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第二回「細胞から方眼紙へ」

2009年に「METROPOLIS」という作品を作った。

これは、ソウル国際漫画&アニメーション映画祭(SICAF)からの依頼で、映画祭の開会セレモニーの中で上映するために制作したもので、僕の師匠の片山雅博先生(当時のタマグラアニメの教授)が、映画祭に僕を推薦して下さったことで、作ることになった。

この制作支援プロジェクトは、韓国国内の作家(この時は、チャン・ヒョンユン監督「ウリビョル一号とまだら牛」)と、海外の作家が一人ずつ選ばれ、「都市」をテーマに其々作品を作るというもので、この時が初めての試みで、以降は毎年続けられている。

確か僕がやったときは、その「都市」というテーマが、さらにソウル市限定だった。作品中にソウルのランドマーク的な建物やハングルが出て来るのには、そういう理由がある。

制作資金は50万もらった。最初に25万振り込まれ、完成したら残りの25万がもらえる。当時はお金にちょっと困っていたので、先に半分貰えるのはありがたかった。(ちなみに制作費としては決して多くはない)

制作期間は3ヶ月ほど、それで4分の作品を作らなければならなかった。
この頃は大学院を出て丸二年が経った頃で、制作依頼があったのは4月初旬だった。「JAM」という作品を完成させたばかりで、次の作品の作画を実験的に始めていた時だった。

依頼を引き受けたものの、実はちょっと困っていた。4ヶ月間で4分の作品を作った経験がなかったからだ。

これまで作ってきた作品は、全て「細胞」の細密画を描いてきた。要するに「細胞アニメーション」と呼ばれる、僕の代名詞的なビジュアルの手法だ。
この細胞アニメーションは、作るのに割と時間がかかる。これまでの作品が
半年から一年の制作期間の中で作ってきた。


「細胞を辞めれば、間に合うかもしれない」
違う手法で作れば間に合うはず、そう考えた。しかし「細胞」という強いインパクトのあるグラフィックを手離して、何で勝負すれば良いだろうか?インパクトが問題だ。

そのとき、実験的に制作を進めているアニメーションがあった。それは、方眼紙を作画用紙にして、そのマス目に沿って水性ペンで絵を描き込み、グラフィックを構築していく…という作り方のもの。
方眼紙に直接描き込むので、動画にするとマス目も方々動くし、カチッとしたイメージのものをアナログな手法でアニメーションにするのはインパクトが強いと思った。青白い方眼紙の背景も良い感じだし。
それで、その方眼紙アニメーションを、SICAFのオープニングフィルムとして本格的に着手することにした。

こうして「METOROPOLIS」という作品は完成した。SICAFでの上映後、文化庁メディア芸術祭の推薦作品など、いくつかの映画祭にノミネートしたことで、「細胞」以外のアニメーションで初めて評価を得ることになった。
そして「MODERN」「MODERN No.2」という幾何学アニメーションシリーズへと繋がっていった。

でも、モチーフが「細胞」か「幾何学」かの違いなだけで、どちらもやっている内容は全く変わらない。相変わらず、今も同じようなことをしている。

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