複素数平面が得意になるには 231117
複素数平面では、ベクトルと同じように、図形の様子を数式で表現して計算で処理をすることができます。これを意識すると複素数平面が得意になります。実際の問題を考えながらコツを学んでいきましょう。
複素数平面上に2点 A(1), B$${(\sqrt{3}i)}$$ があります。ただし、$${i}$$ は虚数単位とします。複素数 z に対して、$${w=\dfrac{3}{z}}$$ で表される点 w を考えます。点 w と原点を結んでできる線分 L を考えます。点 z が線分AB上を動くとき線分 L が通過する範囲を調べてみましょう。(2023 早稲田大)
複素数平面は、点と1つの複素数を同一視します。
まず z が 1, $${\dfrac{1+\sqrt{3}i}{2}}$$, $${\sqrt{3}i}$$ のときの w をそれぞれ求めてみよう、と誘導がついています。この3つの数を $${z_1}$$, $${z_2}$$, $${z_3}$$、対応する w を $${w_1}$$, $${w_2}$$, $${w_3}$$としましょう。$${z_2}$$ は有名な虚数です。偏角が有名角だからです。(いつのころからか、三角定規に現れる鋭角を有名角と呼ぶ人が多いです。三角定規は正方形、正三角形の半分ですね。) 3つの w はほぼ暗算で求めることができます。$${w_2=3(\cos\frac{-\pi}{3}+i\sin\frac{-\pi}{3})}$$ 共役を使って分母を実数化してもいいです。$${w_2=\dfrac{3}{z_2}=3\bar{z_2}}$$
また、$${z_2}$$ は線分AB の中点です。点 w の軌跡はつながっているはずなので、軌跡は 3点$${w_1}$$, $${w_2}$$, $${w_3}$$ を通る曲線です。たぶん。
次なる誘導があります。
実数 t に対し $${z=(1-t)+t\sqrt{3}i}$$…① としましょう。$${\alpha=\dfrac{3-\sqrt{3}i}{2}}$$ について、$${\alpha z}$$ に実部を求めてください。さらに、$${(w-\alpha)\overline{(w-\alpha)}}$$ を求めてください。
式① の意味するところは何でしょうか。「ベクトル」のよさの一つは、位置ベクトルの考えを通して「点の計算」ができることにあります。それに気付いていると①は 複素数平面で、z が直線AB 上の点であることを意味しているとわかるでしょう。$${0\leqq t\leqq 1}$$ なら 線分AB です。
また、$${\alpha}$$ は 点$${w_1}$$ と $${w_3}$$ を両端とする線分の中点です。$${\alpha z}$$ はちょっとした計算です。$${\alpha z=\dfrac{3+\sqrt{3}(4t-1)i}{2}}$$ 実部は t に依らず一定です。
見方を変えると、① で $${t=-\dfrac{1}{2}}$$ とすると、$${\alpha}$$ が出てきます。
複素数 z に対して $${|z|^2=z \bar{z}}$$ は大切な式です。ベクトルの内積にも似た式 $${|\vec{a}|^2=\vec{a}\cdot\vec{a}}$$がありましたね。長さの概念を一般化したものはノルムと呼ばれています。複素数平面では自然に線分を考えることができて、ピタゴラスの三平方の定理から自然に長さを考えることができます。それが数とその共役の積で表されるのは複素数平面の面白さの一つです。
つまり、 $${(w-\alpha)\overline{(w-\alpha)}=|w-\alpha|^2}$$
そして、 $${|w-\alpha|^2=\dfrac{|3-\alpha z|^2}{|z|^2}}$$
$${|3-\alpha z|^2=3(4t^2-2t+1)}$$, $${|z|^2=4t^2-2t+1}$$ ですから、
$${(w-\alpha)\overline{(w-\alpha)}=3}$$, $${|w-\alpha|=\sqrt{3}}$$ です。
したがって、w の軌跡は $${\alpha}$$ を中心とする半径 $${\sqrt{3}}$$ の円周のうち $${w_2}$$ を通る $${w_1}$$, $${w_3}$$ を結んだ弧です。
ちゃんというと $${zw=3}$$ ですから、z と w の偏角の和は 0 です。線分AB 上の点を表す複素数の偏角は 0 以上 $${\frac{\pi}{2}}$$ 以下であることに注意すれば、w の偏角は $${-\frac{\pi}{2}}$$ 以上 0 以下であることが分かります。
積の絶対値が、絶対値の積になるのは何となく自然ですが、積の偏角が、偏角の和になるのはとても不思議で、そこに三角関数の加法定理がかかわってくるというのは数学の奥深さを感じます。