ミニ四駆に戻ってみた。4 リバティーエンペラー(前編)
プルルル...ガチャッ
「もしもし、どちら様ですか?」
「私だ」
「ワタシダさんですか」
俺のイタズラとしか思えない数年ぶりの電話にも咄嗟に対応できるノリの良さ。
懐かしいやり取りに自然と顔が綻ぶ。何年経っても変わらない。
「いきなりすまんな、UMA」
「いや。どうしました?」
男の名はUMA。
自らを未確認生物と名乗る男。ハンドルネームからして只者ではない。
そんな男に連絡を取ったのには理由があった。
「なぁ、今もミニ四駆やってる?」
実は数年前までは現役のミニ四レーサーだったUMA。確か第一次ブーム期からの歴戦の兵だったはず。
もし今でも現役だったらぜひレースに参加して欲しいのだが。
「ミニ四駆!? いや、遊ばなくなったから今ちょうど実家へ運んだところで」
「えっ」
「たった今相方と実家に来てて。ミニ四駆一式を持ってきたところなんだわ」
「マジで!?」
おいおい、どういうタイミングなんだ。数年ぶりに連絡をとった日がまさかのラストチャンスだったとは。
手短に要件を伝えると二つ返事でオッケーとのこと。
今頃は再びミニ四駆一式を積み直して奥様に怪訝な顔をされている事だろう。
すまんなUMA、しかしこれは面白い事になってきたぞ!
☆
そんな訳で俺達のレースに新キャラが加わる事となった。
数年ぶりに会ったヒロも、その再会を喜び......
「やあ久しぶり」
「マシンを見せろ」
ヒロ、いきなり臨戦態勢!?
なんかサイヤ人みたいになってる奴がいるんだけど。というか普段クールなヒロが熱くなるなんて珍しい。
それだけ今回のレース「新シャーシ対決」にかける意気込みが違うという事か。ほら、UMAが軽く引いてるぞ?
ヒロが待ちきれないようなのでまずはお互いのマシンを披露する事にした。
UMA「私のマシンはこれだ」
テーブルの上に並べられた激レアなミニ四駆達。
左からサニーシャトル、ナイトロサンダー、青メッキのシューティングスターってちょっと待て、これ走行用か!?
とうの昔に供給の途絶えたマシンばかり。どれもこれも博物館レベルだぞ?
調べてみたらサニーシャトルの当時モノは某通販サイトにて数万円だった。おいおいヤバいって。
他の2台もレア過ぎて商品検索に引っ掛からない。つかこのナイトロサンダーという名前もTwitterで拡散してやっと知れた名前なんだぞ! ブログ書く身にもなってくれ! UMAよ!
車種選びの時点でかなりのリードを許してしまった気分。なんか悔しい。
「ほい俺の」
続けてヒロが今回の新車を取り出した。
カッコええなぁ!
パーソナルカラーのマットブラックに今回は赤銀のラインが入っている。ボディ提灯に加えて東北ダンパーも搭載されていた。
あ、UMAが引いている。
「これも見てくれ。昨日頑張った」
なんだ? 見た目のかわいいマシンだな?
「コペンだ。まぁ見てくれ」
まずは俺が手に取る。
「ARか」
「いや、ちゃんと見ろって。FMARだっつーの」
「なにっ!?」
俺が今回FMARを選んだことは前日のツイートで知っているはず。ということは敢えて同じシャーシを一晩で組んできたって事か!?
やはり今回のヒロは気合いの入り方が違う。だがそう簡単には負けてやらんぞ!
「最後は俺か。ツイッターでつぶやいた以上の事は無いかな」
言いながら今回のマシンをテーブルに置く。
「ビートマグナムFMARです」
俺の新シャーシ対決用マシンはこれだ。
以前に素組みしたビートマグナムをFM化し、ボディーを前後で分割してボディ提灯に改造した自慢の逸品。
さぁ存分に見るがいい!
「......」
しーん
ん、あれっ?
何故かリアクションが無い。
ふと見れば2人とも自分の席に戻っていた。
まさかの放置プレイ!?
突然の仕打ちにショックを受けていると、こちらを完全無視したヒロがコペンをスタートさせた。
ギュイィィィ!
「えっ」
速い、鬼速い!
コーナーでの減速がほとんどない。速度も前回のマシン達よりも速く見えるぞ!
