Natural Gathering "Origins" (1979年、イスラエル)


まず、禅問答のようなことを書いてこの短い文章を始めたい。
このグループはイスラエルの音楽グループではあるが、イスラエルの音楽であると同時にイスラエルの音楽ではない。しかし、イスラエルの音楽でないと同時にイスラエルの音楽である。
一聴したところ、中東風のオリエンタルなサウンドがリスナーを幻惑させ、遠い世界へと連れて行くような呪術的・儀式的な音楽だ。だが、このグループの楽器編成には一貫性というものがないのだ。アコースティック・ギター、ヴァイオリン、ボンゴのようなラテン・パーカッション、極めつけはインドのタンブーラ。そもそも「イスラエルの音楽」を奏でるのに例えばなぜインドの楽器を使うのだろう。
歴史の授業で習うように、イスラエルはキリスト教、イスラム教、ユダヤ教の聖地であるエルサレムを首都とした多文化・多宗教が交わる国だ。ニュースで連日報道されているように、現在もそういった政治的・宗教的な違いに端を発する戦火は収まりそうにない。
それだけではない。イスラエルは第二次世界大戦の後に成立し、他の国と比べて「若い」国家だ。このアルバムが発売された時にもイスラエルという国の民族的アイデンティティはまだきちんと定まっていなかったのではないか、と筆者は想像する。
すると「イスラエルらしい音楽」というものが何を指すのか、という定義がこの頃はまだ存在しなかったのではないか。このグループ、Natural Gatheringが多国籍な楽器を用いたのは「イスラエルらしい音楽」を何とかして探り当てようとする試み・実験だったのではないか。
こうも言える。もしかしたら「イスラエルらしさ」というものを探し求めること自体がナンセンスなのかもしれない。なぜなら――繰り返しになるかもしれないが――イスラエルという国自体が様々な要素が同居する(アメリカとは違う意味での)「文化のるつぼ」なのだから。


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