』となります。2003年からの時系列でみると以下のグラフのようになります。

(出典:内閣府、日銀データより筆者作成)

青の実線は貨幣の流通速度、点線はトレンドラインとなっています。トレンドラインよりも実線が下回っていればマネーが過剰であったことになります。

時系列でみると、年々貨幣の流通速度、すなわち貨幣の使用回数が減少していることがわかります。

フィッシャーの交換方程式より以下の条件が揃ったとします。

・PT(名目GDP):減少
・M(マネーストック統計):増加

つまり、この2つの条件が揃えば貨幣の流通速度が減少することがわかります。

このことから、日本の貨幣の流通速度が減少している原因として2つの要因が挙げられます。
①日本経済停滞によるマネー需要の低下
②日本銀行によるマネタリーベースの増加

日銀は名目GDPを上昇させたいという意図からマネーストックを増やしました。しかし、貨幣の流通速度から見ると、そのマネーの多くは銀行預金に滞留しています。

【巨額に増えた円は海外へ流出した】
日銀が、名目GDPの成長率を上昇させたい意図で増やした円は、国際金融では1年に20~30兆円も海外(恐らく80%は米国)に円売り/ドル買いとして流出しました。

そしてそのマネーは米国株を押し上げました。約11年(2013年~2024年)の米ドルへのコンスタントな円の流入が米国株の買いを増やして米国株を上昇させ、米国の銀行からヘッジファンドへの貸付金を増加させ、ウォール街のヘッジファンドに集まったマネーは、米国から海外への投資へつながっていったのです。日本株も大量に買われています。

つまり、日銀が増加させたゼロ金利の円は、日本経済には寄与せず上滑りして、金利の高い米国へ向かいました。この結果が現在の円安です。

米国は9%のインフレとなり、22年3月から5%の利上げを行い、マネー量を絞っても米国株が上がり続けた要因は、ゼロ金利を続ける円のドル買い、つまり円マネーの米国への流出が巨額にあったからです。これは国際会計では日本(銀行、企業、政府)の対外資産の増加になっています。(日銀資金循環統計:2023年12月末1499兆円)

以下が対外資産の伸びを表したグラフです。

(出典:日銀資金循環時系列統計データより)

財務省のデータで見ても、2013年末に797兆6860億円の対外資産が2022年末には1338兆2360億円増加しています。その80%が米国と思われます。

通貨レートでは輸出超過の企業を除く日本経済の全体(輸入超過企業と国民の家計)のためには「円高」の方が良いと言えます。しかし、政府・日銀の通貨政策は2000年代からずっと、今も円安政策です。1ドル150円は当たり前となり、151円でも介入には動かず、152円を攻防戦としているように見えます。

このテーマ②へ続く

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