『水神さまへの手紙。』
広島、大丈夫かな。
雨降ってないかな。
雷鳴ってないかな。
また土砂崩れが起きないかな。
お父さん、実家に行ってないかな。
お母さん、また泣いてないかな。
雨が降ると、いつも思う。
これから先、ずっとこの時期に心配になるのかな。
前回の土砂崩れで、うちの周辺は流されてしまった。
もし、また土砂崩れがおきたら、次は、うちに直撃する。
地盤はかなり緩んでいる。
発生の可能性は高いという。
実家には、まだ祖母の形見の着物が置いてある。
国土交通相から提示されている立ち退き料は、建物と土地の値段であり、建物が流されたら、半分以下になる。
土砂崩れが発生して数時間後、
まだ遺体が埋まるがれきをかきわけ、消防の方の肩につかまりながら、滝のように流れる濁流を、裸足で歩いた。
足の爪に入ったドロが、3日間とれなかった。
水神さま。
女を一人、生贄として差し出せと言われたら、
私は喜んで、水神さまに、この身を捧げます。