だが惜しくも最後のレーンチェンジでコースアウト。
「行けそうじゃね?」
「だな」
これはマズい、俺も早く準備を進めなければ!
そう思いながらアタックの準備を開始した、その時だった。
「通ったぁぁぁ!」
「え、もう!?」
こんな開始早々もうタイムが出たというのか!? 一体どんなタイムが?
「来た、22秒12ッ!」
は?
これまたとんでもない記録が出てしまった!
☆
PM00:12
到着から約1時間。
ギュイィィィ、ザシャァッ
いきなりの好タイム発進から今の今までずっと調整を続けているヒロ。正午を過ぎた今も座ろうとしない。
今日のヒロは燃えていた。
「頑張るねぇ」
対する俺はのんびり昼食モード。
ヤバい状況ではあるが、今回はいつもほど焦る必要はない。その理由は今回の対決ルールにあった。
【ルール】
タイムアタックで速かった者から走行レーンを選び、最後のバトルレースで1位となった者を今回の勝者とする
そう、今回はバトルレース。タイムアタックはあくまでもレーン決めと本戦に向けての調整なのだ。
大切なのは速さと完走率のバランスである。一発勝負でコースアウトせずに誰よりも速くゴール出来ればそれでいい。
22秒台というタイムは驚異的だがそうそう出せるものでもあるまい。その証拠にヒロは先程からコースアウトを連発していた。
最終的にはサバイバル。であれば無理をしてマシンを壊しても仕方がない。まずはしっかりとメシを食っておこう。
ギュイィィィ、がしゃんっ
「ふーっ」
ふとUMAの方に目を向けると、ヒロと同じくノンストップで作業を繰り返していた。
UMAはタイプ3シャーシ(!)を完走させようと必死の様子。というか立体コースをタイプ系シャーシが走ること自体が稀だろう。
「タイプ3ねぇ」
今回の対決前にUMAと交わした言葉を思い出す。
数日前、ルール確認を行った際に使用シャーシを聞いてみたのだ。
そしたらまさかのタイプ3ですよ奥さん。
流石に旧シャーシで現代ミニ四駆に対抗するのは不利じゃないのか、そう聞いてみたのだが『好きなマシンで走りたい』との返答だった。
ギュイィィィ、がしゃんっ
「ふぅ......」
好きなマシンで走りたい、か。
なんだろう。何かモヤモヤとする。
いやいや! 今は午後からどうするかを考えねば。
ヒロはともかく俺とUMAはまだ満足に完走出来ていない。
レースまで約2時間。とりあえずはタイムだけでも出しておきたいところ。
食べかけのパスタに止めを刺してビートマグナムに新しい電池を搭載する。
目指すは前回と同等の24秒台。そこで安定できれば勝機もあるはず。
走らせる前に入念にチェックしておこう。ボディ提灯、よし。ブレーキ、よし。ビスの締まり、よし!
「昼飯どうしよう」
「オニギリだ」
昼食を用意していなかったUMAにオニギリを渡す。食料の取り扱いがないショップなので食べ物に困ることは予測済みだった。
そして手元を見るとマシンがタイプ3からMSのナイトロサンダーに変わっている。
ここまでタイプ3で頑張っていたUMAだったが流石に厳しかったようだ。
だがそんなMSもセッティングが旧世代のままなのがUMAっぽいというかなんというか。今日中にちゃんと完走できるか心配になる。
いや、人の心配ばかりしてはいられない。俺もタイムを出しておかねば。行くぞ!
激しい駆動音を響かせてビートマグナムが走り出す!
ギュイィィィ、ぽすん
「あれ?」
期待したほどの速度が出ない。途中の登板区間で大きく減速しているのが分かる。
かといってブレーキを外せばコースアウトは確実。どうしたらいいんだろう?
ぽすん、ぽすん
そのまま何事もなく完走したが、そのタイムが遅すぎた。
「26秒89、だと?」
前回の雪風より2秒も遅い。マシン自体が重すぎたか、それとも加工したボディが悪さしているのか?
