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心の空いているところが市場になる【第8回定例会:コルク佐渡島さんサマリレポート】(その2)

NPO未来ラボの定例会(2018年9月10日開催)では、コルクの佐渡島庸平さんを招いて行われました。市場のとらえ方、コミュニティと人についての考えお話を聞きました。


1979年生まれ。東京大学文学部を卒業後、2002年に講談社に入社。週刊モーニング編集部にて、『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『モダンタイムス』(伊坂幸太郎)、『16歳の教科書』などの編集を担当する。2012年に講談社を退社し、クリエイターのエージェント会社、コルクを創業。著名作家陣とエージェント契約を結び、作品編集、著作権管理、ファンコミュニティ形成・運営などを行う。現在、漫画作品では『オチビサン』『鼻下長紳士回顧録』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)『ドラゴン桜2』(三田紀房)等の編集に携わっている。従来の出版流通の形の先にあるインターネット時代のエンターテイメントのモデル構築を目指している。

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視点でニーズの広さは変わる

今井: ニーズがないからこそ席が空いていると思うのです。そこをどう見極めたらいいと思いますか?
僕は、社会課題のニーズがある場合だったら、必ずその当事者たちの声が拾えるので、それがある時点でニーズがあると思うのですね。あとはどれくらいの規模感か、どれくらい問題にできるかだと思ってます。

佐渡島: LGBTも、インターネットでLGBTの人たちが繋がらなかった時に、ニーズがないって思っていることが狭さだったんです。でも、インターネットで繋がるとずっと広くなったののですよ。

今井: あ、わかる!

佐渡島: だから、今ニーズが狭いって言っているのは、どういう視点で見たときに狭いのか。その町で見ると狭いのかもしれないけど、地球規模で見ると広いのかもしれない。日本規模で見ると狭いのかもしれない。

今井: あと、フローレンスの駒崎さんが、すごいキャンペーンしてるなと思った事がありました。ニーズの数が少ないケースであっても、そこに対して寄付を集めたケースがあるんです。

虐待で赤ちゃんが亡くなるケースが、全国で23人くらい毎年出ているんですが、それを解決させるための「特別養子縁組」という仕組み作りのために2500万くらい寄付を集めたんです。そんなふうに少ないニーズであったとしても、やろうと思ったら、そこに対してはファウンディングできるっていうのは、実例としてもおもしろいと思います。

佐渡島: 赤ちゃんって、人間のかわいい時の最大じゃないですか。これ、お年寄りが対象のファウンディングなら、ほぼ成立しなかったかもしれません。

今井: そこは難しいかもしれないですね、ファウンディングの意味ではね。

気持ちが動きやすい事は短期的にしか社会を動かせない

佐渡島: 例えば、「海鳥が石油まみれになってる事」や、「クジラが変な物飲んだ事」と同じようなことですけど、今アメリカでやっている、ストロー廃止運動(プラストロー)って知っています?

 あれ、別にやってもいいんだけど、世の中を変えることの量で言うと、たいしたことないじゃないですか。“象徴的“なんですよ。 象徴的なニュースだったからみんな取り組んでいる。でも、それに取り組む労力って、本当は全然違うところにかけたほうが世の中自体は変わるはずなんですよ。 

象徴的で気持ちが動きやすい写真や、シーン、エピソードによって、短期的に社会が動くことはある。でもそれって10年20年っていう短い単位だったら象徴でごまかせるけど、100年単位で社会を変えて行く時には、本当の課題じゃないので、消えていきますよね。

でも、10年20年、そういう仕組みの中で活躍できたら、人生が60年や70年だった時はそれなりに活躍できた風に感じて、自分の人生終われるかもしれない。でも、実際は難しいなと思いますね。

今井: ハイプラの問題は、たぶんそういった力で全部やってきたと思うのですよね。スタバの企画とかは、戦略の一つとしてはあるかもしれないのですけど、確かにまだ問題の一端ですもんね。

佐渡島:企業が社会問題に取り組んで、こういった企画に乗っかる事で「変化が伝えやすい・マーケティング的に伝えやすい事例」なのだと思います。

今井: なるほど。仮に小さいニーズだったとしても問題解決には使える、という事は、強調して言いたいですね。

席を取れる人と取れてない人はどう違うのか

佐渡島:「感じている問題」、「解かないといけない問題」っていうのが、自分の原体験に根差していて、本当にそれを変えないいけないと考えている人について、今井君の不登校や対人恐怖が自分の原体験に根差してると思います。だから、その課題に対しての行動はしたほうが良いっていうのは思います。よく僕が、「よくわからないと感じるNPO」って、その人の人生の中で、「少しだけ出会った困ってる人」のことを絶対に解決しないといけない社会問題だ、と思っている団体。その団体はどれだけ頑張ったって、マーケティングうまくやっても、席が空かない気がする。席が作れないという事かもしれない。

今井:佐渡島さんはNPOに限らず、ポジションに関して強く考えてらっしゃると思いますがそれは昔からですか?

