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ミニ四駆に戻ってみた。9 レブチューン

ギュイィィィィ

いつものサーキット。


本日の先客は一人の少年。走らせているのはアトミックチューン登載のフラットマシンだ。

「はやーい!」

思わず声をあげる娘。俺のダッシュ系マシンとほぼ互角の速さだ。腕で負けていると認めざるを得ない。

そんな彼でさえ敵わない少年がいるらしく、こうして日々研鑽を積んでいるそうだ。

いいねぇ、熱いねぇ!

だが俺も他人の事を気にしている場合ではない。今度こそS1シャーシでヒロに勝つ!

そのためにも、今日は...。

「おお~!」

今度は併設されたラジコンサーキットのドリフト車に大興奮の娘。

優しいドライバーさんなのだろう、娘の目の前で様々なアクションを披露してくれた。

急発進、オーバルターン、サークル状にドリフトしたりと、娘のリアクションに合わせて動き回るラジコンカー。

後で知ったのだがラジコンでそれらの操作を行うのは難しいらしい。

数分後、はしゃぐ娘の後方に待ち合わせ相手の姿を見たとき、俺の緊張はピークを迎えた。

「あ、お疲れ様です!」

待ち合わせの相手はミニ四駆歴20年超の大ベテラン、うみはねさん。

実は昨日「(S1シャーシの)23番3枚と25番1枚出てきたんでいります?」との連絡を受けていた。

なんとありがたき幸せ!

すぐさま返事をし、こうして一家揃って頂きに参じたのだ。

「おお~!」

約束のシャーシだけでなく、新品の旧パワダやメッキ大径ホイールまで!

ありがたや~ありがたや~。

「あの、折角なので自分のマシン見ますか!?」

「『見ますか』って、上からだぜ?」

「!」

過緊張にて言葉がおかしくなった俺に嫁からのツッコミが飛ぶ。

だってしょうがないじゃないか。空手で言えば初心者と愚地独歩くらいの実力差があるのだ!

そこから先の時間は正に未知の領域、未体験ゾーンへの特急便だった。

脱脂していないのに30秒以上は余裕で空転するベアリングローラー。

フロントローラーがほとんど空転しないにも関わらず、常設コースを10秒台で走る開けポンレブのTZ。

そして追い充電のやり方や520ボールベアリングの外し方やそれに関する道具選びまで。

なんだこれは! こんなにも深い世界なのか!

「よっ」

「おっ」

突如うみはねさんに話しかけた男性は、さっきのラジコンの方だった。まさかのお知り合いだったとは。

そこからの会話は次元が高すぎて俺にはチンプンカンプンだった。いつも思うが知識量の差がエグ過ぎる。

どうやらお二人ともホビーロードの大会でも上位陣が参加する「エキスパートクラス」の方々らしい。

大会かぁ、ヒロと出てみたい気もするな。

「ほら、これなんか組んでから3年くらい放置してた奴」

スッ、とラジコンの方から差し出されたマシン。

何の変哲もないVSシャーシに前後FRPプレート、ベアリングローラー、トルクチューンというシンプルなセッティングだ。

長年放置されていたという言葉の通り、ベアリングローラーは1〜2秒しか空転しなかった。

だが、そのマシンが……

ギュイィィィィ

速い! なんで!?

「やっぱりモーター回ってないな」

「うん。何秒位だろう?」

アプリを起動して測ってみると、9秒89!

えっ、10秒を切っている!?

「どうして...」

訳が分からない。一体なにが違うというのか!

言葉を失ったままの俺に、うみはねさんがゆっくりと話し始めた。

「必要最低限な装備の、この状態がミニ四駆の基本になります。

後は走らせてみてブレーキを付けたり、ジャンプ着地の姿勢を見てマスダンを付けたりしていきます」

これが基本?

じゃあ俺が今まで組んだダッシュ系モーターにゴテゴテ盛る改造は一体...ネットに出ている初心者向け改造とかは?

デ、デカルチャー!

「あの、何かお礼がしたいのですが」

「お礼? いやいや要らないです。速くなってくれればそれで」

うみはねさんが俺の言葉に即答する。

神対応すぎでは?

「じゃあ今度の大会に出てもらいましょう
か」

「す、すんません、仕事です...」

Sさんの提案は魅力的だったが、土日祝は都合がつきづらい職種だった。つらい。

うーむ、大会かぁ……。


PM10:30
ほっと家 2F

「という訳で、色々とヤバかった」

「ふーん」

今日の事をとりあえずヒロに報告。

「俺の方はフレキもほぼ完成した。後はローラーなんだが……くっ、ぬっ、全然回らんッ!」

電話越しに聞こえるリューターの音。どうやら錆びたベアリングローラーと格闘しているようだ。

「ローラーといえば、さっきレボリューションBBなんてのを教わったんだが」

「あ、俺も探してみたけど通販しかないから送料もったいなくて辞めた」

流石に知っていたか。 一体どこから情報を集めてくるのやら。

まあヒロのことだ、対決までには凄まじいマシンを組んでくることだろう。

それよりも問題は俺の方だ。

( もしも今後ホビーロードの大会に出るとなれば、最初は『ミドルクラス』になるだろう。

そうすると S 1のフロントバンパーをまた何とかしなきゃならんからな)

ミドルクラスはホビーロードで開催される大会の初級者・中級者向け枠の名称で、ルールも独自のものが設定されている。

基本的にはフラット大会と同じだが、初心者向けに井桁と超大径タイヤの使用が禁止されていた。

うん。それはいい。問題はその禁止の内容だ。

「これからS1組むんだけどさぁ...ミドルクラスってバンパーカット禁止なんだってよ」

S1シャーシの弱点でもあるフロントバンパー。当時を知る者ならば誰しもが白化させた経験があるはずだ。

さぁてと、どうしたもんかなぁ...。

対処の方法はサッパリ思いつかないが、目指すべき方向性は決まっていた。

(やっぱ、アレを目指してぇよな...!)

