■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□====(日本史異聞シリーズ)=====南北朝秘話  切なからず、や、思春期    ◆茂夫の神隠し物語◆     未来狂 冗談 作---No.001--05/00/00---■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

この作品のセールスポイント

まぐまぐプレミアム第一弾(第六章)・「たったひとりのクーデター」

第二弾・「仮面の裏側」第三弾「冗談 日本に提言する」

第四弾(第一章)・「八月のスサノオ伝説」

第五弾(第五章)・「侮り(あなどり)、

第六弾(第四章)・「茂夫の神隠し物語」

第七弾(第三章)・「鬼嫁・尼将軍」、

第八弾(第二章)・「倭(わ)の国は遥かなり」

の中から未来狂 冗談(ミラクル ジョウダン)が、

「日本史異聞」として歴史大河推理小説に構成しなおして挑みます。


この日本史異聞シリーズの中で、主人公の小説家「茂夫」は、

日本の歴史の転換期に大きくかかわる、

国民に人気が高い三人の人物たちに、

見事に共通する、二つの定義じみた事がある事に気付いた。

ひとつは、三人の何れもが、新生日本のきっかけは作り上げたが、

その政権基盤の完成を目にしていない事である。

そして今ひとつは、

何れもが少数の供回りの防戦の中、自刃により落命している事である。

源義経・・・衣川館の包囲自刃である。(供回り数十名)

織田信長・・本能寺の包囲自刃である。(供回り数十~三百名)

西郷隆盛・・城山の包囲自刃である(供回り四百名)

この結果の意味するものは、何で有ろうか?

この作品「日本史異聞」は、六部作シリーズの作品で、

(第一章・八月のスサノウ伝説)、(第二章・倭の国は遥かなり)、

(第三章・鬼姫、尼将軍)、(第四章・茂夫の神隠し物語)、

(第五章・侮り)、(第六章・たった一人のクーデター)、

以上の順番で読むと、一つの大きな日本の歴史の流れに成っています。

(勿論、別々の作品として、違う内容の書き方で、

独立もしていますので、念のため・・・。)

        では、お楽しみください。



これからの展開

第一話(目覚める頃)

      第二話(旅立ち)

      第三話(離れの出来事)

      第四話(迷い込んだ場所)

      第五話(ガタロウの正体)

      第六話(神の使いの白蛇)

      第七話(忠太の陰謀)

      第八話(茂夫、僧正に成る)

      第九話(その後の文観僧正)

      第十話(南朝正統)

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さんお早うございます。早朝現れました。
以前に有料メールマガジンに掲載していた五年程前の作品「茂夫の神隠し物語」ですが、数名の方にだけご案内を出します。
http://jiyoudan.hp.infoseek.co.jp/sigeo.html
全十章ほどの小さな作品ですが、メール仕様からHP使用に変換作業がありますので、二日に一章づつの連載にさせて頂きます。



◆茂夫の神隠し物語◆第一話(目覚める頃)

茂夫は書斎とは名ばかりの一室で、少年時代の遠い昔の記憶を辿っていた。
若い頃の、夢か?現実か?今となっては判らないが、信じられな様な異様な想い出がある。
それは・・・、今となっては懐かしくも不思議な物語でもある。


今から、四十と何年か前・・・、確か昭和三十五年頃の話なのだが、茂夫は不思議な体験をした。
あれは・・・一体何んだったのか、今考えても不思議である。

それは、茂夫が高校受験に合格し、一年の夏休みに入った頃の事だ。

終戦から十五年、戦後復興から発展への切り替わり時期で、町はバラックの闇市から、立派な商店街に変わって、岩戸景気と言われる好景気の中、一万円札が始めて発行され、和製ロカビリー歌手の歌声が日本中を席巻していた。
現在の天皇が皇太子として、美智子妃と成婚されたのもこの年である。

茂男が小学校へ入学して通い始めた昭和二十九年からもう九年の歳月が流れ、その間に継ぎ充ての衣類を身に着ける子供がドンドン減り、今では皆綺麗な服装をして学校に通う様になった。
道は次々に舗装され、当時普及型で売れ始めた小型山林自動車が行き交い、町はバラックの闇市から立派な商店街に変わっていた。

