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遺族年金の種類・手続き・今後の動向(前編)

配偶者が亡くなったあとに、遺族年金を受け取れる場合があります。
遺族年金には、遺族基礎年金と遺族厚生年金とがあります。
それぞれの概要と受け取るための手続きなどについてお話しします。


1 遺族基礎年金


遺族基礎年金は、国民年金に加入していた被保険者が亡くなった場合に、その遺族が受け取れる年金です。 

(1)受給要件


遺族基礎年金を受給するためには、以下のいずれかの要件を満たしている必要があります。
 
①国民年金の被保険者である間に死亡した場合(注1)
②国民年金の被保険者であった60歳以上65歳未満の人が日本国内に住所を有していた場合(注1)
③老齢基礎年金の受給権者であった人が死亡した場合(注2)
④老齢基礎年金の受給資格を満たした人が死亡した場合(注2)
 
(注1)死亡日の前日において、保険料納付済期間(保険料免除期間を含む)が国民年金加入期間の3分の2以上あることが必要です。
ただし、死亡日が2026年3月末日までの場合は、死亡日を含む月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がなければよいとされます。
 
(注2)保険料納付済期間、保険料免除期間および合算対象期間(カラ期間)を合算した期間が25年以上ある人に限ります。

(2)受給対象者


遺族基礎年金を受け取れるのは、亡くなった人によって生計を維持されていた、前年の年収が850万円未満のつぎの遺族です。
 
①子のある配偶者
②子(注3)
 
(注3)18歳になった年度の3月31日まで、または20歳未満で障害等級1級または2級の状態にある場合。
子のある配偶者が遺族基礎年金を受け取っている間や、子に同一生計の父または母がいる間は、子に遺族基礎年金は支給されません。

(3)年金額


2024年4月以降の遺族基礎年金の年金額は、つぎのとおりです。
 
①子のある配偶者が受け取る場合 : 816,000円 + 子の加算額(注4)
②子が受け取る場合 : つぎの金額を子の数で割った額が、1人あたりの額となります。
816,000円 + 2人目以降の子の加算額(注4)
 
(注4)1人目および2人目の子の加算額は各234,800円、3人目以降の子の加算額は各78,300円

(4)受給できなくなる場合


つぎのいずれかに該当した場合は、遺族基礎年金を受け取る権利がなくなります。
 
①配偶者が受け取っていた場合
㋐亡くなったとき
㋑結婚したとき(内縁関係含む)
㋒直系血族および直系姻族以外の人の養子となったとき
㋓すべての子について、つぎのいずれかに該当したとき
・亡くなったとき
・結婚したとき(内縁関係を含む)
・受給権者以外の人の養子となったとき
・亡くなった人と離縁したとき
・受給権者と生計を同じくしなくなったとき
・18歳になった年度の3月31日に到達したとき。ただし障害等級1級・2級に該当する障害の状態にあるときは、20歳に到達したとき
・18歳になった年度の3月31日後20歳未満で障害等級1級・2級の障害の状態に該当しなくなったとき
 
②子が受け取っていた場合
㋐亡くなったとき
㋑結婚したとき(内縁関係を含む)
㋒直系血族または直系姻族以外の人の養子となったとき
㋓亡くなった人と離縁したとき
㋔18歳になった年度の3月31日に到達したとき。ただし障害等級1級・2級に該当する障害の状態にあるときは、20歳に到達したとき
㋕18歳になった年度の3月31日後20歳未満で障害等級1級・2級の障害の状態に該当しなくなったとき

2 遺族厚生年金


遺族厚生年金は、厚生年金保険に加入していた人が亡くなった際に、その人によって生計を維持されていた遺族が受け取れる年金です。

(1)受給要件


遺族厚生年金を受給するためには、つぎのいずれかの要件を満たしている必要があります。
 
①厚生年金保険の被保険者である間に死亡した場合(注5)
②厚生年金の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で、初診日から5年以内に死亡した場合(注5)
③1級・2級の障害厚生年金を受け取っている方が死亡した場合
④老齢厚生年金の受給権者であった方が死亡した場合(注6)
⑤老齢厚生年金の受給資格を満たした方が死亡した場合(注6)
 
(注5)死亡日の前日において、保険料納付済期間(保険料免除期間を含む)が国民年金加入期間の3分の2以上あることが必要です。
ただし、死亡日が2026年3月末日までの場合は、死亡日を含む月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がなければよいとされます。
 
(注6)保険料納付済期間、保険料免除期間および合算対象期間(カラ期間)を合算した期間が25年以上ある人に限ります。

(2)受給対象者

遺族厚生年金を受け取れるのは、亡くなった人によって生計を維持されていた、前年の年収が850万円未満のつぎの遺族です。
もっとも優先順位の高い人が受け取れます。
また、遺族基礎年金と合わせて受け取れます。
 
<第1順位>子のある配偶者
<第2順位>子(注7)
<第3順位>子のない配偶者(注8)
<第3順位>父母(注9)
<第4順位>孫(注7)
<第5順位>祖父母(注9)
 
