ベクトルが得意になるには その2 231104
前回記事にしたように、ベクトルのよさは点の位置関係を相対的に表現できることにあります。
3点が同一直線上にあること、4点が同一平面上にあることについて、前回書きました。今回は2直線のなす角について書きます。まず、内積についてある程度説明しますので、それはいいよという人は問題に飛んでもいいと思います。
内積概説
平行でない2直線の交点をOとします。一つの直線上にOでない点Aをとって、もう一つの直線上にOでない点Bをとります。角AOBを $${\theta}$$ としますが、$${\theta}$$ は鋭角のときもあれば、鈍角のときもあるでしょう。
Bから直線OA に垂線BH を下ろします。$${\overrightarrow{\rm OH}}$$を$${\overrightarrow{\rm OB}}$$ のOAへの正射影ベクトルと呼ぶことにします。
このとき 積 OA・OH を2つのベクトル $${\overrightarrow{\rm OA}}$$, $${\overrightarrow{\rm OB}}$$ の内積といい、$${\overrightarrow{\rm OA}\cdot\overrightarrow{\rm OB}}$$と書くことにします。$${\theta}$$が鈍角のとき、負の値をとると定義します。すなわち、
$${\overrightarrow{\rm OA}\cdot\overrightarrow{\rm OB}={\rm OA}\cdot{\rm OB}\cos\theta}$$ です。この・(ポチ)は大事で、私は "vector OA dot vector OB" と読むことにしています。この値は、Aから直線 OBに垂線を下ろしても同じ値になります。
ちなみに、積 OA・BH は三角形OABの面積の2倍ですね。直角三角形OBHにおいて、ピタゴラスの三平方の定理 $${{\rm OB}^2={\rm OH}^2+{\rm BH}^2}$$ (三角比の相互関係 $${\sin^2\theta+\cos^2\theta=1}$$ といってもいいです。)からわかるように、面積と内積とは表裏一体のものです。ちゃんというと、三角形OAB の面積は $${\dfrac{1}{2}\sqrt{({\rm OA}\cdot{\rm OB})^2-(\overrightarrow{\rm OA}\cdot\overrightarrow{\rm OB})^2}}$$
ベクトルは平行移動して一致するものは等しいとしています。一般に、2つのベクトル$${\vec{a}}$$, $${\vec{b}}$$に対して、$${\vec{a}=\overrightarrow{\rm OA}}$$, $${\vec{b}=\overrightarrow{\rm OB}}$$ となる3点O, A, Bをとって、内積$${\vec{a}\cdot\vec{b}}$$ を定義することができます。$${\vec{a}}$$ または $${\vec{b}}$$が零ベクトルのときは内積は0とします。
ともに零ベクトルでないとき、$${\theta}$$ のことを2つのベクトル$${\vec{a}}$$, $${\vec{b}}$$ のなす角といいます。3点が一直線上にあったときは、O, A, B または O, B, A の順なら$${\theta=0^\circ}$$, A, O, BまたはB, O, A の順なら$${\theta=180^\circ}$$ とします。
そして、ともに零ベクトルでないとき、$${\theta=90^\circ}$$と内積が0であることは同値です。
記号 $${|\vec{a}|}$$ はベクトル$${\vec{a}}$$ の大きさで $${\vec{a}}$$の長さのことです。$${\vec{a}\cdot\vec{b}=|\vec{a}|~|\vec{b}|\cos\theta}$$ と表すことができます。内積によって、ベクトルに計量を入れたことになります。
$${\vec{a}\cdot\vec{a}=|\vec{a}|^2}$$ は結構重要なことです。
また、$${-1\leqq\cos\theta\leqq 1}$$ですから、$${-|\vec{a}|~|\vec{b}|\leqq\vec{a}\cdot\vec{b}\leqq|\vec{a}|~|\vec{b}|}$$ はコーシー・シュワルツの不等式の一つです。
また、内積は
交換法則 $${\vec{a}\cdot\vec{b}=\vec{b}\cdot\vec{a}}$$