学校も、木造二階建ての長屋みたいな奴から、少しずつ鉄筋コンクリートの四階建てに建替えを始めていた。
その頃の東京の街は、四年後に控えたオリンピックの開催準備で、都市整備の工事が急ピッチで進められ、沸きかえっていた。
巷では、左翼学生運動が益々盛んになり、茂夫には、まだ彼らの主張は難しく、理解出来るでもなかったが、多くの大学生が左翼運動にかぶれ、湧き上がる青春の矛盾に対峙していた。

七月の中頃には池田と言う人が総理大臣になって、「所得倍増計画」とやらで、将来の希望を抱かせていた。
そんな、活気のある時代だった。


高校に入って十五歳の茂夫は、少し大人にな成った様な気がしていた。
この頃はまだ、中学を終えてすぐに勤める子供も多く、同級生の一部が社会に出て、結構「大人の生活」を始めて居たからだ。
職について、稼ぎがあれば一応一人前だ。

茂夫の周りの奴らは近場の就職だが、東北や九州などからは、まだ大都市周辺への集団就職が続いていた。
田舎の三男、五男は地元では食っては行けない時代だった。


親方の下に就職して手に職を付け、上手く行けば将来自分も親方に成れる。
見習いの身分でも、僅かだが給料も貰えた。

彼らは自分の稼ぎだから小遣いも多く、今ではとても考えられないが、当時の周囲は職に着いたら一人前扱いで、酒やタバコをやっていても親も親方も何にも言わない。
親方や先輩に連れて行かれて覚えるのか、いっぱしにキャバレー通いも始めていて休みの日に道で彼らに行き会うと、化粧の濃い女を連れていたりする。

アロハシャツにサングラス、白いエナメルの靴で決めていて、さも女の扱いに慣れているかの様に振舞っていた。
高校一年と言うと思春期真っ盛りで、そう言う姿を見せ付けられると茂夫はみだらな妄想に駆られる。
「あいつ、いいなぁーあの女と、もうやったのかー。」

親が小さいながらも商売をやっていて、周りの商店主と張り合っていたから、茂夫は高校に行かせてもらった。
ぬくぬくとした学生生活ではあるが、その代わり女とは縁が遠くなる。<br>
思春期の茂夫にすると、頭の中はそれで一杯で、経験が無いから女の体の事も良くは判らないが、中学に入って直ぐの時期から自分の身体に変化があり、時折股間の物が硬くなるのを知った。

そのうち、茂夫もそっちの方に詳しい「ませた同級生」やら「上級生」から聞いて、女とやる方法だけは教わった。
正直自分で慰める方法も既に中学時代の悪友から教わって、二日に一度はやっていた。
「やってみ、気持ち良いから。」
中学の頃、それをやっていて後ろめたかったのは何故だろう。
恥ずかしいから、気が許せる相手でないと話題にも出来なかったのだが、高校に成って聞いて見ると、何の事はない誰でもやっているものだった。


高校に入って最初の夏休み、茂夫は「初体験を獲得しよう」と一大決心をした。


茂夫にすると贅沢かも知れないが、気持ちの上で「商売女」は嫌だった。
勿論、金も無かったが、自分にとっても一生の記念だから、「なるべく綺麗な思い出で、残したい」と、虫の良い事を考えていた。

若い茂夫にしてみれば、無理もない話しだが、そう易々とは、望みは叶わない。
それで誰か身近に、自分を受け入れてくれそうな娘はいないか、茂夫なりに色々と候補者を上げて考えた。
近所の幼馴染や、小中学校の同級生が何人か浮かんで、四人ほどデートに連れ出す事に成功したが、「そこまで」である。
相手がどう出るか心配で、とても言い出せないし、行動にも移れないで、いつも家の前まで送って行って綺麗に別れていた。
只のデートも、それ成りに楽しいのだが、内心からだの要求の方は満たされず、悶々とした日々を送っていた。


一度だけ、未だに鮮烈な記憶として覚えている幸運の思い出がある。
近所に、年は一つ上だが幼い頃から仲良く遊んでいた友達がいた。
その友達は中学校を卒業すると、工業高校の夜間に通いながら、電力会社の下請けに就職して電柱に登っていた。

