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今月のフクロウ 2024年12月のおすすめ書籍(本文一部公開)

『食料危機の経済学 虚構性と高度消費社会』

神門善久 著

世界人口の増加に伴い食料危機は本当にやってくるのか。まず、実証的な数値からその虚構性をあぶり出し、その裏腹にある地下資源の大量消費を背景とした飽食暖衣の高度消費社会の実際を経済学的に捉える。農と環境からの視点を通して、これまで培ってきた自然と人間の共存のあり方から現代社会の矛盾を見つめた警鐘の書。

【「第1章 虚構の食料危機 1節と穀物価格の長期変動グラフ」本文一部公開】


世界人口がこれからも増え続けているとして、世界的な食料不足の可能性が高まっていくという論調は、マスコミ(研究者を含む)が食料事情を解説するときの「定番中の定番」だ。そして、自国の食料生産量を増やし、食料自給率を上げることが必要という政策提言が続くことが多い。だが、長期統計を見れば食料の絶対量はありあまっていてしかもその傾向は弱まる気配がないことがわかる。本章では、食料危機論の虚構性を指摘し、その背後にある先進国の傲慢を描く。

1 穀物価格の推移

シカゴは世界最大の穀物市場で、ここの市況が世界の穀物需給を反映する。その推移を見たのが図1だ。上下振動を繰り返しながらも、第二次世界大戦後、一貫して低下基調にあったことがわかる。
とくに人類史上、もっとも人口増加率が高かった一九六〇年代に穀物価格が劇的に下がった。一九九〇年代になってようやく下げ止まるが、決して上昇基調に転じたわけではない。つまり、穀物需要の増加よりも穀物供給の増加が総じて大きかったと結論できる。これは、おなじみの食料危機説にまったく逆行する。
二〇二二年にウクライナ戦争が勃発すると食料危機論がますますにぎやかに喧伝されるようになった。しかし、ウクライナ戦争勃発直後の穀物価格のピーク時でも、前回のピーク時(二〇一二年)のレベルを超えていない。マスコミなどでは、あたかも前例のない食料価格上昇かのように報じられた
が、「一〇年ひと昔」の言葉があるように、人々の記憶は一〇年も続かないものだ。たしかに、値上げした食品はあるが、それも円安や人手不足による物流費高騰の影響もあることを忘れてはならない。


【目次】
序 悪魔の二者択一――エネルギー危機か?「生ける屍」か?
 第Ⅰ部 偽りの危機と真の危機
第1章 虚構の食料危機
 1 穀物価格の推移
 2 ウクライナ戦争に見る食料供給の根強さ
 3 農業に求められるのは増産ではなく縮小安定
第2章 途上国と地下資源の悲哀
 1 相対的貧困と絶対的貧困
 2 現代社会の化石資源依存
 3 食料自給率のカラ騒ぎ
第3章 食と農の基本問題
 1 魚と肉
 2 国産飼料の危うさ
 3 伝統農法、伝統食の重要性
 4 アンチ地産地消
 5 リーマンショックとコロナショックと農業ブーム
 6 有機栽培の虚像
 第Ⅱ部 消費中毒と経済成長
第4章 消費中毒仮説
 1 標準的な経済学における消費者像
 2 中毒と伝播
 3 AI開発の意味
第5章 産業革命と経済成長
 1 マルサスの『人口論』
 2 技術と技能
 3 産業革命に関する新知見
 4 疑似桃源郷
 5 消費者の責任
 第Ⅲ部 未来への旅立ち
第6章 識者のトリック
 1 大学教員の不誠実
 2 知識は思考の屍
 3 本の時代の終わり
第7章 農業と教育の再定義
 1 農業の再定義
 2 学校化社会の偏向
 3 教育と科学を見直す
引用文献
あとがき
事項索引
人名・組織名索引

2024年9月10日発売
税込2,970円
四六判/ハードカバー/242頁


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