R1 司法試験憲法
20240923に起案しました。
第1 立法措置①について
虚偽表現の流布を一般的に禁止し、罰則規定を設けた法案2条第1号、第6条、第25条は、狭義表現をする表現の自由を保障した、憲法(以下法名省略)21条に違反し、違憲無効ではないか。
虚偽表現が表現の自由で保障されるか検討を行う。虚偽表現については、確かに虚偽表現は低価値な表現にあたるものとして保障の対象外であるともいえる。しかし、低価値表現だとしても、表現の自由の対象外とすることは、権力の恣意的な判断によって低価値とされてしまい十分な保障が受けられない可能性がある。
また、虚偽表現などがあったとしても思想の自由市場によって判断されるべきであり、本表現を思想の自由市場に流すことをしないことによって、思想の自由市場そのものの価値が低下してしまう恐れがある。
そのため、虚偽表現をすることは、表現の自由にて保障されると考える。
次に、法案が制約にあたるか検討をする。
本法案においては、「虚偽表現を流布してはならない(法案6条)」としており、制約が明らかに認められる。そのため、制約にあたるといえる。
法案が正当化できるか、形式的正当化が可能か検討を行う。本法案においては、「虚偽表現」を対象としており、それを法案2条において、「虚偽の事実を、真実であるものとして適時する表現」としている。この内容が、漠然としており、そのため、無効である(漠然性故に無効な法理)であるといえないか。
規制対象が漠然としている場合には、過度な萎縮効果をもたらすために法令自体が違憲無効であるといえる。そのため、漠然性があるかどうかについては、通常の判断能力を有する一般人の理解において具体的場合に当該行為がその適用をうけるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読み止れるかどうかによって判断されるといえる。
本件においては、法案6条において①公共の利害に関する事実について、②虚偽であることをしりながら、③虚偽表現を流布してはならないとされている。この内容について漠然性があるかどうかの検討をする。
まず、①について、公共の利害にあたるかどうかは一般人の理解において、具体的に判断がしづらいといえる。次に虚偽であるかどうかをしっていたかどうかについて、分かりづらいといえる。本問における事例であった、「化学工場の爆発の際に、水源が汚染されるかどうか」という事例については、虚偽のニュースであったと、しっていたとは判断しづらく漠然性があるといえる。さらに、虚偽の表現を流布してはならないとされているが、流布した当時に虚偽の表現であったかについては②で検討した通り判断がしづらく、前述の事例においても、一般人が化学工場の爆発から水源汚染があるということについて、虚偽でなかったと信じる可能性も高く、虚偽表現を流布したかどうか一般人にとって漠然としているといえる。
そのため、法案6条の規定は、漠然としているといえ、漠然性故に無効の法理により、形式的に違憲無効である。
法案の正当化について、実質的正当化が可能かの検討を行う。
審査基準
法案による制約を正当化するために違憲審査基準の定立を行う。本制約の対象は、表現の自由(21条1項)で保障されている人権であり、民主国家の保障として一番重要なものであるといえる。
たしかに、本法案の規制対象は前述の通り低価値表現ではある。しかし、低価値表現といえども、法案によって一般的網羅的に制約を行うことによって弊害はかなり高いものであるといえる。そのため、保護の必要性は高いといえる。
また、本規制と対象となるのは、国民のみならず表現をしている人すべてになるため、広範囲の人々の人権に対して制約を加えることとなり対象の範囲も大きいといえる。そのため、①目的がやむにやまれぬものであり、②手段が必要不可欠である場合によって判断されるといえる。
目的について
法案は1条において虚偽表現によって社会的混乱が生じることを防止することを目的としている。社会混乱の防止という目的は重要ではあるが、虚偽表現が常に社会混乱を生むわけではないし、社会混乱にも程度の差がありかならずしも、社会混乱の防止という目的が重要とはいえない。
手段について
立法措置①については、①虚偽表現の流布を一般的に禁止②罰則規定(法案25条)によって防止しようとしている。