当時、一般の家庭では内湯の風呂持ちは少なく、十軒に八軒までは銭湯通いで、時たま「もらい湯」と言った知人同士の交流もあった。
各戸ともに内湯は憧れで、無理して風呂桶を設置するのが流行っていた。

その友達の家も例外でなく、当時土間造りだった壁もない六坪位の台所兼洗濯場の一郭に、ドンと小判型の木の風呂桶とスノコ板の洗い場を置いたのである。
<br>
焚き口も中に一緒で、煮炊きと同様に燃料はまだ「まき」だったから、合理的なのかも知れない。
友人の親が出費を覚悟で買い求めたばかりのその風呂の存在を知らずに、「家に遊びに来い」と友達に呼ばれ、重雄はいつも知ったる裏手に周り、勝手口から入って驚いた。
そこに風呂が置いてあるばかりか、洗い場に茂夫とは一つ年下の友達の妹がからだを洗って居た。

その娘は、茂夫の顔を見ると慌てて立ち上がり、石鹸塗れのままザブンと湯船に潜った。
ほんのチラリだったが、互いに裸体を「見た、見られた」の意識は残った。
あの時その娘は中学二年生だった。

その娘はしばらくの間、茂夫の顔を見ると恥ずかしそうな表情をしていたが、茂夫が高校に合格すると、時々宿題を聞きに来る様になった。
半年後に、それがパタッと止まったので、道で行き合わせた時に聞いて見ると、先方の親が男女の過ちを心配したらしかった。
今考えるとその娘は、茂夫に好意を持っていたのだ。


青春の悩みは果てしない。

世間では奇麗事で、他のもの(スポーツなど)で発散しろと言うが、それは建前である。
現実にはそんなもので、発情期を迎えた若者のナチュラル(自然体)な欲求が癒される訳が無い。
この年頃の若者は皆、頭の中はその事で一杯なのだ。

茂夫は無い頭を絞って考えた。
例えその事で頭の中が一杯でも、近くの娘が相手では後々の事もある。<br>
正直欲望を満たしたいだけで、ずるいかも知れないが、まだ十五歳の茂夫とするとまだ結婚を考える年でも無い。

「そうだ、遠くに行って目的を達成しよう。」
今から思うと「幼稚」としか思えない様な思い付きだったが、それなら、「後腐れがないかも知しれない」と思い、名案に思えたのだ。
そしてその思いは日毎に膨らんで行った。

それで、旅に出る事にした。
旅は小学校の修学旅行で東京と、中学校の九州・関西方面くらいの団体旅行で、高校生に成って初めての一人旅の冒険である。
四十年以上前の当時の事なので、親がその冒険旅行を認めるか不安はあった。

親には、勉強を口実にするのが、一番効く。
「近頃の夏休みの宿題も、大変だね。まぁ、一人旅も勉強になるでしょう。」
母親は、あっさりと信じて、父に言って許しを取ってくれた。

夏休みの自由研究で「関東地区の寺を回ってレポートを書く」と名目を言い、両親を騙して旅費と小遣いをせしめた。
事が大きくなり、話を聞いた親戚からも数口、餞別と言うカンパが集まった。
計画は順調に行き、市営の図書館で調べてあらかじめ行き先のリストも作って、後々のアリバイの為に本気で寺廻りもする事にした。


夏休みも十日ほど過ぎた八月の初めに、茂夫は東京行きの鈍行列車に乗った。

時間は沢山ある、急行などと贅沢は言わない。
途中、ガタンゴトンと一定のリズムを刻みながら揺れる車内で、出発駅で買って来た駅弁を食べた。

六時間ほど時間をかけて列車が東京駅に付いた時、ホームの時計は、午後の四時を少し回っていた。
何しろ、四十年も前の事で、どこへ行くにも時間がかかった時代だった。

日本一の混雑をする東京駅で、苦戦しながら中央線のホームに乗り換えて、武蔵野の方面に向かった。

最初に訪ねたかったのは、「立川」の地である。
たいした理由はないのだが、高校の図書館で寺周りの資料を集めていて、心ときめく文章を見つけた。
見つけたのは真言密教・立川流の、僅か五行ほどの解説文である。
僅かな文面だが、思春期の悶々とした少年にエロチックな想像力をたくましくさせるには、充分の文面だった。