佐渡島:そうですね。何でかと言うと、今、『コルク』っていう会社自体がやろうとしてることは、誰かがもう持ってる席を、よりITを使ってうまく取るのではなくて、“新しい席を作ろう”という考え方なんです。

今井:“作ろうとしてる”ということを考えているから、そういうふうに発言されてるってことですよね。

佐渡島: そうです。例えば箕輪さんを見てると、わかりやすい。箕輪さんはビジネス本の編集で、基本的にシュリンク(縮小)してるマーケットなんだけど、出版社がITやSNSを一切使いこなしていない。それをやってる人が1人もいないので、完全に大きい席があって、そこにスッと彼は入っていけるんです。
 箕輪さんは、出版業界の書店流通を上手く活用している。その上で例えば今回の本を売るのに、サロンメンバーに協力してもらうなど、”やりかた”をアップデートしているのです。

 今、僕は人が、“物”による満足から“心”による満足へと対象が全部変っていくのではないかと思っています。

今井:同感です。

心の空いているところが市場になる

佐渡島: “心”による満足に変わっていく時、寄付をするという行為によって、寄付された相手が社会を変えてくれることで心が満足するという場合もある。あるいは、僕がやろうとしている事についてなんですが、例えば、『宇宙兄弟』は、「六太」がチャレンジする物語なんです。

 だから、『宇宙兄弟』の服を作ったり、カバンを作ったり、体験を作っていったりすると、すべてそれを身にまとったり体験を行った人は、自分が今挑戦できたり、挑戦した結果、今の自分があるのは、全部『宇宙兄弟』の“ブランド”のおかげであると感じる。「その服を着てたから」テストの時にも勇気がもらえていた事や、迷った時に鏡を見て、「このネクタイを見ながら自分に勇気をつけられた」というような、心に関することに影響を与えられるだろうと思っているんで。

今井: それはすごいですね。

佐渡島: 基本的には、高級ブランドっていうのはデザイナーの物だったんですよ。でもデザインっていうのが、アドビでも、人工知能で相当なデザインができてしまうので、コモディティ化しないと思ってるデザインが、コモディティ化してるんですよ。

製品を作るっていうことが、3Dプリンターによって全部コモディティ化していくんです。そんなふうになっていくと、「どんなふうに心を動かすのか」という事だけに関わってくるんです。

今井: 同感ですね。

佐渡島:それで、“心”の中で空いている所っていうのがいくつかあるんです。けっこう大きいのが、やっぱり“挑戦する“事は、大きい市場なんですよ。心が全部市場なんです。心の市場の中に、“挑戦する”、“リラックスする”…“マインドフルネス”というのがヨガで取られてるのですよ。

今井:(笑)

佐渡島: 『パタゴニア』も空いている所を取ってきてますよ、

「仕事中もサーフィン行くのOKだよ」みたいなこと言ってるんです、世の中、誰も席がないと思ってるところに実は席があるのです。『中川政七商店』は、“伝統工芸を残す”という考えで、『みんなは「伝統を残すと何がいいのかよくわかんないけど、良い!」っていうふうに思いやすい』、という「席」があって、それを取りにいってるのです。こんなふうに、「心・感情の中で席になり得るものは何だ」と考える。

空いている席を開発して、ビジネスにしていく時代が来るだろうなと。それが5年後なのか10年後なのかわからないけど、そういう時代が来るだろうと企業家として考えているから、その席自体を漫画小説で作っていこうと思ってるのですよ。

今井: めっちゃカッコイイですね。席を取っていく、というのは感覚的にわかりますね。僕もNPOや寄付に関しては、誰もやっていないからこそやろう!と思っていたところがありました。

その先に求めるモノを理解し仕掛けよ

佐渡島:だけどね、“寄付”っていう言葉が良くない。お金を払うことによって何を得てるのかっていう、得てる時の感情。“寄付をした”、“いいことをした”っていうことじゃないのです。「台湾の人がなぜ日本に寄付するのか」っていうと、「日本人と繋がりたい」っていう気持ちがあるからですよね。

