ロンドン生活138日目

合気道の講習会に行ったこと。今通っているロンドン合気会にはイタリア出身の方も多いのだが、その方のお師匠さんがロンドンに来られ、講習会が行われるとのことで参加した。

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Dionino Giangrande師範は多田宏師範のお弟子さんで現在六段。多田先生といえば最近90歳の誕生日を迎えられたが今でも現役の合気道家であり、開祖植芝盛平翁の直弟子であり、生きる伝説であるということ以外、あまり詳しくは知らなかった。けれどもイタリアに合気道を普及させイタリア合気会を創始したのが多田先生その人だったのだ。多田先生の回想録を読めば(面白いので読んでほしい)、東京オリンピックがあった1964年(昭和39年)に、たった一人、片道のみの切符を持ち、たった250ドルだけを持ってイタリアに渡り、合気道普及に努めたという。クレイジーすぎる。現在世界中に合気道が広まっているのは(実際私がロンドンで合気道ができるのも)こうした先人たちの努力の結晶だったのである。

多田先生の話が長くなったが(まだまだ語るべきことはあるのだが)、弟子であるDionino先生もとても素晴らしい方だった。技をうまくやろう、相手を倒そうということではなく、何よりも稽古を楽しもうという姿勢に感銘を受けた。90歳の多田先生の演武を見ると、どうしてもスピリチュアルな趣が強すぎるのだが(今年の全日本合気道演武大会の動画)、Dionino先生の技はその精神性と技としての実用性のバランスが取れていたこともよかった点だ。

終始強調されていたのは、空間と身体に対する意識である。準備体操で、挙げた手をゆっくりと息をはきながら下ろしていく動きの中で、指先から腕、肩、胸、腰、お尻、足、そして足の先まで意識を順に移していく。そして自分の身体が今この道場の空間を占めていることを意識する。技の中でも同じ。まずは自分の身体への意識、そしてそれが木剣や杖にも移り、最終的に相手の身体にも拡張される。どこまでが自分の身体であり、どこまでの空間を占めているのか。「空間を使いなさい。空間はあなたに開いていて、いつでもフレンドリーである」とDionino先生は言っていた。小さく縮こまった技は効かない。「手を伸ばす時は相手に向かってではない。遠くの山に向かって伸ばすのだ」とも言われた(これはかつて和歌山の道場でも言われた)。そのイメージだけで、実際に技が見違えるので、不思議なものだ。

ところでさっき、寝る前にHeadspaceというアプリで、瞑想(あるいはマインドフルネス)というものをやった。すると、同じことを言うので驚いた。


「自分の身体と呼吸を意識しなさい」


そうか、これは合気道でもあるのだ。心を落ち着けて寝ようとしたのだが、「ピキーン、閃いたぞ」というわけで、物事が繋がったことに興奮し、眠気が覚めてしまった。

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(講習会の場所。古い倉庫を改装して作った道場で、モダンと伝統が溶け合う面白い場所だった。壁の丸い窓と天井にも窓があり光が差し込む。またわざと残してあるのか天井の構造と照明がオシャレだった。)