ふきだしがかり(3)
昨日、翻訳者のFrank Dowdさんと後編の英訳打ち合わせを済ませました。
台詞を転記したエクセルファイルをOnedriveで共有してSkypeで話し合いながら二人で同時に編集をかけていきます。
転記するときに誤解が起きそうな部分は注釈をつけているため、誤訳のチェックよりも限られたスペースで言いたいことを伝えるために細部をどう詰めるかというところに手間をかけてます。
細かいとこだと「古い種籾」が「old rice」と訳されてるのを種子の意味を強調したいからseedsをつけるとか。
(注釈の例:「何で」は字面だけ追うと「なにで」にも「なんで」にもとれるので、「ここはwhyです」といった感じ。あとはその瞬間の台詞に出てこない背景情報で重要なものとか)
機械やソフトウエアのユーザーインターフェースに表示する日英両方の文言を作る普段の仕事の延長線で進めていけるところが多いのですが、マンガの台詞は普段扱っている文章よりも「主語がなくても成立する」「動詞や代名詞が数/性別の影響を受けない」という日本語の特徴が強く出るので、その辺を曖昧に出来ない英語にするときに、翻訳者さんと考え込むことが多いです。
ただ、裏を返すと一旦英語にして、曖昧な部分をなくしておくと、他の言語にも翻訳しやすいということでもあります。
因みに普段の仕事で多言語展開するときは英語を基準言語にして、各国語翻訳者からの質問は英語で対応してます。「日本語が分かる外国語翻訳者」より「英語が分かる外国語翻訳者」のほうが圧倒的に多いのが理由です。
このプロジェクトで多言語展開するときの方法はまだ全部決まってませんが、個人的には日本語が分かる外国語翻訳者がどうしても見つからない言語は英語からの翻訳でもいいと思ってます。
昨日の作業に話を戻すとFrankさんは私に確認したい部分の訳を赤字で書きます。
赤字の理由が「事実の確認をしたい」である場合は話が早いのですが、「この訳であなたのいいたいこと上手く伝えられてる?」という話だと、二人でどう表現するのがよいかと頭を使うことになります。どちらの場合も何を伝えたいかを一番よく知っているのは原作者なので、原作者が翻訳者と話し合うのが一番よいです。重要な部分ほど「伝えたいこと」のエッセンスを共有する必要がありますし、それができていれば日本語の訳に忠実でなくても、ネイティブの人が違和感を感じない訳である事を重視したいです。
今回のハイライトの一つが「あの人の****」をどう訳すか。
複数だったらtheirで一発なのですが、単数ですからher。しかしFrankさんは女性A、Bの二人のうち、誤った方を想起させちゃうのが心配。
原作者として原点に戻ると、個人名を使えばいいところを「あの人」とぼかすのは、話者が対象者に対して歪んだ執着を持っている表現なので、そのねっとり感が伝わればよいわけです。二コマ後にその人が誰かも明示されるので伏線として引っ張る必要もない。
で、英語では「あの人」とぼかして対象から距離を置くのではなく、「個人名は使わないが、個人が特定できる表現」でギリギリ対象に寄せることにしました。
(どう訳したかを書くとネタバレになるのでごめんなさい)
室内にカメラを仕込んで遠くから盗撮するか、人間椅子の中身になるかの違いですが、歪み方としてはどっちもどっちでしょうと言うことで。
もう一つのハイライトは「長い手紙の表現」
日本語版では、手紙であることが分かる絵がある為「」をつけて表していますが、英語だと「敬具」にあたる〆 の言葉を入れた方が手紙であることを強調できる。
なので、Frankさんの原文に即した訳を見直して、まずは文の順番を変えた上で重複する部分をけずり、画面上でのスペースにあわせて短くしてから、〆の言葉、Sincerelyを入れることにしました。
個人的にはSincerely yoursにしたかったのですが、枝葉の部分ですので翻訳者さんの意見優先で。
ストーリーの流れを追うだけだったら、機械翻訳でもよいのかな…とも思ってましたが、こういう創作物の場合「あえて言葉にしない箇所」や「画に描かれているので省略されている箇所」が結構あるので、そこは書いた本人と翻訳者さんが人の手を使って訳すべきだな…と感じています。
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