(注7)18歳未満、または20歳未満で障害等級1級または2級の状態にある場合
 
(注8)子のない30歳未満の妻は、5年間のみ受給できます。
また、子のない夫は、55歳以上である場合に限り受給できますが、受給開始は60歳からとなります。ただし、遺族基礎年金を合わせて受給できる場合は遺族厚生年金も受給できます。
 
(注9)55歳以上、ただし受給開始は60歳から

(3)年金額


遺族厚生年金の年金額は、亡くなった人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額となります。
 
※(1)受給要件の①~③にもとづく場合
報酬比例部分の計算において厚生年金の被保険者期間が300月(25年)未満の場合は、300月とみなして計算します。
 
※65歳以上で老齢厚生年金を受け取る権利がある方が、配偶者の死亡による遺族厚生年金を受け取る場合
つぎの2つを比較し、高い方の額が遺族厚生年金の額となります。
・死亡した方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額
・死亡した方の老齢厚生年金の報酬比例部分の額の2分の1の額と自身の老齢厚生(退職共済)年金の額の2分の1の額を合算した額

(4)中高齢寡婦加算


中高齢寡婦加算は、18歳未満の子供がいない、夫を亡くした40歳以上65歳未満の妻に遺族厚生年金に上乗せして支給されるものです。
夫を亡くした妻の生活を支えるための支援策です。
 
①受給条件
つぎのいずれかに該当することが必要です。
 
㋐夫が亡くなったとき、40歳以上65歳未満で、生計を同じくしている子(注11)がいない妻
㋑遺族厚生年金と遺族基礎年金を受けていた子のある妻(注12)が、つぎの理由で遺族基礎年金を受給できなくなったとき
・子が18歳到達年度の末日に達した(障害の状態にある場合は20歳に達した)などのため
 
(注10)老齢厚生年金の受給権者または受給資格期間を満たしている夫が死亡した場合はつぎの条件があります。
・死亡した夫の厚生年金保険の被保険者期間が20年以上の場合に限る
 
(注11) 次のいずれかに限ります。
・18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子
・20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の障害の状態にある子
 
(注12)40歳に到達した当時、子がいるため遺族基礎年金を受けている妻
 
②支給額
2024年度の支給額は年間612,000円です。
この金額は毎年見直されるため、年度によって異なることがあります。
 
③支給期間
妻が40歳から65歳になるまでの間支給されます。
65歳になると、老齢基礎年金の受給が始まるため、中高齢寡婦加算は終了します。

(5)経過的寡婦加算


経過的寡婦加算は、夫が亡くなったあと、妻が65歳以上になったときに遺族厚生年金に上乗せして支給されるものです。
中高齢寡婦加算を受け取っていた妻が65歳になったときに、とくに手続きをせずに自動的に支給されます。
 
①受給要件
つぎのいずれかに該当することが必要です。
 
㋐1956年4月1日以前生まれの妻に65歳以上で遺族厚生年金の受給権が発生したとき(注12)
㋑中高齢寡婦加算がされていた1956年4月1日以前生まれの遺族厚生年金の受給権者である妻が65歳に達したとき
 
(注12)老齢厚生年金の受給権者または受給資格期間を満たしている夫が死亡した場合はつぎの条件があります。
・死亡した夫の厚生年金保険の被保険者期間が20年以上の場合に限る
 
(6)支給額
支給額は毎年見直されますが、具体的な金額は妻の生年月日によって異なります。

(7)受給できなくなる場合


つぎのいずれかに該当した場合は、遺族厚生年金を受け取る権利がなくなります。
 
◎全受給者共通
㋐亡くなったとき
㋑結婚したとき(内縁関係を含む)
㋒直系血族または直系姻族以外の方の養子となったとき
 
①妻が受け取っていた場合
㋓【夫が亡くなった当時30歳未満の子のない妻】
・遺族厚生年金を受け取る権利を得てから5年を経過したとき
㋔【遺族基礎年金・遺族厚生年金を受け取っていた妻】
・30歳に到達する前に遺族基礎年金を受け取る権利がなくなり、その権利がなくなってから5年を経過したとき
 
②子または孫が受け取っていた場合
㋓亡くなった人と離縁したとき
㋔18歳になった年度の3月31日に到達したとき。ただし障害等級1級・2級に該当する障害の状態にあるときは、20歳に到達したとき
㋕18歳になった年度の3月31日後20歳未満で障害等級1級・2級の障害の状態に該当しなくなったとき
㋖【孫の場合のみ】亡くなった人の死亡当時胎児であった子が生まれたとき
 
③父母または祖父母が受け取っていたとき
㋓亡くなった方の死亡当時胎児であった子が生まれたとき
㋔【父母の場合のみ】亡くなった方と離縁したとき
㋕【祖父母の場合のみ】離縁によって亡くなった人との親族関係が終了したとき
 

 
後編につづきます。
後編は、つぎのようなことについてお話しします。
3 寡婦年金と死亡一時金
4 請求手続き
5 未支給年金
6 遺族年金制度の見直しの動向などについてお話しします。


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