カンマチョン「人と水牛」(1975年、タイ)



カンマチョンはタイのロックバンド。タイの社会派フォーク・ロック(タイ語では「プレーン・プア・チーウィット」という)の先駆けにカラワンというバンドがあるが、カンマチョンもカラワンと連携して1970年代に民主化運動に参加していた政治的メッセージの強いバンドである。
カンマチョンは「人と水牛」、「雨を待つ稲」といったカラワンの歌を数曲カヴァーしているが、歪んだオルガンの音がサイケデリックな雰囲気を醸し出している。特に「人と水牛」のカヴァーでは曲が終盤に近付くにつれヴォーカルがトランス状態になっているかのようにシャウトし、本家カラワンのヴァージョンよりも「ぶっとんで」いる。
カンマチョンにせよ、カラワンにせよ、彼らはタイの農民や労働者たちを抑圧する政府に対して非常に好戦的だった。「人と水牛」という曲も、さあ、行こうよ、鋤と銃を持って、というようなアナーキーな歌詞が特徴である。カンマチョンは学生運動に参加していたメンバーで構成されているが、メンバーが学生決起クーデターで銃殺されるなど、社会的状況が非常に不穏の中活動していたらしい。
もしかしたらこのバンドは音楽好きというよりは、タイの歴史・社会史に詳しい人間によく知られているのかもしれない。筆者はタイ語には疎いが、日本とは比べ物にならないほどの複雑な国内情勢において常にプレーン・プア・チーウィットは激動のタイの社会を鋭く批評・批判してきたのだろう。その批評精神が後のカラバオやガトーンといった後輩バンドに受け継がれているのだと思う。
なお「カンマチョン」とは「プロレタリアート」という意味らしい。

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