『彗星』第四号の感想

画像ツイートもはばかられるほど長くなったのでnoteで。ネタバレを含んでいるかわからないけど、モノ読んでないのに感想見るの意味わかんないから読んでから来てね


【短歌】

また香る花/ カラカラ亭

 一つのでっかい、でっかい球体を感じる。それは(カラカラ亭が見た)オグリキャップとタマモクロスが共に暮らす世界(というか世間)で、その球体をいろんな角度から眺めることで、その全体を捉える取り組み、そのレンズとして短歌がある感覚。
 あまりにも球体がでかいし、短歌はどうしても詳細を捉えるレンズとしては不便なところもある(それは悪いことではない。万華鏡は真実を見せてくれないけど、きれいなので親しまれている)ので、どうしてもすべてを明確に把握することはできない。しかし、探索の末に彼が見た確かな景色が、11首めなんだろう。11首という、かすかに違和感のある数は10個のレンズと1つの景色なんじゃないかなと思います。
 いい短歌を詠みましたね!いつもの通り詩情をたっぷり含みながらも、確かに目標をもって放たれている。それでいて大切なところはこちらに託してくれるんだから優しい。俺は全部言っちゃうから……
 ところで、八朔の花言葉は「清純」とか「純潔」とかいうらしいですが、それを踏まえて当該の歌をとらえるとやっばい。クリティカルかよ。

64度の灼熱を/ von

 あ~vonの短歌浴びた~サイコ~。そう思わん?思うよな。
 彼の短歌の良さ言いますね、それは「モチーフが持つ熱量を、彼自身が持つ情熱と共に加速させながら、一切冷めることなく短歌に乗って届く」ことなんですけど、それがもうどっかんどっかん。おそらくそれは、彼自身の言葉が持つリズム感へ対する鋭い嗅覚から来るのでしょうが。見た瞬間に破裂して鮮やかに目の前を彩る花火みたいな短歌を詠んでくれました。しみこむ純水のようなカラカラ亭の短歌とはかなり対照的です。どっちも最高。
 とはいえ、今回は勢いのいい歌だけでなく、しっとりした静かな短歌も織り交ぜてきました。そういうのもできんのかよ。さすがだよな……(でもオラも負けないが?)
 史実の時系列順に並んでいるから、ゴールドシップがトリを務めているんだけど、連作のトリとしてはかなり奔放。だけど、この奔放さが逆にマッチしているのは彼の「灼熱」がゆえだろう。
 あと、これはたぶん彼の思惑にはなかったことだけど、2023年の宝塚記念が第64回、つまり宝塚記念の歴史から取られたこのタイトルは、『彗星』のもつ季刊という性質をより強調していると思います。まるでくさびを打つような。

【小説】

私の好きな味/ tako

まず、メジロラモーヌを主体に置くという選択がすごい。だってよくわからないじゃん、あの人……。しかし、わからないからこそ、そこへ踏み込んでいく姿勢は素晴らしいものだと思います。それに、ある程度の自由が担保されるしね。公式がまだ言ってねえんだからわからんじゃろがい。
メジロラモーヌさんは、数少ない公式からの出番のいずれでも、その高貴な奔放さを発揮しながらも発揮していますが、その中にも家族愛があってくれたらという願いを感じました。わかるぜ……
 彼女も、産まれた瞬間からターフに魅入られていたわけではないでしょうし(そうだとしても面白いけど)、かつては純粋な幼子だったんだと思います。今の彼女が、そのころの心を持っていてくれたらなんか嬉しいですね、なんか。

星の傷跡/キャロパン

 詩!?詩~!!となりました。詩歌の民ゆえ。
 冗談でなく、文中の語彙とか、時折入る(物語の始まりがいい例の)独立させた文とか、全体的に詩めいたものを感じながら読みました。モチーフへの比喩が物語の中で大きな存在感を放っているのも、詩らしいのかも。
 ダイイチルビーは、その育成ストーリーでは凛とした振る舞いをほとんど崩すことはありませんでしたが、その過程で彼女が揺らぐ数少ないシーンがクラシック期の夏でした。そこを切り取って書いてくれてありがとうございます。
 ダイイチルビーをもってないから分からん、の方はさっさと交換しなさい、ほらチケット付きの課金ジュエルあるでしょ。

