ロンドン生活35〜40日目(オーストリア編)③

差別の話。

ウィーンでの最終日、朝からザッハ・トルテを食べ、国立図書館、美術史美術館、レオポルト美術館、最後に病理・解剖学博物館と、詰め込みスケジュールで回った。すごいペースで美術館や博物館を見て回り、頭も足も相当疲弊していた。すでに18時を過ぎていた。中心部で買い物をしたいということで、路面電車に乗る。

ドアが開いて入っていくと何かすえた匂いがする。気がつかなかったが、その時すでにそのおばさんはこちらを見ていたのだと思う。最後尾の広めの席に腰を下ろすと、前の方から声が聞こえる。おばさんが私たちに何か話しかけているが、ドイツ語で何を言っているのかわからない。「Sorry?」と聞き返すが、その時にはすでにその異様さに何となく気づいていた。おばさんは私たちを睨めつけながら、ぼそぼそと何かを言い続けている。呆気にとられてみていると、そのうち手で私たちをしっしっと払いながら、一つ前の席に移動してしまった。よく見ると、おばさんはスーパーのレジカゴを持っていて、そこに洗濯物か何かが入っており、匂い立っていた。やばい人だと思うと同時に、これは差別を受けているのだと気づいた。その間にもおばさんはこっちを見ながらぼそぼそ言い続け、最後に手で自分の目と顔を引っ張った。細い目と平たい顔、ということか。

このような露骨な悪意を持った差別をされるのがはじめてだったので、傷つくというよりは驚いた。(少し精神的におかしい感じの人だったので、単に誰にでも難癖をつけている中での、私たちに対する絡みだったのかもしれない。)

その日の夜、友人の趣味がジャズであるので、ジャズバーを探して行った。ジャズを聴きながらぼんやりとさっきのことを考えた。「でもさぁ、おばさん。この細い目と平たい顔は私の両親からもらったものなんですよ。私たちのことを何も知らないままに、ばかにして欲しくない。何も知らないままに出てくるあなたの呪いは、空っぽの呪いです!」と言いたかった。しかし同時に、差別というのは根本的に、父母、祖父母、曾祖父母から受け継がれた、民族というものすべてを受け入れないということ、一切の対話を拒否することを決める態度なのだ、とも感じた。

私たちは旅行者で、すぐにその土地を離れるため、なんてことなかったが、そこに住んでいる人で、日常の中で何度もこういうことがあるとすると、まいってしまうかもしれないな思った。


この経験は本当にたまたまだと思うし、オーストリアの人は基本的にみんな優しくて、街も綺麗で、旅行にめっちゃオススメです。てか日本人の旅行者すごく多かった。

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(シェーンブルン宮殿前)