ロンドン生活154日目

※小津安二郎の『東京物語』の話をしますが、ネタバレが嫌な人は読まないで。

インド人の友達に薦められた小津の『東京物語』が気になりすぎて、先日YouTubeで見た。ワンシーンワンシーンが本当に美しく、さすがは世界の映画ランキングで上位になる作品だった。何でもないシーンが目に焼きついて、数日経った今もふっと頭に浮かんでくる。見る人の年齢によって、誰に感情移入するかも変わってくると、どこかのサイトに書いてあったが、私はずっと紀子を見てしまった。まあなんせとにかく美人なのでずっと見ちゃうというのはあるが(圧倒的な華と上品さ!)、紀子も28歳である。いつでも周りに気を配れて、誰のことも悪く言わず、静かに微笑んでいる。作品中ではただ一人、誰に対しても親切で愛情を持った人として描かれる。しかし一方で、どこか世界に冷めているような、誰に対しても本当には心を開いていないような、もの哀しさも湛えている。当時の日本社会における女性の立場やその苦悩に関しては、私の想像の及ばないところだ。しかし、20代後半の紀子の、自分を含めた世界から少し離れたところにいる感じ、それが故に器用に振る舞える自信と、その孤独さ。兄や姉たちの自分勝手さに怒る20代前半の京子に「私もあなたくらいの頃にはそう思っていた。でもだんだん自分の生活が一番大事になってくるの」と言ってたしなめる。両親のことを言っているが、今の私には人間関係全般のことに聞こえた。最後に「私はずるいんです」と言って思いを吐露するシーンがあるが、周吉に、

「ええんじゃよ、それで。やっぱりあんたはええ人じゃ。素直で。」

と言われ、泣き出してしまう。自分は素直ではない、冷たい人間だと言っているのに、それを全てわかった上で、「素直でいい人だ」と言われる。達観しているように見える紀子だったが、やはり周吉の方が何枚もうわてだった。

これを書いている間にも飛ばし飛ばし見ていたら、新しく気づくことがたくさんあった。何度も見たい作品だ。いつか年をとってみると、周吉やとみの目線でも見ることができるのだろうか。

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