見出し画像

5月なにかう?

S字フック

「あたいこんなに注目されたことないから恥ずかしいて~」

渋谷のダイソーで一人、立ち尽くしてしまった。どうしたものか・・・。私の買い物メモには「S字フック」とただ一言書かれているだけなのだが、目の前には棚一面を占領する何十種類ものS字フック。ひとつずつよく見ていくとサイズや素材、形、強度が少しずつ違っている。それはありとあらゆる場面を想定したうえで、観察、発見、問題解決を図った結果の集合であった。一体誰が・・・すごい観察力と想像力だ。

多種多様なS字フックの大群を見せられたおかげで、普通のS字フックで解決するはずだった私の家の諸々は、それだけでは解決しないように思えてきて、まんまと何種類かのS字フックを試す羽目になった。誰かの研究結果の恩恵にあやかり、私の家の押し入れの中は大変快適になったのだった。

つなぎ

「鍵は左胸ポッケに入ってるよ。スマホは右おしりだってば!自分でしまったのにガサゴソしないでよー」

スティーブ・ジョブズがいつも黒Tにジーンズを合わせていたように、私はつなぎを制服にしたいと思っている。つなぎが魅力的なのは、まずポケットが多くて大きい、多少汚れていてもサマになる、コーディネートをほとんど考えなくてもいい…挙げたらキリがない。

つなぎ集めに難航している原因はサイズ問題だ。古着屋で私の身長にピタリとくるサイズを見つけるのは、現地集合した友達と、道中の電車でたまたま同じ車両に乗り合わせるくらいの確率に等しい。(というのもこの間、本記事のカメラマン畠山さんとそれが起こった)

このつなぎは寸分違わぬジャストサイズ。店員さん曰く、たぶんキッズサイズとのこと(あら)。しかもサイズがちょうどいいだけじゃない。ひざの穴を修繕しているステッチがかっこいいし、斜めに設置されたファスナー付きポケットも只者じゃない感がある。

小さいつなぎ、見つけたら私にご一報ください。


スーパーで買えるお清めセット

当日、引っ越しを手伝ってくれる先輩から電話で謎のおつかいを頼まれる。手伝ってもらっている手前、なにもツッコめない。
「あずきと、塩、あとなんでもいいから日本酒!買っておいて!」 

…?

たぶん、このラインナップはお清め系だな。そういうことにはもっぱら疎い。炊くだけでお赤飯に使えるらしいお豆(縁起よさそうだしあとで赤飯にしよう~)と、新潟産の私好みそうな味の日本酒(あとで飲もう~)と、ちょっと美味しそうな焼き塩を選んで買う。こんな食欲にまみれたお清めアイテムにパワーはあるのだろうかと半信半疑のまま、先輩の後に続いて部屋の四隅にお清めアイテムを撒いていく。私の担当は小豆と塩。

スタッフが美味しくいただきました

深夜、部屋で作業などしているとき、物音に一瞬怖気づく。そんなとき咄嗟に思うのは「でもこの部屋ちゃんと清めてるから平気」。あんなに半信半疑だったのに!これがお清めの本当の実力らしい。

p.s. ガビーン!この文章を書くにあたって、「ささげ豆って書いてあるけど、小豆だよね?」と一応調べてみたら別物でした…。 でも、でも、この部屋ちゃんと清めてるから平気、と思うことが大事なのです。


ソファ

「また私の上で寝てー!メイク落としてきなさーい!」

ソファという家具は私が一目置く存在である。22年間住んだ実家にソファが置かれたことは一度もなく、おともだちの家にだけある遠い憧れの存在だったのだ。そんなソファ、引っ越しをきっかけに人生で初めて私のものに。大人の階段を登ってしまった気分だ。

ここまでで3回もソファという単語をタイプしている。何度も“ソファ”という文字の並びを見ていると、どんな家具よりも気持ちよさそうな名前をしていると思う。
               ソ  フ  ァ  ~

ぬいぐるみのふにおはソファに同化しそうです

なかなか良いものに出会えず、行きついた先はメルカリ。出品者が語る長々とした説明文はソファへの愛に溢れていて、大切にされてきた歴史を感じる。「ふっと全身の力を抜いてのんびり過ごしたくなるような、体をすっぽり包んでくれるコロンとした楕円形」の文言が決め手になって、購入。サイズを書いてるだけだったら、買わなかったかもしれない。
届いたソファはやっぱりきれいに掃除してあって、本当に体をすっぽり包んでくれた。自分の部屋に、あの憧れのソファがあるという事実にファファと心躍っている!


タチアナ焙煎所のマグカップ

「いくら気に入ってるからって、またアイスコーヒー入れたな?オレは年中無休、労働ってか!」

前に住んでいた家の近所にあって大好きなお店、タチアナ焙煎所で買ったマグカップ。てるさんという一言じゃ形容できない不思議な感じの…でもみんな好きになっちゃうようなマスターがいるお店。ここに来ればなにか一つ新しいことを知ることができる。

マグカップの絵は私も大好きな映画監督、アキ・カウリスマキの「浮雲」のワンシーンで、てるさんお手製の消しゴムハンコ。引っ越し前に冥途の土産のような気持ちで買ったのだが、結局引っ越した後もなにかしら言い訳を作っては何度もお邪魔している。おかげで引っ越し後も、なかなかコーヒー屋さんの新規開拓が進まないから困ってしまう。


打ち豆

乾燥豆コーナーを前に私は静かに感動し、同時にこのスーパーへの信頼を確かなものにしていた。関東では売っていないと思っていた打ち豆が、なんと新居最寄りのスーパーに売っていたのだ!

打ち豆というのは祖母が住む新潟の銘品で、大豆を木槌で平たくしたのち乾燥させたもの。私的テンション上がる実家のお味噌汁の具NO.1でもある。たまに届く祖母からの宅急便に打ち豆は入っていて、その時だけ食卓に登場する一品だった。格別に味が美味しいというわけではないのだが、そのレア度も相まってNO.1なのだ。
懸念しているのは、距離が近くなりすぎて打ち豆へのトキメキがすり減り、マンネリ化してしまわないかということだ。

「ボクってレアだから美味しいってこと…?なんだか複雑だなあ…」


にがり

ご飯を炊く時に一匙入れるだけで、お米がふっくらすると教えてもらい買う。しかも体にもいいらしい。少し入れるだけで美味しくなって、健康にも良いなんて、なんと都合がよいことか。たしかに、一度冷凍したご飯でさえも、ふっくらさを保っている気がする。美味しい。

ひと手間だけでも何か工夫して、美味しく食べることは、食べ物と対等に接するということかもしれない。昔のバイト先のマネージャーが「食べ物を2度殺すな」と言っていたことを思い出す。自炊は私と食品とのタイマン、真剣勝負の場である。


『ブッダ①』 手塚治虫
『シジフォスの神話』 カミュ
『歎異抄』 親鸞/唯円
『アニミズムという希望』 山尾三省
『口の立つやつが勝つってことでいいのか』 頭木弘樹

今月はお勉強チックな本が多かったですね。『アニミズムという希望』が大学の講義録で、参考文献が多く紹介されている。中でも気になった『シジフォスの神話』と『歎異抄』は古本屋にて100円でゲット。

かいものは思い出。かいもので自分の価値観や興味を改めて知る。かいものは生活と心の支え。
断捨離よりもお気に入りを大切に、ながーく使いたいのです。

来月はミノリなにかう?


Photo
畠山佑輝

フォトグラファー / 映像ディレクター


本人 / Text
ミノリ

モデル・俳優 / ライター

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?