キム・テゴン「望夫石 / アリアリ・アラリヨ / 松鶴寺」(1977年、韓国)


キム・テゴンは、韓国の「民族派ロック」の先駆的存在である。が、自分でこう書いておきながら諸説あるだろうとも思う。ロックと韓国伝統音楽を最初に融合したのは韓国のロックの父と謳われるシン・ジュンヒョンだ、や、いや、韓国フォーク・ロックの先駆者であるハン・デスだ、などなど。
しかし、銅鑼やチャンゴ(韓国伝統音楽で使われる太鼓)、ケンガリ(同じく、シンバルのような伝統音楽の楽器)またはカヤグム(韓国の琴)を大胆にロック・ミュージックに使った初めてのアーティストはキム・テゴンだろう。
彼の1stアルバムのA面一曲目「望夫石(マンブソク)」からぶっとぶ。いきなり銅鑼が高らかに鳴ったかと思いきや、先述の伝統音楽の楽器が一斉にサイケデリックな演奏を始め、複雑なコード進行を伴ったアコースティック・ギターの伴奏で歌が始まる。歌そのものも、欧米のロックで聴かれるようなシャウトする感じではなく、こぶしのある日本でいう演歌に似た韓国音楽特有のものである。
また、イントロの木魚の音が印象的な静謐なフォーク・ソング「松鶴寺(ソンハクサ)」、ファズ・ギターの音が特徴のビート・ロック「アリアリ・アラリヨ」、レトロな歌謡曲調の「愛しい君(サランスロン クデ)」などが聴きどころか。
A面は全曲歌で占められているが、B面はムード音楽的なインストゥルメンタルである。プログレ…という風に形容するのは言い過ぎかもしれないが(どこかデヴィッド・ボウイの「ベルリン三部作」を思い起こさせるけども)、韓国歌謡のアルバムで片面が歌、片面がインストゥルメンタル、という構成は当時斬新だったのではないか。
「望夫石」は2ndアルバム(1978年)にも収録されている。こちらはより複雑な演奏を主とした10分長のアレンジである。3分間以上にわたりただ太鼓(チャンゴ?)の音がトコトコ鳴っているだけの演奏が曲の中で聴かれ、なぜそのようなアレンジにしたのかは全く不明。
なお、この1stアルバムにはジャケットが二種類あって、一番最初に出た盤のデザインは白地に杖を持った大きな目をした宇宙人(?)が描かれているヘンテコなものだ。キム・テゴンは当初は音楽ではなく、美術を志していたそうだが、彼のデザインだろうか。
聴けば聴くほど、謎の多いアーティスト。しかし、だからこそ面白い。

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