怪しいのは登板区間での激しい減速だな。もしかしたらブレーキ周りに問題があるのかも知れない。
その後もあれこれ試してみたが全て26秒台だった。困ったぞこれは。
「コースアウトするんだが」
「ブレーキだ」
UMAに切り分けたブレーキを手渡す。ナイトロサンダーになった途端に速度域が変わったのでノンブレーキでは無理だろうと思って準備していたのだ。
というかハイパーを積んだMSにFRP付けてベアリングローラー4つとワンウェイホイールのみってそりゃコースアウトするよね。装備が勇者すぎる。
いやいやUMAに気を取られている場合ではない。このままではポールポジションどころか前回の記録にも届いていないのだ。
タイムの向上を狙ってブレーキにマスキングを施して再スタートさせるが。
ギュイィィィ、がしゃんっ
「ああっ」
今度は激しくコースアウト!
リアブレーキを隠してしまうとジャンプの姿勢が大きく傾いてしまって駄目らしい。
ぐぬぬぬぬ。
現在トップのヒロは多少の余裕が出てきたのか、くまモンやらサンダーショットやらと旧マシンを楽しそうに走らせている。
「サンダーショット25秒かぁ。微妙だなぁ」
機嫌は良いが、先程までメインに組んだシューティングプラウドスターが思ったほど速くなかった事で凹んでいたのを見ている。持病はそのままだ。
ふ、笑っていられるのも今のうちだぞ!
☆
PM1:20
タイムアタックも残り1時間。
ギュイィィィ、ザシャァッ
「よし!」
フロントブレーキの調整を繰り返すうちにビートマグナムも25秒後半まで出せるようになってきた。
とはいえヒロの22秒台には程遠い。今日中に抜き去るのは難しいだろう。
「同じFMARなのになぁ」
くっ!
俺達では22秒台に届かないと悟ったか、ヒロは安定性を求めた改造に移行しつつ高みの見物モードに入っていた。
このままでは今回も負けてしまう。それだけは嫌だ!
「マシンが跳ねるんだが」
「マスダンパーだ」
ビートマグナムを上下に揺らしてマスダンパーを上下させる。ナイトロサンダーも速度とブレーキは大丈夫のようだし、後は安定性さえ得られれば完走できるだろう。
どこに取り付けるかは本人に任せるとして、俺はとりあえずもう少し走りを煮詰めないと。
と、その時。
ギュイィィィ、かこんっ
「ビスが曲がったーー!」
「ん?」
なんだ今の気の抜けた音は?
目を向けた俺とヒロは思わず絶句した。
生えてる。
ナイトロサンダーのフロントからマスダンパーが生えていた。
ボディから直接マスダンパーを生やすだなんてミニ四駆史上初なんじゃなかろうか。
見た目でいうと提灯あんこう?
という事は、さっきの音は間違いない。アレだ。
コースの立体交差を支える木材。あそこにビスの頭が当たったとみて間違いないだろう。
レギュでは車高7センチまでオッケーでもフェンスは5センチしかない。たぶんそれ以上の高さになってしまったんだろうな。
って、だからUMAに気を取られていられないんだってば!
残り時間も少なくなってきたし、できる限りタイムを縮めよう。そのために出来ることを考えねば。
ギュイィィィ、ザシャァッ!
「おおっ!?」
「!?」
今度は何だ?
「25秒38ッ!!!」
は???
「えーーーーーーー!?」
そんな、そんな馬鹿なッ!?
ついさっきまでブレーキすら貼っていなかったマシンが25秒前半だとッ!?
「越されたな、ほっと?」
「!」
越されたな、越されたな、越されたな...
うーわ!うーわ、ぅーゎ…
「ふ」
精神的ダメージは甚大だがまだ策はある。
先日買ったばかりのパワーダッシュモーターと入れ換えてリベンジだ。
さあ行け!
ザシャァァァ、ポロリ
「ん?」
なんか落ちた。
UMAが拾い上げたそれは、提灯が内蔵されたビートマグナムのボディだった。
制震を担う大事なパーツ、これがないと完走は!
ギュイィィィ、ザシャァ
あれ?
「完走しちゃった」
25秒68?
なんだこれ。ひょっとしてフロント提灯は必要無いのか?
試しにマスダンパーを取り除き、ただフロントボディがカパカパするだけの状態でスタートさせるとあっさり完走した。
「24秒98?」
プツン、と俺の中で何かが切れた。
うむ。止めた。
やーめたっ♪
もういいや。馴染みのないボディ提灯もFMARも全部やめだ!
「ふんす!!!」
ビートマグナム、雪風で使用したS2、そして『もう一台』のパーツを全てバラす!
そして残り時間をかけて全く別のマシンを新たに組み上げた!
正直な話、今の俺ではヒロのコペンには勝てそうにない。だがそれでもいい! 無理して作ったFMARで越せないから何だというのか!