虚偽表現については、前述の通り漠然としており、一般的に禁止することはやりすぎてあるといえる。仮に科学的に流布の時に正しいと思われていたことが、後から実は虚偽であった場合などは、すべてが虚偽表現の流布にあたってしまうため、表現がかなり萎縮してしまうといえる。そのため、①について手段は過度であるといえる。
また、罰則規定についても、30万円以下の罰金とそれほど大きなものではないとも思える。しかし、いきなり罰則を行うのではなく、勧告やその他手段を用いることは可能であり、いきなり刑事罰を科すことは過度であるといえる。
よって、手段として過度であるといえ、手段が不可欠であるといえない。
以上より、実体的正当化もおこなえず、立法措置①については違憲無効であるといえる。
第2 立法措置②について
選挙に関する「特定虚偽表示」を選挙期間中及び当日に、SNS事業者に削除を義務付け、さらにファイクニュース・規制委員会によって削除命令を出せるようにした法案9条1項、2項及び26条は、SNS事業者の表現について制約をすることで、表現の自由(21条1項)に反し、違憲無効ではないか。
保障について
SNS事業者は直接の表現者ではないため、SNS事業者がユーザーの投稿などについて削除をせずに発信をすることが、保障の対象となるか。
SNSについては近年において、それまでのメディアであった新聞やテレビなどにかわり国民に広く広まりつつある。また政府や地方公共団体などもSNSを利用し、災害情報などのリアルタイムの提供などを行っている。このような状況下において、SNS事業者は非常に重要な役割を果たしており、投稿を削除せずに発信することは、投稿者の表現の自由を保障するために、重要な役割を果たしている。そのため、表現の自由から保障される報道の自由と同等の保障がされるべきであるといえる。
そのため、SNS事業者が投稿を表示することは「投稿者の表現の自由を保障する」ために、必要不可欠なものとして「表現の自由」で保障されるといえる。
以上により、保障されるといえる。
制約にあたるか
法案9条1項及び2項おいては、SNS事業者は投稿を削除することを義務づけられていると言え、制約にあたる。また、法案9条2項に違反した場合には、懲役刑まであるため、非常に大きな制約にあたるといえる。
本法案が正当化できるか、形式的正当化が可能か検討を行う。法案9条柱書における「特的虚偽表現」が、漠然性があるかどうかについて検討を行う。判断については、立法措置①で行った同じ判断枠組みを用いる。
特的虚偽表現については、選挙運動に関するものに絞っている。そのため、漠然出ないかともおもえる。
まず、9条1項の「虚偽表現であることが明白であること」の検討を行う。まず、選挙運動についての情報は、虚偽かどうかについては明白であるとすぐに判断できないことが多い。たとえば、事例であがっている、独自税についても本当にそのような課税について計画されたかどうか判断がしづらく、かならずしも「特的虚偽表現」にあたるかの判断はしづらいといえる。そのため、法案9条1項について「明白」であるかどうかについて、一般人は判断しづらいといえ、漠然であるといえる。
次に、9条2項について「選挙の公正が著しく害されるおそれが明白であること」が漠然にあたるかの検討を行う。たしかに選挙の公正が著しく害されるおそれが明白であることについても、1項と同様に著しく害されること内容が漠然としておりわかりづらいといえる。そのため、本項も漠然であるといえる。
そのため、9条1項、2項ともに漠然としているといえ、漠然性故に無効の法理により、形式的に違憲無効である。
法案の正当化について、実質的正当化が可能かの検討を行う。
「検閲」にあたるか
フェイク・ニュース規制委員会による削除命令が、21条2項における「検閲」にあたるかが問題となる。
法案9条1項について「検閲」にあたる場合には違憲無効となるため、検閲にあたるかの検討を行う。検閲は、行政権が主体となって、思想等の表現物を対象とし、その全部または一部について発表の禁止を目的として、対象の表現物について一般的網羅的に、発表前にその内容を審査したうえ、不適当とみとめるものの発表を禁止することを、その特質として備えるものいう。
フェイク・ニュース規制委員会は、独立行政委員会であるため行政権にあたるかとも思われる。しかし、独立行政委員会は、行政権から独立し、政治的中立性を確保しておこなわれている。そのため、公権力の濫用による危険性が低く、表現の自由を侵害する可能性も低いといえる。