結合法則 $${\vec{a}\cdot(\vec{b}+\vec{c})=\vec{a}\cdot\vec{b}+\vec{a}\cdot\vec{c}}$$
が成り立ちます。これも大切な性質です。
問題を解いてみましょう
2点P, Qは平面上の原点Oを中心とする半径1の円周上を動くとします。
$${\vec{p}=\overrightarrow{\rm OP}}$$, $${\vec{q}=\overrightarrow{\rm OQ}}$$, A(1, 0), B(0, 1) とします。
$${\vec{p}+\vec{q}=\overrightarrow{\rm OR}}$$である点Rが直線AB上にあるようにP, Qが動くとき、$${\vec{p}\cdot\vec{q}}$$のとりうる値の範囲を求めてみましょう。
$${|\vec{p}|=|\vec{q}|=1}$$ ですから、コーシー・シュワルツの不等式によって、$${-1\leqq \vec{p}\cdot\vec{q}\leqq 1}$$ が成り立ちます。これは必要条件のようなものです。この外の値は決してとらないということで、最大値・最小値を求めたことにはなりません。$${\vec{p}\cdot\vec{q}=1}$$ となるのは、この場合$${\vec{p}=\vec{q}}$$ ですから、Rが条件を満たすように$${\vec{p}}$$, $${\vec{q}}$$ がとれるかどうかみてみなければなりません。$${\vec{p}\cdot\vec{q}=-1}$$ となるのは、この場合$${\vec{p}=-\vec{q}}$$ ですから、$${\vec{p}+\vec{q}=\vec{0}}$$ となって、Rが条件を満たすようにはとれませんから, -1 は最小値ではありません。
$${\vec{p}=\vec{q}}$$ かつ Rが条件を満たすように$${\vec{p}}$$, $${\vec{q}}$$ がとれるかどうかみてみましょう。
$${\vec{p}=(x_1,y_1)}$$ とおきます。$${\vec{\rm OR}=(2x_1,2y_1)}$$ です。直線AB の方程式は$${x+y=1}$$ですから、$${x_1}$$, $${y_1}$$ は $${{x_1}^2+{y_1}^2=1}$$ かつ $${x_1+y_1=\frac{1}{2}}$$ を満たします。$${x_1}$$, $${y_1}$$ は $${t}$$ についての二次方程式 $${t^2-\frac{1}{2}t-\frac{3}{8}=0}$$ の実数解です。
したがって、実数$${x_1}$$, $${y_1}$$、条件を満たす $${\vec{p}}$$, $${\vec{q}}$$ は存在します。すなわち、$${\vec{p}\cdot\vec{q}}$$ の最大値は 1 であることがいえました。
最小値を求めてみます。
$${|\vec{p}|=|\vec{q}|=1}$$, $${|\vec{p}+\vec{q}|^2=|\vec{p}|^2+|\vec{q}|^2+2\vec{p}\cdot\vec{q}}$$ ですから、$${|\vec{p}+\vec{q}|^2=2(1+\vec{p}\cdot\vec{q})}$$ これは、RがAB上の点であって、$${\vec{p}\cdot\vec{q}}$$ が最小となるのは、OR の長さが最小となる 点$${{\rm R}_2~(\frac{1}{2}, \frac{1}{2})}$$ ではないかということを示唆しています。
あとは、$${\vec{p}}$$, $${\vec{q}}$$ が存在するかということです。
先ほどの二次方程式 $${t^2-\frac{1}{2}t-\frac{3}{8}=0}$$ に注目しましょう。この解を$${\alpha}$$, $${\beta}$$ とすると、$${\alpha^2+\beta^2=1}$$ かつ $${\alpha+\beta=\frac{1}{2}}$$ でした。
$${\vec{p}=(\alpha,\beta)}$$, $${\vec{q}=(\beta,\alpha)}$$ とおけば、P, Q は円周上の点で かつ $${\vec{p}+\vec{q}=(\frac{1}{2},\frac{1}{2})}$$ ですから、これは条件を満たす $${\vec{p}}$$, $${\vec{q}}$$ です。
したがって、最小値は $${-\frac{3}{4}}$$ です。
内積のとりうる値の範囲は、$${-\frac{3}{4}\leqq\vec{p}\cdot\vec{q}\leqq 1}$$