頂いたばかりのS1シャーシを改造していく。

テーマはズバリ『レブチューン』。

うみはねさんからアドバイスをもらった際に一番気になったのが、超大径に直線で勝る小径レブの話である。

てっきりモーター慣らしや電池育成などのパワーソースによるものかと思ったのだが、

「いえ、それ以外の部分です」

とキッパリと言い切られてしまった。

それが実現可能である事は疑う余地もないだろう。

あの時のマシンは...

・TZシャーシ
・レブチューン2(開けポン)
・ローラー
フロント:19mmオールアルミベアリングローラー(空転1~2秒の新品)
リヤ:2段で19mmプラリン(脱脂していないのに空転30秒以上!)
・タイヤ:前後ともローフリクションローハイトタイヤ(無加工)
・ボディ:プラボディのネオトライダガーZMC

といった内容だった。

これでも慣らし用のマシンであってレブマシンではないそうだが、開けポンレブでの10秒台は驚異的だ。

レブチューン2モーターは下手をするとノーマルモーター並みに遅くなる。以前の対決で実証済みだ。

それなのに、ちょっと前までダッシュ系モーターを積んでやっとだった10秒台をあっさり出していた。

これが腕の差……パワーソースではない「それ以外」の差という事か。

しかし肝心の部分が分からない。

………うむ。

自分が分かっていないという事が分かった(キリッ)。

とりあえずやってみよう!

早速頂いたS1シャーシを使って組んでみる事にした。 


・S1シャーシ
・レブチューン2(慣らし済み)
・右フロント:830ベアリングローラー(脱脂済み)
・他ローラー:19mmプラリン(脱脂済み)
・タイヤ:前後ローフリクションローハイトタイヤ
・ボディ:リバティーエンペラー(加工済み7g)

おお、これだけ見るとイケそうな感じじゃないか。オラわくわくすっぞ!

しばらくはコイツで修行だ。目指すは10秒切り!

ダッシュ系モーター達よ、しばしのお別れだ。

数日後。

いつものように昼休みのミニ四駆タイム。見慣れた景色になんだかホッとする。

それじゃあ早速初めてのレブマシンを走らせるとしよう。

うおお、緊張するぜぇぇぇ!

あの時のうみはねさんが見せてくれたマシンと比べても、パワソもローラーも負けてはいない!

きっと同じかそれ以上のタイムは出せるはずだ! 行けぇ!

ギュイィィィィ

ほっと「おおっ!?」

初速は流石に低トルクのモーターだけあってのんびりとしている。

しかし高回転型のモーターならば後半で伸びるはず!

少しずつ加速しながら走り抜ける。ホームストレートでは華麗な走りを...

ギュイィィィ...

おおぅ。微妙だ(汗

そのまま特に何も起きずにフィニッシュ。タイムは10秒99だった。

ぬ、ぬぬぬ。

開けポンレブに、ローラーの回らないマシンに負けている!

気合いを入れて組んだつもりだった。いや、むしろ速いんじゃね? と思っていた。

しかし、これが現実である。

なんという圧倒的実力差。完全敗北である。

くそぅ、どうしたら速くなるんだ!?

そうだ、スラスト変えてみるか? 他には無いか? バンパーの強度とか…

あれ、なんか楽しいぞ。

格ゲーのコンボとか、ぷよぷよの連鎖を練習している時の感覚に近い。

もしくはファイアーエムブレムやベルウィックサーガとかのリセットゲーにも似ている気がする。

こういう詰めていく作業って、けっこう好きだ。自然と顔がニヤけてしまう。

フッフッフ...やってやる。やってやるぞ。

俺は必ず、このレブ修行を乗り越えて奴を倒す!

目指すは平面速度の追求、そして打倒ヒロ!

今度こそ! 今度こそは勝ってやるぞぉぉぉ!!!


【 次 回 予 告 】

待ちに待ったヒロ達との対決、しかし直前になって季節外れのインフルエンザにかかってしまった!

日を改めたのは良いが、今度はどこもフラットコースばかりで立体勝負ができなくなっていた!

とはいえ凹んでばかりもいられない。フラットならフラットで、俺達なりに楽しく対決するとしよう。

そんな中、ヒロから告げられたお題は驚くべき内容だった!

次回、ミニ四駆に戻ってみた。

「素組み対決」

うおおお、やぁぁってやるぜ!

ほぼ毎夜10時頃~YouTubeにてゲームorミニ四駆の生配信を行っています!お気軽に遊びに来てください!https://www.youtube.com/channel/UC38sxZzD1yC-rTQzTaS7h5A