今井: そうですね。

佐渡島: “繋がった”っていうことを、しっかり明快に返すと、もっと寄付しようっていう気持ちになるわけです。
僕が『フォスター・プラン(現在のプラン・インターナショナル)』という組織を知ってるのは、『フォスター・ジャパン』に寄付すると、『フォスター・プラン』が育てた子供から、半年に1回手紙が来るんです。

今井: それが強いんですね。

佐渡島: 「その手紙って見てみたいな」、「そこに旅行に行ってみてもいいかな」、「そこの地域に…」って思うわけです。関係を誰かと結びたいのです。その関係を結ぶ時に、例えば「合コンで女性と出会うのか」、「マッチングアプリで出会うのか」、「NPO未来ラボの様なオンラインサロンで出会うのか」によって、関係性が違いますよね。その関係性の築き方を設計してあげるのです。


今井: 最近Facebookで、うちの寄付者さんのグループを作っていて、クローズドだからこそ公開できる情報があるんです。例えば、子供たちの情報ってオープンには公開できない。でもその寄付者さんのコミュニティは「グループ」だから公開ができるんです。ある程度の情報を公開してたら、すごいみんな面白がってくれて、やっぱり関係性の築き方がそこでとても変わったと思っています。それがウケた事で、寄付者さんにアピールできることが変わってきたと考えるようになりました。先ほどの「繋がりたくなる寄付」、「繋がりを生み出すような寄付」のような事ができると強いですよね。

人は役割を“言い訳”にして行動する

今井:コミュニティを作る上で、「ゴール設定をすること」、「安心・安全の空間を作ること」は共感していますが、それで何か“アップデートした事”ってありますか?

佐渡島: 最近感じてるのが、当たり前のことなんですけど、“人は動物だな!”っていうこと 。大人同士のコミュニケーションも、お互いに動物なので、「人と馴染めない」ですね。大人になるって、社会性を身につける事だと思いますよね。でも、例えばコルクラボのメンバー120人が200人になると、急にみんなコミュニケーションが取れなくなります。そこが安全・安心な場所でなくなってしまっているのです。人間も動物なので、安全・安心に感じてないと人と会話できないし、会議する情報の質が変ってしまうという事です。

 「人って簡単に、場や人に馴染めなくなる」と思っています。それで、その人の緊張感を解いてあげて、場に馴染んで、人に馴染むようにするためには、思ってるよりもたくさんの工夫をしてあげないといけない。その工夫とは、“言い訳作り”です。例えばここにいるメンバーはこのサロンに入って、サロンのメンバーで何かを成し遂げたい、協力し合おうと思ってるのですから、お互いをよく知ってたほうが良いのです。

例えば、僕らがこの対談を始める前に、皆さん座ってましたよね。座ってる時に、もともと知り合いではなかったら、凄くしゃべったりしないですよね。でも、今井さんが「ちょっと自己紹介して待っておいて」って言ったらしゃべるじゃないですか。ここは、“距離を縮めたほうがいい”っていうことを頭ではわかってはいても、「“自己紹介しろ”って言われたからしてます」という言い訳がない限り行動できないんです。

今井: 勝手にしゃべっちゃいますね、僕は。

佐渡島: そう、それは珍しいのですよね。

今井: あ、そうなんですか。

佐渡島: そう。だから結局多動力があって、バーンとそういうふうな時に緊張せずに馴染める人って、全然いないのですよ。

今井: …ああ、俺、珍しいんだな…(かなり小声でつぶやくように)

(会場 笑)

佐渡島: 相当珍しい事ですよ、だから。全体の1~2%じゃないですか?だから、コミュニティを作った時に、基本的にそのくらい馴染めなくて、その馴染むまでの階段が、じゃあこれで自己紹介をしたとしてもまだ馴染んでないし。さらに、自己紹介するじゃないですか。それで、大人であっても、相手の名前がよく聞こえなかったり、5分くらいすると忘れちゃったりするわけです。それで忘れちゃってると呼びかけづらい為に、凄く会話量が減るし、会話が限定されるのです。

(会場 笑)

今井: めっちゃわかります。

佐渡島: だから、ほとんどの人がお互いの名前を忘れちゃってるっていう前提で、もう1回名前を言わせ合う事などの細かい工夫を多く入れないと、全然人同士は馴染まない。最近はコルクラボが200人になったことで、「人がどのくらい人に緊張してしまうのか」ということへの理解がすごく深まりました。