その地、立川が最初の目的地である。
東京駅から列車で二時間、接続などで所要時間は、三時間近くなる。
知らない旅先の町で、「何が起こるか」胸おどる一週間が待っていた。


第二話(旅立ち)に続く

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◆茂夫の神隠し物語◆第二話(旅立ち)

八時近くなって駅を降りると、立川の町は、ほの暗く成っていた。
その、僅かに残る陽の明るさの中、夕方の気ぜわしい喧騒に街は包まれていた。
戦後の復興が漸(ようやく)軌道に乗り出した頃で、町並みも本格建築と急場凌(しの)ぎのバラックが入り混じっている様な雑多な雰囲気が在る街だった。

そう言えば二ヶ月ほど前、東京で大きなデモがあって、「東大生の女の人が死んだ」と大騒ぎになった。
この年の年初から、十五年間に及ぶベトナム戦争が始り、「安保反対、戦争反対」と、激しい学生運動が、起こっていた。
有名な米軍基地の町だったから、立川も心配だったが、意外に静かだった。
唯、町の人々は自分達の生活の為に活気に溢れていて、希望の光が見え始めている様な明るさがあった。


そろそろ暗くなる。
夕闇が迫っていて、「心細くなる前に」と今日は宿を探して泊まる事にした。

駅前のタバコ屋のおばさんに、宿の在り処(ありか)を尋ねると、「家出じゃ無いだろうね。」と、尋ねられた。
その筈である。
当時の事だから、茂夫は真夏と言うに黒い詰襟の学生服姿で、白いズック布で出来た肩掛けの学生かばんと、親から借りた皮製の小ぶりの旅行かばんを提げていた。

今では考えられ無いが、当時はまだ学生らしく行動させる為に略式の白ワイシャツ姿での県外旅行は、校則で許されてはいなかったからだ。
夏休みの旅行だから、制服の前ボタンは全部外して全開にしていてもこの旅には暑苦しい。

ともかくタバコ屋のおばさんに、「家出じゃ無いだろうね。」と尋ねられた返事をしなければ先には進めない。

「いぇ違います。夏休みの研究に来たのです。旅館や警察に見せる親の手紙も持って来ました。」

「へー、えらいね、それだったら駅裏の上総屋(かずさや)さんが良いわ。」

「上総屋(かずさや)さんですね。行って見ます。」

教えられた通り駅舎を伝って左に下がり、駅舎を外れて先に八十メートルほど行った踏切を渡ると、その上総屋の看板が見えて来た。
看板と言っても白く塗った木の板に黒のペンキ書きで、上から傘つきの裸電球が文字を照らして、それと読めた。
戦災から難を逃れたのか古風な造りで、旅館と言うよりは旅籠と呼びたい風情の構えだった。

土間の玄関を入ると、板の間の上がりが在る昔の商人宿風で、帳場と書かれた小部屋には誰もいない。
「御免下さい。駅前のタバコ屋の小母さんさんから聞いて来ました。」と声をかけると、小部屋の奥の方から五十年配の主人と思しき男が、愛想(あいそ)笑いをしながら顔を出した。
「ハィ、ハィ、あぁ泊まりかね。学生さん。」

出て来た主人は見るからに人の良さそうな感じで、「荷物は、そこに置いて、上がって。」と、言った。
「あ、荷物は自分で持ちます。」
「イヤー、宿の決まりだからそこに置いて、それより学生さん身元が証明出来るもの何か持っているかね。一応警察から言われているのでね。」

そら来た。
何にせ十五歳の一人旅だから、こんな事も有ろうかと用意だけはキチンとして来た。
「学生証と、親の手紙を持っていますが。」
親の手紙持参なら、家出と間違われない。

