拍手の前の静けさ

バレエの舞台で、拍手をするのを待ちたいときがある。

しん という静けさや、ややはりつめた空気を、ごくりと味わいたいとき。


たとえばそれは、ダンサーが大技を決めた直後。キチッと最後まで決めるまで、息を飲んで見つめる。そして大技が決まったあと、一拍、劇場全体が静けさに包まれ、その直後にわーーーー!!っという大歓声、大拍手が沸き起こる。


しかし、客層がちがうと、この一拍はない。客の多くがダンサーの身内である場合、拍手する回数も多く、拍手にあまりメリハリがない。


静けさがあって初めて、拍手は映える。


また、別の静けさもある。

女性のフェッテ(大技)が終わったあと、男性のターンに入る直前、オーケストラが、拍手が鳴り止むのを待つ間。

女性に対する大きな拍手が、だんだんと静かになっていく。次の男性への期待を込めて、みんな息を飲むのだと思う。


この、劇場全体が静けさを作るために待つ感じが、とても好きだ。

鳥肌が立つ。

客とダンサーと音楽と明かりと美術と、すべてが一体となるのは、たぶん、静けさを自ずと作れたときなのだと思う。

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