【短編小説】名もなき彼女たちのための
「いい世の中になったものね」
長く波打つ亜麻色の髪をゆるやかに風になびかせて、女がそうこぼした。
オフィス街の狭間に網の目のように広がる街路樹、その申し訳程度の緑を求めて道路沿いのカフェは席を溢れ出させる。
庇のかかったテラス席、角には二人の女が座っている。一人は長い亜麻色の髪をしたスーツの女、もう一人は栗色のまとめ髪のゆるやかなワンピースを着た女。 なぜだが周りに靄がかかったように、彼女たちの存在感は希薄である。
「いい時代?」
高貴さを感じさせる仕草でコー