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第4回 山田さんの”こうしよう術”

「みんなで就学活動」は、支援の必要なお子さんが小学校に就学する時にご家族が遭遇する困難や悩みを知るとともに、自分たちにとってより良い選択を描きながら就学できるようにするための“こうしよう”術を、みんなで対話し、つくりあげていくプロジェクトです。
ここでは、実際に就学活動を終えられた先輩方に、リアルな経験談をお聞きし、それぞれの方の知見を”こうしよう術"としてご紹介していきます。

家族も一緒に取り組む就学活動


京都に住んでいる山田苗子と申します。子どもは3人、大学生の長女と、小6の長男、末っ子は現在、幼稚園生です。長男は跳び箱やかけっこなど体育が得意な一方で、小さい頃から複数の人の話を聞くことが難しかったです。1対1、あるいは両側にひとりずつ程度の人数なら会話も大丈夫ですが、それ以上は理解が難しくなり、個別に説明してもらうなどのサポートを必要としていました。軽度ですがADHD、ASD、それとLDと診断されています。小学校は普通級も支援級も選べる状態だったものの、どこに通うのが一番彼のためになるのかは悩みました。家族の一大イベントとしてみんなで一丸となって乗り越えたと思っています。

夫との足並み、先輩ママのアドバイス

夫は当初、「障がいも含めて息子は普通、だからこのままで良い」と捉えているところがあったんです。ただ元々子育てには協力的で、自営業なこともあって息子と過ごす時間も比較的長いため、療育での息子の様子などを見ているうちに、少しずつ実感したようでした。

その上で夫は、息子には支援級がいい、と考えていたんです。私は「できるだけみんなと一緒に普通級で過ごせた方がいい」と考えていたので、最初はこの相違をすり合わせるために時間を掛けて話し合いました。お互いが息子を見て感じることなどをプレゼンテーションし合いながら、それでもなかなか意見が合わずにいたんです。

息子が年中の時からすでに小学校のことを考え出していた私は、上の子が通っていた小学校を就学先の候補の一つに考えていて、普段の授業の様子や、支援級がどんな雰囲気なのかを知りたく、早めに自分ひとりで見学していました。家族で学校見学をしたのは、息子が年長になったタイミングです。家族で参加できる機会を利用して、夫と息子と三人で見学した際、普通級と支援級の両方を見て、どちらに通いたいかと本人に聞いたんです。

というのも、スイミングに通っていた障害児スポーツセンターで知り合った先輩お母さんから「毎日通うのは本人だから息子の意見を尊重したほうがいい」とアドバイスされたためです。それまで夫婦間でいくらお互いの意見をプレゼンしあっても夫と私の意見が合わずにいたので、「息子の意見をしっかり聞いて決めよう、それで恨みっこなし」ということにしました。

まだ年長の6月頃でしたが、学校見学をした息子本人が「僕はたくさんのお友達と一緒に先生の意見を聞くのは難しいから、少ない人数の方で勉強したい」と、明確な意思をもって支援級を希望したんです。早めに決めてくれたおかげで、夫婦も足並みが揃いました。

同じ小学校に上の子が在学中、夫がPTAの役員をしていたことや、そもそも夫自身も同じ小学校の卒業生であるため身近な学校でもあったことなど、恵まれていた点もあったと思います。息子の入学に備えて早めに動けていたのも、前から知っている先生がいて相談しやすかったことが大きな理由でもありました。また年に数回、療育には「お父さんの日」が設けられていたのもすごく良かったですね。私から見た息子と、夫から見た息子、それぞれの視点からじっくり意見交換することができたのは、そのおかげだと思います。

