カリフラワーとマッシュポテト【Lycian way9】

朝、バルコニーのソファで目覚めた。

雨の夜は、やっぱり眠りが深い。

目の前には、Butterfly Valley。

昨日は雨で霞んで見えなかったが、深い渓谷の底であおい海が凪いでいる。

灰色の空に光が差していた。

部屋に戻ると、バックパックから靴まで、ほとんど乾いていた。

友人が、拾ったレモンでホットレモネードを作ってくれた。

砂糖を入れても入れても、甘さが足りない。

バルコニーで朝食をとっていると、目の前の渓谷にふたえの虹がかかった。

歩き始めると、足元は昨日の雨でぬかるんでいた。

杉林を歩いていると、ぽつぽつと雨が降り出した。

まだ、4kmぐらいしか歩いていないのに、すでに疲れている。

豪雨になるまでは時間を要さなかった。

大きな杉木の下で雨宿りをするも、立ち止まると身体が冷える。

引き続き歩いて、先を目指す。

休館中のコテージを見つけ、デッキで雨宿りしていると、オーナーがやってきた。

「チャイ飲む?」

そう言って、ハーブティーを淹れてくれた。

庭で採れたレモンバームとローズマリー。

震える私たちを前に、コテージのこだわりや、住込みボランティアを探している事など話し続ける。

彼の言葉は右から左に流れていく。

「良かったら、ハーブ摘んでいでいっていいよ。ゆっくりしてって。」と、部屋に戻ってしまった。

あまりの豪雨で、屋根付きのデッキでさえ横から雨が吹き付けてくる。

私の10ドルのレインジャケットは、首周りが浅いから首元から雨が入ってくる。

ランチを食べようにも、寒くて手がかじかむ。

「Kabakまであと10kmある。雨が止んだら歩けそうだけど、どうする?」

「この状態で歩いても楽しめない。それなら、お金を出してどこかに泊まりたい。」

"どこか"と言っても陸の孤島のようなリゾート地だ。

ここのコテージ以外選択肢はない。

オーナーに交渉するにも、雨が強すぎて身動きが取れない。

小雨になったタイミングで、玄関へまわり、ノックした。

本来、今日Kabakまで行き、食料を補充する予定だった。

もう、ジャガイモしかない。

この雨じゃ火を起こせないし、キッチンを使わせてもらうよう、交渉しなければならなかった。

150リラで泊めてもらえることになった。

しかし、キッチンは使えないという。

その代わり、魔法瓶に熱湯を淹れてくれるとのこと。

部屋に用意してくれた電気ストーブで暖を取る。

体中に血が巡って、じんじんする。

あたたまったところで、ロープを張ってすべてを乾かす。

インスタントのスープに、わずかなチーズとクミンをを入れて早目の夕食にした。

今日も、ホットシャワーは出なかった。

19時頃、ポットのお湯がなくなって、母屋に向かった。

試しに、ジャガイモを茹でてもらえないか聞いてみると

「じゃぁ、キッチンにおいで。」

と、キッチンに招かれ、オーナーがジャガイモを茹でてくれた。

「カリフラワーもいる?」

もちろんだ。

「オリーブの仕分けをしてもらえないかな?いつもボランティアにやってもらっているんだ」

と、頼まれたので、喜んで仕分けをする。

仕分けを始めると、止まらなくなった。

そうしているうちに、いい匂いがしてきたと思いきや、

「スープ作ったんだけど、一緒に食べないか」

と聞かれた。

レンズ豆のポタージュ(チョルバ)だった。

玉ねぎの甘みにレモンの酸味と胡椒が効いている。身体の芯からあたたまる。

オーナーは、トルコ北部の出身だった。

叔父さんがコテージを作ったから、宿運営のためにここに住むようになったそうだ。

「ここにいると、君たちみたいな旅人がたくさん来るんだ。楽しいんだろうと思って、試してみたけど僕には向かなかった。僕は、家で本を読んだり、トレーニングしたりする方が向いてるんだ」

と言った。

うらやましい。

私は、どっちも好きだから、困っているんだ。

好きな人やモノが多すぎて、見放されてしまいそうだ

そんなこと思いながら、マッシュポテトと茹でたカリフラワーを持って部屋に戻った。

明日こそ、晴れてくれることを祈ろう。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?