せんべいが攻めてきたぞ!

せんべいが攻めてきた。

東京上空を覆う巨大な円盤。いや巨大な海苔せんべいが現れたのは5月31日の夕方のことであった。巨大な影を作りながら醤油のいい香りに包まれた東京。多くの人々は空を見上げて困惑していた。

立ち並ぶ摩天楼。日本有数のビルの立ち並ぶ大都会の人々は皆一斉に空を見上げている。人々はスマートフォンを空に掲げてぱしゃぱしゃと写真を撮り、国会では海苔せんべいの対策が急ピッチで進められていた。

なんの目的で海苔せんべいが上空にあるのか誰にもわからない。航空自衛隊からスクランブル発信したF15戦闘機がその周りを編隊を組んで周回しているが一向に海苔せんべいは動きを見せなかった。

日本国民は唖然とした。空に浮かぶ円盤状のお菓子を見ながら呆けているといっていいだろう。この日に日本中の和菓子屋でせんべいが飛ぶように売れて、せんべいを販売する会社の株価が急上昇した。テレビはずっとせんべいを中継し、SNSは海苔せんべいのことでもちきりであった。

「落ちてきてないか?」

見物していた一人の男がふと言った。東京を覆うせんべいはだんだんと高度を落としていることに気が付いたのだ。だんだんと時間がたつにつれて高度を下げるせんべいに気が付く人々が多くなり、騒ぎは大きくなっていく。

内閣では緊急の対策が協議された。総理大臣や防衛大臣などの主要人物が真剣にせんべいの対策について協議をしている。撃ち落とすべきという案もでたが、その場合せんべいの残骸により東京が滅ぶ可能性がある。

騒ぎは大きくなり東京から逃げ出すものが多くなっていった。せんべいはその間も降下を続けていた。スカイツリーに突き刺さりばりばりと音を立ててせんべいの一部が割れた。その巨大な破片が街に落ちて地面を割った。その衝撃で震度2の地震が起こった。

人類はなすすべもない。海苔せんべいに手を出すことはできなかった。アメリカによる核攻撃も示唆されたが海苔せんべいに核攻撃しても破片が飛び散るだけで東京が滅ぶことになる。

そもそもこの海苔せんべいはどこから来たのか。だれが作ったのかということがSNSで議論されたが決着を見なかった。それでも時間は刻一刻と過ぎていき東京は海苔せんべいにプレスされることになった。

人々は絶望した。阿鼻叫喚の中。醤油の香りが街を覆った。

政府は無力であり数百万人を非難させることは実質的に不可能だった。

天は海苔の黒さに覆われ、そしてせんべいの地肌が迫ってくる。

その時であった。海苔せんべいの上に広がった雨雲から雨が降り始めた。豪雨といっていいそれはせんべいをふやかしてどろどろに溶かしていった。落ちてきたせんべいはビルにへばりつき海苔を張り付けているが固さを失っていった。

東京はふやけたせんべいがへばりついた状態になったが被害はかなり小さくなった。人々は喜び。そして祝った。

街中では人々が抱き合って喜んだ。だから最初は誰も気が付かなかったが街頭のテレビにそれはうつった。

『ここで臨時ニュースをお伝えします。せんべいです! ニューヨーク……ロンドン、北京……世界中の主要都市の巨大なせんべいが現れました!』

そして日本を救った雨雲の上にも大きなせんべい(きなこつき) が現れていた。

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