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【vol.3-1 2022春号】女子審判員の活動を聞く~女性として、親として、そして女子1級になるまで~

 2022年2月6日(日)19-20時、戸田市サッカー協会審判部・審判部女子部会主催の「第2回女性審判体験会」が、Zoomにてオンライン開催され、現役の女子1級審判員として活動されている山内恵美さんのお話と質疑応答を中心とした内容で行われました。20名程度の方が参加されていました。

以下、山内さんのプロフィール(1.)山内さんのお話の内容(2.~5.)、質疑応答(6.)、戸田市サッカー協会審判部からのアナウンス(7.)、参加したライター西出の編集後記(8.)という流れで投稿させて頂きます。

1.山内恵美さんプロフィール

 昭和58年生まれ(現38歳)、沖縄県宜野湾市在住。高校3年生と中学1年生の2人の息子さんを一人親で育てる母親。息子は2人ともサッカーをしている。昨年9月まではWワークをしていたが、現在は市役所の福祉推進部児童家庭課にて、子どもの居場所の担当、学習支援コーディネーターとして、学習支援や子供の相談、保護者の悩みを聴く等の仕事をしている。

2.なぜ審判員になったのか?

 息子が小学校3年生の時に始めた少年サッカーで、最初は楽しそうにしていたのに、4年生になってから行き渋るようになった。チーム内でコーチや審判をしている友達の父親の存在を、『羨ましい』と悲観している息子の胸中を知った事をきっかけに「お父さんの代わりとして、審判活動、お母さんもやるから」と話し、4級の新規審判講習会を受け、山内さんの審判活動が始まった。

3.審判資格を取得した後の道のり

 その後の審判活動の道のりは簡単ではなかった。山内さん自身は、柔道しかやったことがなく、日本代表の試合すらまるまる見たことが無かった。子どもの試合しか全部見たことが無かった。山内さんは「サッカー自体わからない私が、審判資格取得後、なにができるかといったら、遠くに飛んでいってしまったボールを取りに行って投げ返すくらいのことでした。免許を持っているけれども、ずっと見ているだけのような時期がありました。」と回想する。ジュニアサッカーの男性が多い環境の中で「女性」として活動するということの悩みも尽きなかった。初めの頃は、バカにされたり、嫌味を言われたりする事も多々あった。それくらいならまだ我慢出来たが、挨拶のつもりで差し出した右手を息子が見ている前で拒絶され、心ない発言をされた時には、本当に悔しくて、審判をやめてしまおうかと思った。しかし、『審判をしているお母さん、すごくカッコ良かったよ。次も頑張ってね。』と息子さんに笑顔で励まされたことで、ひどいことを言う人たちに負けたくないと思うようになった。

4.上級審判員を目指すきっかけ

 息子さんが所属している少年サッカーチームに3級審判の資格を持っている人がいなくて、県大会に出場するのに3級審判員が必要だったので、みんなで受験する雰囲気があった中で、山内さんも受験した。そこには、「子どもたちにサッカーをのびのびとさせたい、変な不安を与えたくないという想い」「大人の事情で子どもたちがサッカーできないという状況をつくりたくないという想い」が強くあったそう。受験したことをきっかけに、当時の審判委員長だった方に、「さらに上級を目指してみないか?」「君を育てる自信があるから」「頑張らないか?」と励ましてもらい、感謝の気持ちから、2級審判の資格を取得することにした。

5.2級審判取得以降の道のり

 2級審判を取得してからは、「スケジュール管理」に気を付けた。「Wワーク」「子どもの送迎」「県内の審判活動」を調整する必要があった。沖縄では、カテゴリに関係なく、審判が割り当てられるので、年60~80試合ほどこなした。失敗も多かった。ボールを持ったまま、キックオフの笛を吹いたり、PKを取れない、カードが出せない、等々、沢山失敗してきた。社会人の選手に、自分の周りを囲まれてしまうこともあった。失敗してもめげず、振り返りをしながら、次に失敗しないようにどうしたらいいか?と必死に考えながら1試合1試合挑んだ。すると、その一生懸命さを選手がちゃんと見てくれるようになり、温かい声が増え、自分の成長にも気づけて、だんだんと審判をやっていて良かったと思えるようになり、楽しくなっていった。山内さんは「これまで泣く事もたくさんあった。審判で100の苦しみがあったとしても、たった1つの感動が100以上の苦しみをカバーし、忘れさせてくれる。それくらいに審判で得られる感動は素晴らしく自分にとって価値のあるものです。」と審判活動の魅力を語る。2019年、色々な人たちの応援もあり、1級の資格もチャレンジした。当時36歳。不合格になったが、子供にもう1回頑張ろうと励ましてもらって、再チャレンジして1級に合格することができた。

6.質疑応答

Q.試合に臨むメンタルはどう準備していますか?