今井: なるほど。関わり方の設計について、僕が良く言ってるのは、役割の“余白”。そういう部分を、コミュニティを作る上では凄く重要だと思っています。毎回思わされるのです。

佐渡島: そうですね。絶対できる役割を与える事は、重要なのです。例えば、このイベントは、「配信係」がいますよね。その係って、スマホを繋いでフェイスブックライブのボタンを押すだけなのです。重要なのは「来ること」と「スマホの電源を確保すること」と、「三脚持ってくること」なんです。再現性高く出来て、「今日も貢献できるぞ」と思って来れるのです。“貢献できるぞ”とは思わなくても、コミュニティに何かプラスなことができます。それによって、この場に来やすくなるんです。来る理由を用意してくれているという事ですね。事前に頼んでいないで、誰かその場にいる人に頼むとします、すると「絶対に来ないといけない」という気持ちが芽生えなくて、「雨だから休もう」って思ってしまったり、ということが起きやすい。1個しか役割はないけれど、もう1人カメラでの記録係というのを作って、みんなの表情を映しながら、聞いてもらうっていうやり方に変えると、また“やろうかな!”と思えるのです。

佐渡島: その役割が、“自主的に生まれていって形作られていくようにする”のか、設計して“初めから5人に役割を与えて、「5人で回してくれる?」というふうにする”のか、それも全部コミュニティの設計なんです。それで、あまりにも「全部決まってる」と、仕事の様な気がする。でも実は決まってないと全然動けない。毎回集められてるけど、何のために集まってるいるのか解らない、「何をしてるんだろう?」っていう気持ちになる。そのバランスをどうやってとっていくかなんです。

今井: 「NPO未来ラボ」を作ってから学ばされることがすごく多くて、見てるだけのメンバーも地方にいるのですけど、以前、合宿やってから強烈に活動しています。今度、次の春に向けて1000人くらい集めるようなフェスをやる予定です。NPOに関係なく、そういう色を消してイベントをやっていく。それで寄付に繋がったり、知ってもらったりすることのきっかけに繋げていければと。メンバーがとても動いてくれてますね。あと、“fever”ってわかりますか?

佐渡島: うん、わかるわかる。

今井:コミュニティ内でコインを配って、お互いにチケットを売り出して、サービスを売り出す事を始めてるんですけど、その企画が動き出すことによって、地方のNPOの事業家に学生が相談をしたりして流通が起こっています。「こういうことも起こるんだ」といった事が、ラボのメンバーから学べて、「やってよかったな」、「すごかったな」って思っています。予想外のことが起こりますよね。

佐渡島: そうですよね。プロジェクトをやり出そうとすると、みんなのスキルと使う言語に差があるわけです。業界も違うから。スキルが低い人のことを、「スキルが低いのは、わざと低いわけじゃないから仕方がない」と思って、スキルのある人がカバーするわけです。でも、こんなにスキルが低いとは思ってなくて、多くの時間が掛かる覚悟をしていなかった為に、それが原因で、仕事との両立で疲れ切ってしまう。このコミュニティにいると、”自分が消費されてる”気がして、大きいプロジェクトをこなした後に辞めちゃうメンバーもけっこういるのです。でもこれはコミュニケーションのミスで絶対に起きてしまう話なのです。かと言って何もやらなかったらそれも面白くない。どういうふうにしてうまくプロジェクトが回るようにしていくのかという設計が、とても難しいです。

今井: へぇ~、面白い!なるほど。

佐渡島:例えば、学校の1年生のみんなでできる運動会の競技、2年生だったらできる競技、3年生だったらできる競技がありますよね、細かく学年ごとに決まってるんです。あれは恐ろしい知見だと思います。「1年生ならこれくらい協力し合える」、「6年生だったらこれくらい協力し合える」相当子供の能力の進化について細かくわかってないと、運動会の競技や文化祭の劇でどのタイトルなら出来るかを見極める事は出来ないですよね。

今井: このレベルだったらこれがいいみたいな。

佐渡島: そう。“激ムズ”なんです。「大人だったらみんな出来るでしょって」思っても、できないのです。かなり難しいと思います。

今井:佐渡島さんについての質問があって、「幼少期の頃の話を伺いたいです」と。「コミュニティへの考えの原点って、かなりその人の幼少期の体験やイメージに影響されると思います、今の佐渡島さんのコミュニティ作りに繋がる幼い時のエピソードを教えてください」