就学活動は一家の一大イベント。
夫婦の意見を揃えるためにも、「お父さんの日」を利用するなど、
父母それぞれが子どもと過ごす機会を増やす。

子ども本人の希望や意見に耳を傾け、決定したらしっかりサポートをする。

道を分ける要素は、たったの「1」

就学相談で受けた発達検査では、DQ(発達指数)が76でした。支援級に行くには75以下、普通級に行くには75を超える必要があり、76の息子はまさにボーダーライン。たった1程度の超過なんて、その日の体調ひとつで簡単に変わってしまうだろうと思うと、正直、柔軟性のなさに驚きましたが、このDQ指数によって普通級を勧められました。息子の意思を尊重して就学先を決めたかったので、この検査以降、うちの就学活動は「支援級に行くための活動」になったと言えます。

入学前から熱心に気に掛けてくださった教頭先生と校長先生には、今でもとても感謝しています。最初に教頭先生と話す時間をいただいた際、発達検査の結果もあって強く普通級を勧められました。普通級にもサポートはありますよと言ってくださり、「では、もし先生の話を理解できなかった場合、個別のサポートが付くのでしょうか」と聞いたところ、それは難しいというお返事。「一年生はまだまだどんなお子さんもサポートが必要な年齢ですから」といった一般論はおっしゃる通りだと思ったものの、このままでは話が平行線のままにも感じて、校長先生との面談もお願いしました。

教頭も同席くださり、夫も含めた4人で話し始めると、校長先生は割とあっさり支援級を承諾してくださったんです。ただすぐには決められず、病院の診断書や保護者の嘆願書など、教育委員会に出すための書類を揃えたりする必要がありました。結局、12月の年の瀬も近い頃、教育委員会から支援級に進んで良いというお返事をもらったんです。正月前に決まって気持ちがすっきりしたのをよく覚えています。

希望する学校の先生とは、早い時期から話し合い、
合意形成を確固たるものとする。

数年先の未来を見据えた活動を

現在小学校六年生なので、今はまた中学に向けた就学活動をしているところです。息子は、今度は「普通級に行きたい」と言っているため、交流級で長い時間過ごせるかどうか、チャレンジしています。

今の小学校では朝の会から終わりの会まで、基本的には支援級で学び、単元内容によって交流級に参加しています。体育が得意な息子は、交流級で跳び箱の飛び方を解説するなどして、お友達に認めてもらえることが多くなり、自信がついたようです。一年生のときはずっと支援級にいたのに、いつの間にか1日に3時間、多い日は4時間も交流級で過ごすことが増えていました。地道に積み上げてくれた周囲のお友達や先生方のおかげです。おそらくそうした自信もあって、五年生のときに「中学はお友達の多い普通級に行きたい」と言ったんだと思います。

息子の希望を聞き、すぐに担任の先生に相談しました。「中学に上がる時に普通級も選べる状態にする」ことを最終目標に捉えて、そのためにはどんなことに取り組むといいか、先生と頻繁にやり取りさせてもらいました。まずは1週間、毎日全ての授業を交流級で過ごせること。それがうまくいったら、今度は1ヶ月。毎日すべて交流級で問題なく過ごせるかどうか、これは息子にとって大きな挑戦です。

目標を決める際、先生から「いつ頃取り組みたいか」と聞かれました。先生方にも余裕がある時期がいいので学期末を避け、息子が緊張しているであろう学年の始めも避けて、「二学期の真ん中頃」とお願いして、取り組んでいるところです。

上の子の受験などを見ているため、息子本人も「小学校を終えたら中学や受験がある」という道筋を彼なりに認識していたのかもしれません。早めに意識してくれたおかげで、もしも交流級で過ごすチャレンジを経て希望が変わったとしても、また別のことを考える時間の余裕もありそうです。

数年先にくるであろう進級や進学についても
本人と担任の先生と、日頃からコミュニケーションを取る。

様々な方の就学活動を知ることで、ひとりでは”どうしよう?”となってしまいがちな就学活動も、みんなで知恵を出し合い、“こうしよう!“と思いを新たに、新しい一歩を力強く踏み出せるのではないでしょうか?次回も、ぜひご覧ください。


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