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電車と赤ちゃんと泣き声

11月最初の土曜日

夜の始まる少し前の時間。都心から郊外へ向かう快速電車の中で、子どものむずかる声がした。眠いのにうまく眠れずに泣き出した声が車内に広がった。

パパからママにだっこが変わり、ママが立ち上がってドア付近でユラユラしたりトントンしたり。それでも、泣き止む気配がない。きっと、ママは汗だくだろうなぁ。

あの時のことを思い出した。

もう20年近く前のこと。

あの日は、まだ1歳だった息子と2人で外出した帰りだった。平日の午後、ラッシュ前の始発駅で電車に乗り込んだときはご機嫌だった息子。お昼寝もしていたし、おなかも空いていなかったし、おむつも替えたばかり。準備は万全だったはず。電車の中で泣かれるのが嫌だった。なのに、泣き出した。しかも大声で。

予想外に混んでいたのと、急行に乗っていたのが致命的だった。優先席で息子を抱っこして座っていた。手荷物は網棚の上にある。降りるべき駅は終点だ。泣いている息子をあやしながらも次で途中下車するべきかを考えていた。

その時

「うるせぇな。 眠れないじゃないか」と大声を上げたのは、向かいの席に座っていたお年を召した男性。

悲しかった。悔しかった。驚いた。

焦って、泣き止ませようとすればするほど、声を上げる息子。もうダメだ。次で一度降りよう。と決意した。途中駅からでは座れるかどうかわからないけど。このまま乗ってはいられない。あと少し、あと少し。降りる準備を始める。気持ちが伝わったのか、泣き疲れたのか、息子がストンと寝てしまった。

電車が駅に着いたとき、大声の男性が席を立ちあがりドアの前に移動した。あ、この人降りるんだ。と安心した。ターミナル駅で多くの人が下車し、車内は空間ができた。ホッとした。

「眠れないじゃないか」と怒鳴られたことは、今でもトラウマだ。電車内で泣いている赤ちゃんがいると同じような人がまた怒鳴るのではないかと身構えてしまう。泣いてほしくない時ほど、泣くのが赤ちゃんなのに。

幸い、今日は怒鳴る人はいませんでした。

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