俺は俺の底力を信じる! 最後に勝てばそれでいい!
うおおおお! さぁ我が娘よ、今こそ力を合わせる時ッ!
脳内のBGMをJAM Projectで固定し全パーツの力を一台のマシンに集約させた。
「名付けて、ファンシーブレードッッッ!」
アシンメトリーのSXX。素体に使用したのは娘が幼児雑誌に付属していたシールをペタペタと貼り付けた素組みのファントムブレードである。
左フロントにはコース最難関のテーブルトップ~右コーナーをクリアするためプラリング付アルミベアリングローラーを2段でセット。
後は左フロント、リア共にシンプルな構成でパーツ点数を抑えて軽量化。タイヤにはキットそのままの小径ワイドバレルタイヤで安定化を図った。
早い話がごちゃまぜマシンである。
よし、行けェ!
ギュイィィィ、ザシャァッ!
しかしこれがいい走りをしてくれる。
タイムはいきなりの25秒前半。うむ、行ける!
「じゃあ俺はサンダーショットで行こっかな?」
(((( ;゚Д゚)))(((( ;゚Д゚)))「ええーーーーーー!?!?」
「あれ、ダメ?」
「今の『ええー』はシューティングプラウドスターとコペンの分だ! せっかく作ったのに使わないのかよ!? 使ってやれよ!」
「いやお前もだろ」
「そ、それはほらXXも一応新シャーシだから」
「......なるほど、これをこうして」
俺達がアホなやり取りをしている裏で何やらつぶやいているUMA。
だんだんカオスになってきたところでタイムアップ。
ごちゃごちゃした空気になったがレースの時間だ!
こうなりゃヤケだ! 行くぞ!
ポールポジションのヒロは一周目でLCに挑める3番レーンを選択。結局マシンはFMARのコペンに決めたようだ。
続いて俺が中央の第2レーン、最後にUMAが第1レーンでのスタートとなる。
「ヒロ、タイミング任せた」
「応。レディ、ゴー!」
3台同時に綺麗なスタートを切る!
出足では小径タイヤの俺がトップか。そのまま第1、第2コーナーを曲がり、最難関のテーブルトップへと突っ込む!
「うっ!」
俺のマシンがトトッと跳ねたようにも見えたが走り続けている。コースに戻れたのか? すぐさま立体コース下に入ったため確認できない!
ギュイィィィ、がしゃんっ
「ああっ!」
姉さん事件です!
最速を誇るヒロのコペンが速さのあまりLCでコースアウト!
ふっ、残るは俺とUMAの2台だけだな。
行ける、今度こそヒロを倒せる!
しかし2周目でふと気が付いた。
「あれ、俺また第2レーン走ってる?」
なんてこった、じゃあ最初の時点でコースアウトしていたってことか!
ぐぬぬぬぬ!
そんな事はお構い無しといった様子の提灯あんこう改めナイトロサンダー。マイペースで無人のコースを駆け抜けていく。
速度、ブレーキ、制震性、それらのバランスがとにかく良い。憎たらしいほどの安定走行。
そのまま安定した走りでフィニッシュ! ということは?
「優勝はァ、ユゥ・エム・エィ!
ユゥゥゥゥゥマァァァァ!!!」
「ふはははははは!」
「くっそぉぉぉ」
ん、ちょっと待て?
という事は最初にコースアウトした俺が最下位ってことじゃん!
また負けたのか俺は! 一体いつになったら勝てるんだ!?
ああもうミニ四駆わからんっ!
ちっくしょうめぇぇぇぇぇぇ!!!
【 次 回 予 告 】
無類の速さを発揮したヒロ。ほとんどコースアウトしなかった俺。
しかし最後の勝利者は、子供の頃から好きなマシンを走らせ続けてきたUMAだった。
速いマシン=勝つマシンではない。かといって安定するマシン=勝つマシンでもない。
では正解のマシンとは何なのか。そもそも勝てるマシンを追い求めることがミニ四駆の正解なのか。
『好きなマシンで走りたい』
心に刺さったままのUMAの言葉が蘇る。
そしてヒロを送り届けた帰り道、俺は1台のマシンに再会することとなるのであった。
次回、ミニ四駆に戻ってみた。
「リバティーエンペラー(中編)」
燃える……燃えてくるぞ! 俺の小宇宙が!!!
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