郷里/ Ten-Goo

 流石というほかない、本当に。感謝。ありがとうございます。
 夏って……なんかあるよね。いわゆる夏の魔物と言われるようなやつと、それの仲間たち。その正体は、幼少期への郷愁か、あまりの暑さからの逃避か、もしくは本当に夏が魔物であるのか。わからないけど、そういった「なんだか心にのこるもやもや」と「夏のカラッとした空気」、「カラッとしたウマ娘であるカツラギエース」があわさって、不思議な雰囲気を形成しています。
 『姉ちゃん』が切なすぎる。切なすぎるし、その切なさを描き出すのが、こう……上手い、んだけど、上手いという言葉だと少し違う気がしていて、イメージとしては「言葉が透き通っているから、その先にある景色がクリアに見える」感じ。読者への信頼があると思います。ありがとうございます2。
 というか、てんぐさんの作品に出てくるオリジナルキャラクターがめちゃくちゃ好きなんです。最推しはナイトスターの彼女……(思い出してしんみりしている)

Sinfonia Concertante/ 蒼豆 宮中伯

 全開じゃないか!またすごいものを出してきたな!?
 私が思う彼の作品の良さ、持ち味は「歴史への造詣の深さ」、「クラシックへの理解」、「詩的で純文学的な表現」だが、そのどれもがフルパワーかつ心地よいバランスで発揮されているし、さらに「現代競馬、現代競馬が形作られるまでの歴史(イコールでウマ娘プロジェクトそのものを指すかもしれない)」もスパイスにしているってんだからたまらない。間違いなく、彼の史上最高傑作だ。楽器とか歴史書食べて過ごしていないとかけないだろこれ。
 マジですごいよ。「成った」、そう思ってしまった。でも、負けてらんないよね。がんばるぞ~!

I can not win/ LoliPopCandy

 シャカールさんとParcaeの話、いいですよね。想像のし甲斐がある。
 読みながら、書きたいことがたくさんあるんだ!という叫びを感じました。シャカールの再起、ウララとの対比(悲観と楽観)、Parcaeの不可思議な挙動は何を暗示するのか、ウマソウル……(ウマソウルって最初に言ったやつ誰だ?)
 そういったものをギュっと……詰め込んで……ちょっとはみ出てしまったので泣く泣く削りました、みたいな感じ。ウララとシャカールの相性の良さも意外なところでした。
 というか、フライトさん出てきてるじゃん!そういうのもアリなんだね。

自由をあなたに/ オロー

 えっ
 ちょっ
 すごすぎませんか すごすぎませんかこれ やば
 ずっと、ずっとすごかった やば ちょ え やばい こんなの読んでいいんですか、同人誌で すごすぎ
 というか、本当に?本当に他の作品と同じ分量?これだけ文字数10倍とかじゃない?リアルにそんな感覚を抱いてしまうくらい重厚。物語の厚みがすごい。もはや伝説だ、これは。何を言っても、この作品の良さを言葉では伝わらない、伝えきれないと思います。マジで……。なので、もう何も言えません。
お願いします。ハードカバーで7巻(6巻だけ上下巻ある)ください。アニメ映画(117分)もください。

お腹いっぱいの笑顔で/ みみハムこころ

 フラウンスにヒシミラクル、共存できるの!?という思いを以前(参加者向けのDiscordサーバー)から抱いていたのですが、合うんですね。とはいえそこに苦労があったのは間違いないと思います。自分がヒシミラクル未育成なもんで、わかってないだけかもだけど。育成ストーリーで絡みがあったら俺を嘲笑してください。
 フラウンスのふたり、その関係性が持つ特有の雰囲気ってありますよね。そんな雰囲気がじんわりと味わえるようなお話でした。語彙のチョイスなのかな、全体的にフカフカしてるイメージ。陽だまりの中で焼き立てのパンを食べたみたいな気分です。やったことないけど。

グッドラック、ボーイ/ rore

 いい読後感だった!これに尽きる。夏の終わり、『彗星』の締めがこの作品で本当に良かったと思います。
 メタ的な話、作品を作るうえで誰の話にしようとか、どういう話にしようとかを考えることになりますが、グラスワンダーを、今回の話のように描くという決断までどんなプロセスがあったのかめちゃくちゃ気になる。一見すると「なんでグラスワンダー?」ともなるけど、読み終わると確かにグラスじゃないとダメな気がしているからすごい。小説家としての腕に殴られている。
 二号の『対岸の女』とはかなり違ったテイストでしたね。夏らしいさわやかな感じと、夏にありがちな、こもった空気の嫌な感じ。別にテーマ作品ではないし、なんならさくちゅうの時期的にも全然夏ではないんだけど、自分が夏をかなり意識した短歌で参加したこともあってか、夏を感じた。それで、読み終わると同時に夏が終わった感じもした。『彗星』は夏でした。

まとめ

 記事病だから、まとめないと終われない感じになっちゃってる。
 といってもなんか言うことはないです。自分の作品の解説~とかする気ないし、そもそも作品に全部おいてきた。
 じゃあ第四号全体の総括、だなんて、それは第五号になってはじめてわかるのかも、と思ってます。
 というわけで、またがんばろーね。

南の柳

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