超えられない壁?

残念な知らせを昨日、受けました。カケンという、国から研究助成を受けるための申請書の審査結果がきて、不採択でした(今回で3年連続)。周りの優秀な人たちは、どんどん採択されてます(そして正教員として就職していきます)。やっぱり自分では無理なのかなぁ…と落ち込んでる気分が紛れそうなので、こうして久しぶりに長い文章を書いてます。

僕がやっているのは、ドイツの歴史研究です。研究を進めるために、まとまった資金が必要となるのは、ドイツなど海外渡航して資料を取ったり、向こうの学会で発表をするといった場面であって、たとえば何かの成分を分析するための高価な装置が必要というわけではないから、外部の研究資金はあればとてもありがたいけど、なければないで、学内の助成を利用しながら、それなりにやっていくことはできます。ただ、20年度いっぱいで任期切れとなり、就職活動をしなければならない自分の身としては、まったく有り難くない知らせでした。せっかく読んでくれたひとのために、それはどういうことか、ということを説明します。

まず、文学部などの人文社会系の分野では、カケンに応募すること自体は、珍しくないけど、みんな応募するような状況にはなってません。実際、カケンに応募していない先生(任期なし)も周りには少なくないですし、僕自身、大学で教員として働くようになるまでは、奨学金を借りたり、貯金を取り崩したりして、やりくりしてました。決して潤沢な資金ではないけど、年に一回、ドイツに二週間ぐらい行って、資料をかき集めて、日本に帰ってきて分析すれば、まぁ何とかなるわけです。Amazon Germanyを使えば外国から本を取り寄せることもできるし、日本国内の図書館から、結構な数の資料を取り寄せることもできる。工夫次第で、やりようはある。

けれど、カケンには資金とは別の横顔があります。このカケンに採択されていることは、単に研究資金が得られるだけではなくて、僕のような任期付きの教員が、任期なしの正教員になるための大事なステップの一つにもなっているのです。カケンには、対象者別の様々な応募種類があって、若手は若手研究というものに応募します。そこで選ばれた人は、国から助成を受けられるような優れた研究者の卵として、周りから評価されます。もちろん、色んなケースがあるのですが、そんなわけで、カケン採択者は、そのまま大学業界に残って、教員として働き続けられる可能性が、ぐっと高まるのです。

こういった、研究資金の調達能力によって、研究者の評価が決まっている背景には、外部からの資金なしには、大学そのものが成り立たなくなってきている、という大学運営上の大きな問題があります。さらに大きく言えば、少子化によって日本の学生数が減少の一途をたどっていて、授業料の収入などが減っている、という社会問題も影響しています。

そんなわけで、苦境にある大学業界としては、魅力的で分かりやすいアピールポイントのある教員を求めるようになります。外部資金を取って来れるか、教育、研究、メディアへの発信などによって大学の知名度アップに貢献してくれるか、大学行政に長けているか、強力な人的コネクションを持っているか…などといったアピールポイントがあればあるほど、正教員として雇われる可能性は高まりますし、なければ当然、可能性は低くなります。

そういった状況でカケン不採用の通知を受けた自分としては、就職浪人1年も含めてあと2年間で、論文を書いて、本にまとめて、カケンに応募して、授業も工夫してやって…と、やれるだけのことをやってみようかと思います。


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