佐渡島: 僕は、むちゃくちゃ転校しまくってます。幼稚園も年長の時に転校して、それから幼稚園から小学校に変るのです。小学校に変る時も、幼稚園の友達がまったくいない小学校に行って、それで小6の夏にまた転校するのです。それでさらに転校して、その後また南アフリカに転校して、中3でまた転校して、高校に入る。転校すると、小6の時も中3の時もそうなのですが、小6の時は知れてますが、ヤンキーっぽい人たちが絡んで来たり。中3の時は、学生服を改造してるような人たちに目をつけてられていました。

今井: いろいろあったんですね。

佐渡島: そうですね。「ちょっとお前、裏へ来い!」「お前もしかして、英語しゃべれちゃうのか?」とか言われました。

(会場 笑)

佐渡島: 馴染むためにコミュニケーションをしていた事はあったけど、僕はそういった人とは意外と馴染めるほうでしたね。そういったコミュニティの移動はとても多かったのです。

今井: それが繋がってるのかもしれないですね。

佐渡島: でも逆に、だからこそ気づかないんです。気づいてなかったというか。「コミュニティに馴染むことがこれくらい大変だ」っていうことに。

会社に勤めていても、部署の40人に対して、年に1人だけしか入ってこない。その1人を40人全員でかまうから、自然と馴染んでくるんです。だからコルクラボをやって、人と人がどういうふうにして仲良くなっていくかを知ることができる。別に仲良くならない人が集まってる所はよく見るんです。でも「コルクラボ」は、仲良くしてもらおうと思って人が集まっていて、いろいろ企画してるのだけど、思ったようには仲良くなれない。

そんな様子を見ていて、「こんな事がハードルになるんだな」、「みんな他の人の名前覚えてないなぁ」等、みんなの会話の様子を見ながら、「みんな相手の名前がわからないけど、しゃべっている」、「顔しかおぼえていない」状態を目の当たりにして、多くの事に気づきをもらいます。

観察を重ねて「人のサンプル」を集めよ

今井: 佐渡島さんは、人の心や感情、映っているところを観察されていると思うんですけど、それはどうやって身につけました?経営者だからっていうわけではないとは思っているのですけど、人を動かそうと思った時って、必ずそれを見ますよね。だから、僕は、経営者は身につきやすいと思うのです。おそらく、佐渡島さんは講談社時代から身についていたと思うのですが。

佐渡島: うちの息子見ていると、一切言葉をしゃべらなくても、0歳児でも、彼らの感情ってとても理解できると思っています。僕は子供が3人いるのですが、彼らは我々大人の感情とか、家の空気に対しての認知能力が、子供3人の中でも差があるんのです。それと、理解力は、遺伝の影響も大きいと思います。
 経営者は、人を採用しますよね。組織が大きくなるまで基本的には全員見ていくのです。それで、とても痛い目にあったりする。“そりゃないよ”みたいなことや、いい面もあるのです。「こんなにこいつやるとは思わなかったけど、とても成長してくれて嬉しい」といった事もあって、人のサンプルが貯まっていくのです。しかも、自分事として痛い目にあいながら学んでいくので、それは養われやすいと思います。

今井: コツはありますか?例えば経営をしていくメンバーに対して何かを伝えるために、そういった能力をどの様に身に付けてきたか、って重要だと思っているのです。

佐渡島: 僕は、心理学の書籍等で言ってることは「本当」だと思いますよ。例えば今日僕が何分か“こういうふう“に手を組んだりしている事は、このコミュニティが僕にとって「新しいもの」だからなのです。思っていることを率直に言うけど、完全にリラックスしているわけじゃない。 

なんとなく”ここ“(組んでいる腕)に防御の意思が入るといった行動が起きやすくなったり。例えば、今は「こっち」(今井さん側)向いてるのですけど。以前、僕が今井君と向き合って、机を挟んで、ちょうど僕の目線のところにずっと今井君がいる状態で、今の様に今井君と飲んだ時にガッツリしゃべって、自分の辛かった時の乗り越えた話を聞いて、僕は今井君に共感をすごくしているという事が無ければ、手をこういうふうに楽に構えながら今井君としゃべるっていうことは無かったでしょうね。

それとは別に”ミラー効果”という効果があります、人間の行動の中に。同じ行動をやりたくなってしまったりします。思っているよりもミラー効果起きてますからね。

今井: そうですよね。

佐渡島: 会議の時に、誰かがあえて手を組んで見たり、足を組んだりしてみるといいですよ。1分後くらいに同じ行動を相手もやり出します。

今井: 確かに。それはね、その通りです(笑)おもしろい!!

