バクラバと雨【Lycian way7】

すごい尿意で目覚めた。

外は小雨。

トイレに行かないとと思いつつ、億劫で外に出られない。

天気予報やルートを確認したりしながら、尿意を我慢する。

限界に達した頃、用を足しにテントを出た。

雨は降ったり止んだりしながらも、遠ざかる気配はない。

向こう一週間は、雨予報。

Patara beachは全長20kmにも及ぶ。

最低でも2,3日は村を通らないルートになりそうだった。

つまり、びしょ濡れになっても、宿に泊まれず、濡れたテントの中で、濡れたまま過ごさなければなくなる。

着替えのない私たちは、服を乾かすことさえできない。

歩くのを楽しめない…それだけは嫌だった。

楽しめないぐらいなら、少しお金を払ってでもコテージに泊まって、乾いた状態で次の日も歩きたい。

わたしは、困難を経験するために歩いてるわけではないのだ。

友人の提案で、ゴール地点のFethiyeまでバスで行き、その近郊の村から歩くことにした。

そうと決まると、バスに乗る支度をしなければならなかった。

さっきまで小降りだった雨は大降りに変わり、濡れながら砂まみれのテントを畳んだ。

何もかもが砂まみれだ。

昨日のドライバーの家に向かう。

少し歩くと雨は止み、レインジャケットのフードを外すと静けさに包まれた。

高台から青い大地を望む。

ドライバーの家には、大きなテラスがあった。

昨日の別れ際、

「早めに来て、ここで寛いでてね」

と言われていた。

チャイムを鳴らすか迷っていると、肌着のままのドライバーが出てきた。

「12時頃出発するから、それまでここで寛いでて。」

そう言って取り残された私達に、奥さんがチャイを出してくれた。

着替え終えたドライバーが向かいに座り、話していると、今度は豪勢な朝ごはんが出てきた。

オリーブの塩漬け、トルティーヤ、焼きパプリカ、卵焼き、トマト

自家製のオリーブが美味しすぎて、止まらなくなった。

私たちがオリーブを譲り合っていると、もっと食べなと追加で持ってきてくれた。

何日漬けたのか訊ねると、たった10日だけだと言う。

衝撃だった。

以前農家さんから買ったオリーブは2ヶ月以上漬けてあったのに、渋かった。

日本語や英語で調べたレシピも、最低半年以上漬けるレシピばかりだったのだ。

収穫後、実を軽く潰してから漬けること、塩水を毎日変えることがポイントだという。

お茶目で仲の良い夫婦だった。

昨日絞ったオリーブオイルを思い出し、披露した。

1日置いたので、紫色の粕と透き通った黄色い液体が二層に分離している。

「すごいじゃない、このまま食べられるよ!」

その言葉に救われた。

ふたりは、収穫したオレンジをお土産にくれた。

これから友人に届けるのだと、面白い形のオレンジばかりを集めていた。

12時をとっくに過ぎて、出発した。

Kinikという小さな町でドライバーに別れを告げ、Fethiye行きのバスに乗り変える。

Fethiyeは、庶民が集う大きな街だった。

お腹が空いていたら、きっと大好きな街になったであろう。

しかし、お腹は満たされていたので、街で唯一のミッション、バクラバハントに向かう。

中心街のスーパーCarrefourに、安くて美味しそうなバクラバ(26TRY/kg)が売っていた。

バクラバは贈答品であるため、高価なものが多く、35-60TRY/kgが相場だ。

トルコ最初の街Trabzonで食べたローストヘーゼルナッツ入りの高級バクラバに勝る味を探し求め、各町で食べ続けていた。

Carrefourのバクラバは、シロップ多めだが、ウォルナッツがたっぷり包まれていて美味しかった。

ちなみに、1ヶ月食べ続けて分かったことは、安い店のバクラバは、シロップが多目だ。

ただし、ナッツの量と値段は必ずしも比例しない。

最終日にイスタンブールで食べた高級バクラバが暫定一位だ。

脱線したが、バクラバハントを終えた後、バスで別の村に向かうことにした。

バス停で「東」と大きく書いたバックパックを背負う少年に出会う。

その彼女は道端で救助した鳥をバックに入れ、餌をやっていた。

彼らが向かうというOludenizという村に行くことを決め、バスに乗り込んだ。

Oludenizは山麓のリゾート地だった。

また休館中のリゾートホテルを巡り、改装中のホテルに泊まることにした。

レストランのキッチンを使わせてもらうよう、交渉した。

キッチンは、天国だ。

値段交渉をしている間、友人が砂砂テントを干してくれた。

ひとりじゃ、心が折れていただろう。

夕暮れ前に散歩に出かけた。

私は、海を見たかった。

海は、予想以上に遠かった。

5km坂をひたすら下り、リゾート地を抜けて辿り着いた。

静かな白砂の海には、数名の散歩客と釣り人がいた。

砂浜に座り、茜色の夕焼けを見た。

釣り人に、釣り糸と針を売ってくれないかと訊ねてみた。

言葉が通じず、釣り竿を貸してくれた。

釣りをしながら歩きたいと思っていたが、これ以上の交渉は諦めることにした。

陽が落ちると一気に暗くなり、不安になってヒッチハイクした。

乗せてくれたのは、先程声を掛けた釣り人だった。

砂浜に途中で摘んだハーブを忘れてきたことを思い出した。

wood sorreleという、日本であまり見かけないレモン風味のハーブだ。

ビタミンCが豊富だし、仄かな酸味がサンドイッチにぴったりだったのに…

残念な気持ちを抑え、宿に戻った。

キッチンでなにか作ろうと思っていたが、移動が長く疲れていた。

明日の朝食は豪華にしよう。














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