小説:風船インフィニティ 103-01
彼女は、追いつけるか追いつけないかのスピードで僕の前を走っている。
彼女はとある建物に入っていった。
僕が、諦めて警察署に向かおうとすると。
僕の、横の窓が勢いよく空いた。
窓枠の中に、彼女がいる。
「あ、これ。落とし物です」
彼女は、目を丸くして、こちらを見つめていた。
「目の前で、落とされたんで。追いつけるかなと思ったんですが、なかなか距離が縮まらなくて」
「...ありがとうございます!すごい汗。仕事に遅刻しそうで、すごく急いでたので...時間あれば、何か飲みものでも」
確かにすごい汗だ。彼女の言葉に甘えることにした。
彼女に案内された場所は、真っ白い空間に、ロッキングチェアが一脚。そして、たくさんの風船が浮かんでいる不思議な場所だった。
「へんな場所でしょ。私の職場なの。
朝から夕方まで、風船を膨らます。それが私の仕事なの。大変、時間だわ」
彼女は、そう言うと、白い風船を膨らませはじめた。
「吹子っていうの。今はなかなか見かける事はないかしら。昔は、火を大きくするために使ったりしたのよ」
ロッキングチェアに座りながら、その揺れを器用に利用して、吹子が膨らんだり萎んだり。そして白い風船は、大きくなっていく。
「これが、限界ね。よし。」
風船の先を手際よく結び、部屋の中に浮かべた。少しだけ寂しそうに感じた。風船を見上げた先の時計に気づき、自分の時間を忘れている事に気づく。