宿の主人は私から手紙を受け取ると、メガネを取り出し母の書いた手紙を広げた。
「どれどれ、ほぉー夏休みの自由研究ねえ、近頃は、そんな勉強も有るのだねえ。学生さんだから、安くしておくよ。」
主人は手紙を読み終わると「おーい、靖子―。」と人を呼んで、手紙を丁寧にたたみ戻し茂夫に返してよこした。
「はーい。」と奥から出て来たのは、年の頃十八・九の和服姿の少女であった。

この和服姿が、茂夫には新鮮だった。
この頃は、もう和服は珍しく成りつつあって、和服を身に着けるのは何か行事が在る時か特別な職業に限られていた。
「この学生さん、銚子の間に案内して。」
「はい。」

靖子と言う少女は手馴れた手つきで、両の手に荷物を持つと、「こちらです。」と、茂夫を促した。
受付から少し歩いて銚子の間と書かれた部屋に案内される。
「ここは狭いけどお客様はお一人だし、宿代が安いですから。」
「そうですね。贅沢する旅では無いですから、安い方が良いです。」

通されたのは六畳の和室で、二畳ほどの言い訳みたいな次の間が付いていた。
窓の外に中庭があり、木立の先の奥まった処に、「離れ」らしき建物が見えていた。
所々に立ち木があるだけの、飾り気のない庭だった。
少女の姿は、何時の間にか消えていた。

どう対処したら良いのか戸惑い、庭に目をやっていると先ほどの少女が茶と宿帳を持って入って来た。
「お客さんどちらの方からですか。大学生には見えないけど。」
お茶を入れながら、少女は年下らしい茂夫に気さくに声をかけて来た。
「静岡からで、高校一年生です。自由研究の調べ物で、二・三日泊まります。」

「ソーオ、偉(え)らいのね。」
少女は大人びた口調で返事をしながら宿帳を開き、茂夫に擦り寄るように近付いて指を指しながら、「此処に住所と名前を書いて。」と、言った。
茂男が書き始めると少女が確かめるように覗き込んで来て、フワリと少女の髪の匂いがした。

茂夫が宿帳を書き終わると、「食事にします?お風呂が先ですか?」と、決まり文句を言った。
良く聞く台詞(せりふ)である。
「食事を先にします。」と茂夫が言うと、少女は、「お風呂は、十一時までに入って下さいね。」と言った。
既に外はすっかり暗くなっていた。

庭の離れが見えたのは、母屋の数部屋の明かりのせいだと気が付いた。
決まり物の様な宿の食事を持って来て、少女は、「まだお酒も飲めないし、退屈ね。」と言った。
まだテレビが普及しては居ない時代だった。
言われて見れば、食事の後は風呂に入るくらいしかする事が無い。
<br>
「静かな所ですね。」
「裏が飛行場だから、飛ばない時は静かだけれど、すぐ裏だから飛ぶとうるさいですよ。」
少女は、済まなそうに言った。
勧められたまま、まっすぐ上総屋に来たので気が付かなかったけれど、裏の広大な土地が有名な米軍の立川基地だった。

「此処(立川)は、安保騒ぎは大丈夫ですか。」
「時々学生さんが大勢来て、米軍基地反対と、騒ぐ事もありますが、今は皆で国会の方に行っているみたい。」


食事が終わると、早々と布団が引かれた。
しばらく寝転んで十時半ごろ風呂に行くと、宿の主人がタイル張りの大きめの風呂に入っていた。
「やー学生さん、風呂まだだったかね、もうお客さん皆終わったと思って先に入ってしまったよ。済まんねー。」
「いえ、湯船が大きいですから。」

茂夫は返事に成なら無い返事をして、木製の腰掛を見つけて腰を下ろし身体を洗い始めた。
ひとしきりして、主人は湯船を出た。
「じゃお先に。ユックリお休みください。」
脱衣序の戸を「ピシャリ」と閉めて主人が立ち去ると、また脱衣所の方向で「ガラッ」と音がした。

ちょうど、茂夫は湯船に入った処だった。
茂夫が、「また誰か来る」と思って風呂の入り口に目をやると、「ガラッ」と戸が開いて先ほどの少女が入って来た。
うつむき加減で入って来た少女は、顔を上げて茂夫がいるのに気が付くと「あれ、お客さんが入って居たの?」と言った。
手ぬぐいは持っていたが、「すっぽんぽん」で、前を隠してもいない。