そのため、「検閲」における行政権にあたらず「検閲」には当たらない。
審査基準
法案による制約を正当化するために違憲審査基準の定立を行う。立法措置①と同様に表現の自由の問題であるといえる。
では、本規制方法が、SNS事業者による削除のため、表現内容規制ではなく、表現内容中立規制にあたるのではないか。
表現内容中立規制は、表現内容の規制ではなく、時、場所、方法による規制によるものである。表現内容中立規制は、表現の事由そのものの規制ではなく、手段の規制である。そのため、代替的表現によって表現方法が確保されている場合が多く、公権力による恣意的な規制のおそれが低いといえる。そのため、代替措置の有無や、恣意的な規制のおそれによって実体的に判断を行う。
本条例は、SNS事業者への削除命令にすぎず、表現内容中立規制とも思える。しかし、代替措置はなく、前述の通り漠然性があるために恣意的な運用になりやすいともいえる。そのため、表現内容規制にあたるといえる。
次に、本規制が事前規制にあたるかの検討を行う。
事前規制にあたる場合には、表現の自由を大きく侵害されるといえる。事前規制にあたるかは、日本国内のみならず、国内外において発表済みといえるかどうかによって判断を行う。
たしかに、投稿者がSNSに投稿しているため発表済みとも思われる。しかし、SNS事業者は削除義務があるため、情報が到達していないため、発表済みであるとはいえない。
そのため、事後検閲とはいえず、事前検閲にあたるといえる。
以上により、表現の自由について、表現内容規制で、事前規制にあたるといえる。そのため、審査基準について、立法措置①と同様に、①目的がやむにやまれぬものであり、②手段が必要不可欠である場合によって判断されるといえる。
目的
立法措置②の目的は選挙の公平を確保するものである。選挙については、公平を期すことが議会制民主主義の根本をなすといえる。そのため、やむにやまれぬ目的であるといえる。
手段について
本件手段は、SNS事業者に対して選挙期間中において、特性虚偽表現について①削除を義務づけており、また②削除命令にも対応することを義務づけている。
削除義務については、本来はSNS自体が思想の自由市場であるといえ削除は最小限にすることが望ましいといえる。そのため、特定虚偽表現に該当したとしても削除をするよりかも、「特定虚偽表現に該当する可能性がある」といった表示を当該投稿につけることで、選挙の公平性を図るための目的では達成できるといえる。
次に、削除命令についても、SNS事業者の判断と違っていた場合に、結果として刑罰をおそれるために、命令に従わざるをえないといえる。そのため、SNS事業者に対して過度な負担を強いる恐れがある。そして、法案13条の損害賠償免除規定があることを理由として、特定虚偽表現にあたらない投稿を削除する可能性も高くなると言える。
よって、①および②にともに手段について相当ではあるとはいえない。
以上により、法案9条1項、2号および26条は表現の自由に反し、違憲無効であるといえる。
第3 立法措置②の適正手続保障について
フェイク・ニュース規制委員会が、特定虚偽表現について、行政手続法の定める事前手続は不要と定めた法案20条は、適正手続保障(31条)に反し違憲無効ではないか。
行政上の不利益処分についての適正手続は、行政処分の相手方に、告知、弁明、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性の総合考慮によって判断される。
権利の性質内容としては、表現の自由である。これは上記のように民主主義の根幹をなすものであり、憲法で直接保障された非常に重要な権利であるといえる。そのため権利の性質としては非常に重要なものになる。
次に、制約としては、表現を削除という流通を阻害するものであり非常に強い規制であるといえる。そのため、制約は非常に強いものであるといえる。
それに対して、達成しようとする内容については、選挙の公平性の確保と非常に強いものである。しかし、削除について弁明の機会などについては、短時間やオンラインといった方法で簡易迅速に行うことができ、生命身体への危機もすぐにないため、緊急性は低いと言える。
よって、一切の弁明の機会を付与していない、法案20条は適正手続保障(31条)に反し違憲無効である。
以上
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