A.(1)今ある私自身の100%を出すこと。それ以上のことはできないので、100%が出せる準備をします。(2)試合に臨むにあたって、目標を1つ決めて臨みます。例えば、タッチジャッジを間違えない、等、前回の試合で課題になったことを目標として設定します。(3)冷静な判断を保つため、試合中の些細なミスは3つまでは大丈夫と自分の心の逃げ道をつくり、ミスをしてもすぐ切り替えるようにしています。

Q.試合後の振り返りはどうしていますか?

A.映像で良いところ、悪いところをしっかり観て振り返ります。レベルアップしたいから、つい悪いところを探してしまいがちですが、自分の良いところも5つは探すようにしています。それは自信を持って審判活動を持続していくためにとても重要な事です。また、インストラクターや審判員の方々と話します。モヤモヤしていることは、そのままにせず、徹底的に追求します。

Q.日々のトレーニングはどうしていますか?

A.1級取得までは、出来る範囲のことだけをやっていました。土日の審判活動もトレーニングとして考え、週2回ジョギングをしたり、仕事後の15分~30分程度トレーニングしたり、雨の日は縄跳びや、ハンズクラップというダイエット動画をやってみたり、楽しみながら、嫌いにならないようにトレーニングしていました。「ながらトレーニング」も多かったです。食事しながらや洗濯物をたたみながら、タオルを足でひきよせる、とか、テレビを観ながらスクワットとか。1級取得以降は、1週間毎日コンスタントにトレーニングしています。

7.戸田市サッカー協会審判部からのアナウンス

 4月から戸田市では審判部女子部会というものをスタートさせます。
女性で審判をやりたいという人が1人でも2人でもいるのであれば、
支える環境をつくっていかなければと考えています。

その中から、トップレフリーを目指したいという方がいれば、しっかりしたサポートをしていきますし、4級審判員も増やしていきたいと思っています。

 戸田市では当たり前のように女性審判員が活動しているという姿を目指していきたいです。
 これからも、皆さんとのつながりを大事にしていきたいと思っています。参加して頂いた皆さんありがとうございました。

8.編集後記

 この度、ご縁があり、「第2回女性審判体験会」にZoomにて参加させていただくことができました。女子1級審判員として活動されている山内さんのお話からは、「大人の事情で子どもたちにサッカーできないという状況をつくりたくない」という保護者としての責任感を根底に感じました。そして、嫌なことを言ってくる人や励ましてくれる人、最初は非難していたけど山内さんの一生懸命な姿を見て応援する側に転じた人など、多くの様々な人との出会いがある中で、ネガティブなことを言ってくる人には負けたくないと気持ちを強く持ち、応援してくれる人の声は追い風にして、感謝して、山内さんの持ち前の前向きさと明るいパワーで、審判員として成長する糧にしていく過程の貴重なお話を伺うことができました。質疑応答でも、成長のためにミスを振り返ることは大切なことだけど、自分の審判活動の良かった部分も必ずしっかり見るというメッセージもとても印象に残りました。戸田市サッカー協会審判部では、女子部会を2022年度からスタートさせるというお話もあり、少しでも審判をやってみたいと思う女性が、その一歩を踏み出しやすくなる環境づくりを目指しているというお話もありました。山内さんに赤裸々に語って頂いた、女性に向けられやすいコミュニケーションの在り方については、課題としてしっかり踏まえながら、女性が前向きに審判に取り組むことができる環境づくりがこれからどんどん整備されていくといいなと思います。

 私自身は審判4級の資格を今も持っており、過去には審判活動をしていたこともありますが、持病の影響で現在はなかなか思うように審判活動することができない状況にあります。しかし、審判資格はこれからも更新して、ルール改正の知識などを入れつつ、審判活動情報について日ごろからアンテナを張り、「女子サッカーに耳をすまして」を通じて、審判活動の魅力や奥深さを発信していきたいと思っています。

 関係者の皆さん、貴重な機会を頂き、また記事を書かせて頂き、ありがとうございました。

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