湯気に霞んで、股間の黒い茂みも見て取れた。
少女は、一瞬引き返そうか迷った様だが、「茂夫が十五歳」と聞いているから無警戒なのか、「良いわ、ご一緒させて。」と、そのまま木製の腰掛にしゃがみ込んで身体を洗い始めた。
そう言われても、茂夫は言葉も出ない。
何が起こっているのか、把握も出来ないくらい舞い上がっていた。

茂夫は子供の頃見た母親の裸以外、友人の妹を一瞬見たくらいで、女の裸を見るのはほとんど初めてで、実を言うとオタオタして居た。
それは僅かな時間だろうが、妙に長く感じられる時が風呂場を支配して居た。
茂夫が湯船で硬くなっていると、身体を洗い終わった少女が風呂に近付いて来て、大胆にタイル張りの湯船の縁を跨ぐとスーッと滑るように迎え合わせに湯船に入った。

「あー気持ち良いね、ちょうど良い湯加減・・・・。」
独り言なのか、話し掛けているのか、どちらとも取れるような話し方で、少女は肩に湯をかけた。
少女が身動きする度に、波打つ湯の中で少女の両の乳房が揺れているのが正面に見える。
それは嫌でも全て見えてしまうが、勿論・・・・嫌では無い。

茂夫にしてみれば、「幸運なのか、子供と馬鹿にされているのか」、少女の態度には少々理解に苦しむ所だ。

思い切って言って見た。
「ぼく、初めてなのです。」
「えっ。」
「女性の裸・・・・。」

「あら、ごめんなさい。気にして居たの。」と、少女は言ったが、別に隠す風でもなく「隠すと余計に変でしょ。」と、自分の行動に同意を求めて来た。
「まぁ、そうですが・・・。」
「そうよ、初めてなら良かったじゃない、良いものを見て。見たい年頃でしょ。でも、此れでおしまい。」
急に恥ずかしくなったのか、少女は「ザブン」と勢い良く湯船から立ち上がると、足早に浴室から出て行った。

ほんの一瞬の出来事で、少女の白くふくよかな尻が、湯船に沈んで居た低い位置の茂夫の瞳に焼き着いた。

湯から上がると、長く湯船に居た為か、かなりのぼせていてクラクラした。
「何か飲み物を」と、玄関の帳場に行くと、少女が和式の寝巻き姿で待っていて、「来ると思った。あんなに長く浸かってのぼせたでしょう。」とお見通しで、「シュポン」と、冷えたラムネを開けて「此れは私のおごり。」と言って渡してくれた。

受け取ったラムネを口にすると、少女は「さっきの事は、内緒。」と一言告げて、帳場の戸を閉めて奥に消えた。
茂夫は少女との間に、二人だけの秘密が出来た様な気がしてうれしかった。
それで茂男は、少しの間呆然と少女の消えた奥の方角に目を向けていた。
後でこっそり、少女が自分の部屋に忍び込むなんて事を、ほんの少し妄想した茂夫だった。

無論あの宿の主人に見つかりそうで、実行は出来ない妄想である。
茂夫の口元に運ばれたラムネが、口から離れる度にカシャン、カシャンと、中のビー玉が宿中に響き渡る様に音を立てていた。
所在無い状態だったから、ラムネを飲み終われば部屋に帰るしかない。
茂男は寝床に潜り込んで、立川での一日を振り返った。

この頃まで、この旅は順調に思えていた。
何人かの他人(ひと)と出会い、少しだけ一寸とした出来事に出会えば、「それで旅は成功」と思っていたのだ。
しかし旅と言うものはハプニングとの出会いで、思わぬ出来事が「茂男を待っている」とは、この時はまだ思いも拠らなかったのである。

部屋に帰って布団に潜り込むと、長旅の為か気が張っていた為か堪らなく睡魔に襲われた。
湯煙の中の少女の裸身を思いつつ、いつの間にか眠りに落ちて居た。


                   <CENTER> 第三話(離れの出来事)に続く</CENTER>

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