『こちら、終末停滞委員会。2巻』感想
嵐のような読後感(ネタバレなし)
1巻の時もそうだったが、グイグイと一気読みした後に、あまり言語化された感想が残らない。あえて言うなら「なんか凄かったし、面白かったなぁ(小並感)」という感じだろうか。Xを見ていても、感想というより「スゴかったから読んで!」みたいなポストが多い気がする。
これは要素の多さに起因するんじゃないだろうか。感想を言うポイントが多すぎるのだ。数ページごとに事件が起こり、2巻の内容は学園対抗戦みたいなイベントだったので5戦くらいが描かれていたのだが、1戦1戦の密度が高くテンポが良い。
似たような読後感は『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を読んだときにも感じた。あれも読めば読むほどに事件が起こり、あれよあれよという間に読み終わったら色々とありすぎて感想が出てこなかった。「なんか面白かったなぁ」という感じであった。
時代的に、こういう物語しかウケないのかもしれない。正直、自分も現代においてテンポが遅く、密度が低いラノベをきちんと最後まで読めるかといったら自信がない。
読み終わった後に、結局のところこの小説は何を伝えたかったのか? というテーマ的な部分がハッキリしているほど、感想というのは書きやすい。「◯◯の心情の変化で泣けました!」といった感じだ。でも、そういうテーマ的な部分はあるにはあるのだろうけど、テンポと情報量で隠されている。もしくはまだ明らかにしてないのかもしれない。
とはいえ、テーマ性なんてものはどうでも良くない? とも思える。面白いYoutube Shortsを延々と見ていて、おもしれー!となった後に、最後の最後でそれまで見ていたShortsにテーマ性が見え隠れしたらみな喜ぶんじゃないだろうか。そんな全体的な感想を抱いた。
↓ネタバレあり
主人公の銃痕
今巻で明らかにされた情報はいくつかあるが、一番大きかったのは主人公の銃痕の能力だろう。銃痕というのは主人公が属する団体員に与えられる異能だ。
最初の方で能力が与えられ、が後半の戦闘になって明らかになる。ここまでは、「主人公の異能はどんななんだろう」という謎で興味が引っ張られる。
この主人公の異能が明らかになったときに、作中の他の登場人物たちがドン引きするのだけど、ここがちょっと難しいなと感じた。実際、「相手を丸々意識ごとコピーする」というのは、ヤバいっちゃヤバいし、異能の性質がキャラの精神性に結びついていると考えてみると、異常ではある。
とはいえ、他の作品でもよく見かける能力と言えばそうではある。作者の合縁奇縁は心理学的な面を踏まえた描写をよくやるが、主人公の異能は明らかに光か闇であれば闇側である、というのが微妙に伝わりにくい感じはした。
実際、自分を無にして相手になりきる、ってのが渇望としてある奴が実際に居たらそいつはヤバいってのは分かるんだけど、そのヤバさって伝わりにくくないか? 自己同一性の崩壊ってピンと来る奴が少なそうである。でもそういうピーキーな描写があるからこそ、合縁奇縁のファンになってしまっているので、何も言えない。シンプルに俺の感受性が終わっているだけという説もある。
あと、主人公が銃痕を使うと戦闘も同じ奴同士が戦うから地味にはなってしまう。相手の心理を読む能力は戦闘を面白くできそうだけど、まあ、よく考えたらHUNTER×HUNTERみたいな緻密な戦闘描写がこの作品に求められているかといったら、そうではないので、なんか続刊では戦闘とは違う形で役に立つのかもしれないですね。
語尾がアルのキャラ、嬉しい
語尾にアルとネがつく、往年の中国人っぽいキャラが出てきたので素直にありがとうと思った。最近少ないんだよな。こういうキャラしか求めていない。語尾キャラは文字で読んでこそ輝く。
後半のめちゃくちゃ度合い
ラストの恋兎ひかりとその他大勢の戦闘シーン、次から次へと色々なガジェット・技・魔術・クリーチャーが飛び交ってメチャクチャになるんだけど、これがどっちかというとオモシロに振っていると感じた。正直、シリアスではなくコメディだったと思う。
1巻のラスト付近はシリアスを目指してそうだったが、2巻のラストはコメディだった。最近だとちょっと方向性は違うけどチェーンソーマン的な笑いだと思う。HUNTER×HUNTERの名前も作中で唐突に出していたしね。実際のところ、恋兎からしたらお遊びみたいな戦闘だったわけだし、緊張感は出さなくても良いのだろう。
次から次へと読んでいて心地の良い造語が出てきて、テンポ良く話が進むのは気持ちが良い。面白いというよりは、本能的な快楽に近い。物を壊す系のASMR動画を見ているときと同じドーパミンが脳から出るのを感じる。読むTikTokかもしれない。
読むTikTokなのは最初から最後までそうなんだけど、最後の戦闘シーンはそれがイキ過ぎて、おそらくは意図的にコメディと化していた。サンタクロースは「ここはコメディですよ」と伝えるために出したんだと思う。サンタクロースは少し滑っていたが、そこはまあ仕方がないだろう。
メチャクチャな戦闘がもはやコメディと化す、という面がチェーンソーマンに似ている部分と感じたのかもしれない。これができるバトル系のものってなかなか無いので、気になる人は読んだ方が良い。よく考えてみたら最終的にはボボボーボ・ボーボボに繋がるかもしれない。奇才の共通項なんだろうか。
終わりに
他にも、Coporationsの生徒会長の心の声いいよね、とか、糸目キャラってこういうので良いんだよね、とか、細かいところを書き出せばキリがないから止めておく。なんか色々と面白かったという感想だけが残る。
文字版のASMR動画だと思えばいいと思う。動画というものがTikTokになったように、小説というものはこうなっていくのかもしれない。全体としては長いものでも、短いシーンと端的な要素の連なりと化していくのだ。映画もその傾向にある。
その方向性で言えば、『こちら、終末停滞委員会。」よりもショートの連なりとして書かれた小説を他に見たことがない。多分どこかにはあるんだろうけど、まだ読めていない。他にもあると知っている方が居たら教えて下さい。
『変な家』は読みやすさを重視したホラーミステリーだし、どっちかといえばライトミステリー寄りだ。ショート動画の積み重ねみたいなものって、実際やろうと思ったらとんでもない労力がかかるし、なかなか難しいのかもしれない。1巻の解説とかヤバかったしね。
今後はAIでネタ出しもできるだろうから、そういった技術も活用しつつ、この方向性の傑作は増えてほしいなと思った次第。3巻も読みます。2巻は旅行の移動中に読んだら時間が過ぎるのが早くてありがたかった。移動中の体感時間で小説の面白さというのは測定できます。
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