佐渡島: そういった本を読んだり、あとは“表情で心理を見る方法“をとってみたりとかですね。例えば、笑いながらも眉間にシワが寄ってしまう人がいますけど、眉間にシワが寄ってたり、「キッ」となったりするのって、“攻撃”とか“恐れ”の表情だったりするのです。だからその場合は笑っているほうは、“攻撃したい”という気持ちを隠したくて笑っている人がいます。

みんな“資料“なんです。表情を作るのをもっとうまくなろう、と思っているときに、アマゾンで“表情”とか“顔”で検索してもらうと、そういった説明をしている本もあります。

今井: へぇ~、おもしろ!!

佐渡島: 『Netflix』で、そういった表情を観察して犯罪を暴くドラマがあるのです。そのドラマは僕が読んでた心理学の資料が原作本になっていました、そのドラマ見るだけでも、人の仕草についての理解がそうとう深まります。

世の中の90%の人の話はほぼ意味をなしていない、言葉の羅列になっている。

今井: 先に会場のメンバーから質問ありますか?…じゃあ、藤原君。

藤原: 今日はありがとうございました。佐渡島さんの話を聞いていて、佐渡島さんが話してる内容が、すごい面白いと思っています、僕が思う、“何で面白いのかな”という点は、「全部の話に数字が伴ってる」という事にあります。例えば先ほどの“コミュニティを150人越えると”というお話とか、“全体の1~2%くらいは緊張せずに馴染める”とかというふうに、全部の話にそういった“定量的”な判断が入っています、それが他のいろんな人と違うところで僕は面白いと思うところなのですけど、どういう場面で“定量的”能な判断を行う力って身についたと思いますか?

佐渡島: 僕は、センター試験の国語の問題を読むと、意味がわからないのです。ですけど、たぶん満点を取れるのです。それは文の構造で、ここはこんな構造になっているから「きっと答えはコレなんだろう」とか思って選ぶとほぼ合っているんです。東大の問題もそうなんですが、何を言ってるか全然わからないのです。僕は、人の話とか聞くと、何を言っているのか全然わからないことがよくあります。それでも、何を言ってるのかわかった人とは仲良くなるんです。でも、ほとんどの人は、自分でもわけがわからずにしゃべっていますよね。

言葉を使う時に、みんなが使ってる言葉とか、みんなが言ってることをしゃべっていて、理解をしながらしゃべったりするという事をしてることがないですよね。“コミュニティとは”っていうのを聞かれたとするじゃないですか。

僕、全部自分のコルクラボでの経験と照らし合わせる一次情報がセットになってることしかしゃべってないのです。本を読んで、自分の一次情報と照らし合わせて、自分の中で血肉化したことしかしゃべってない。だから、血肉化する時に数字がセットになったことが自然と出ているだけなんです。でもみんなはコミュニティについての話とか、本で読んだり、何かで見たりしたことからいくつかのキーワードを覚えていて、それを何となく繋いでしゃべっていると、ほぼ意味をなしていない、言葉の羅列が生まれている。

世の中の90%くらいの人が“そういうふう”な会話をしていて、会話をすることによって“嫌いじゃない”とかっていう感情を伝えているだけなんです。“コミュニケーションを取りたい”とか、“何かしゃべりたい”とか、“わかっていると思われたい”とか、言っている言葉とは別のコミュニケーションを取ってることがほとんどなんです。

でも“わかったことにしない”事が重要ですね。わかるまで考えて、わかるまでしゃべらない。そうすると、“面白い”ってなんなのかって言うと、伝わって僕の会話を相手がわかってくれてるということだと思うのです。ただただそれだけじゃないかなと。

“面白くない”と思われる話をする人は、たぶんその人もわかってないんです。だから話を短くできないんですね。話をわかってる人は、同じ話を1分版、3分版、5分版、10分版で話すことができますよ。それは、要点が何かを理解しながらしゃべってるんです。その要点に対して具体をどう足すかということだけなのです。でもわかってない人は、だらだらだらだらとしゃべっちゃうのですよね。

今井: いやぁ、面白いですね。

(第3回に続きます)

テキスト起こし@ブラインドライターズ


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