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【vol.4-1 2022夏号】【寄稿】真夏日に子どもを連れてサッカーを観に行った話

 夏号1発目の記事は、初の寄稿記事です。奈良県在住の耳すまの旧来の女子サッカー仲間から、子育てサッカー観戦エッセイの寄稿を頂きました。夏を感じる文章を、是非お楽しみください。

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6月だというのに最高気温が34℃を突破した某日、子どもたちを連れて地元のサッカークラブのホームゲームを観に行った。

子連れのサッカー観戦は、これが初めてではない。約2年前、上の子が4歳、下の子がまだ2歳のときに、一度観に行ったことがあった。その時は、早めに着いたので、スタジアムの外のブースをいくつか回った後で、スタジアムの中に入ってメインスタンドの良い席を陣取り、持ってきたお弁当を食べ終わったら、子どもたちはもう飽きちゃって、ホイッスルを聞かずにスタジアムを出たのだった。スタジアム横には、滑り台とシーソーとうんていがあるだけの小さな公園があり、そこは子どもたちの行きつけで、彼らにはサッカーの試合よりもそっちの方が魅力的で、結局公園遊びをして帰った。ただ、私個人としては、妊娠、出産、育児、ついでに言えば義母の介護に明け暮れていた数年だったので、スタジアムのメインスタンドから、青々とした芝が広がる景色を見られただけでも胸熱であった。

今回、観戦に行くにあたって、子どもたちに前回のことを覚えているか、と聞いたところ、二人とも、イベントブースでスーパーボールすくいをしたことや、巨大な風船をもらったこと、県の公式ゆるキャラの外観をしたエアドームに入ったけど怖くて泣いちゃったことなど、意外にたくさんのことを記憶していた。

サッカー、関係ないやん。

さて、満を持し、たのかどうかは分からないが、この春小学校に入学した上の子が、学校で無料招待券をもらってきて、それを冷蔵庫の一番目立つところに磁石で貼り付けて、「これ、いく。」とだいぶ前から宣言していたので、ひさしぶりに行ってみることにした。今回私が一番心配していたのは、「こどもたちが最後まで歩いてくれるか」だった。行きはいい。問題は帰りだ。この、6月とは思えない暑さの中、果たして歩いてくれるだろうか。前回は、公園で遊びたおし、疲れてぐずりまくる幼児二人を引きずるようにして駐車場への長い道のりを歩いたのだった。

そのことが頭にあったものだから、今回は行く前に、「自分の足で、最後まで歩くこと」を約束した。二人の体重を合わせたら軽く30キロは超えるので、いざとなったら抱えて歩くのは、さすがにもうできない。あとは、冷えたお茶を入れた水筒3人分、体を冷やすための保冷剤をたくさん、ぽいっと口に入れられるラムネやらハイチュウやらのお菓子、それから手ぬぐいもたくさん、などなどを、メッシュ生地のトートバッグに詰め込んで、装備は完了、自宅から車で5分のスタジアムへ出発。

スタジアムに着くと、キックオフ1時間前にしては、人もまだまばらな印象だった。突然二人して180度反対方向へ駆け出す子どもたちを連れている身としては、それぐらいの方が有難かったりする。まあ、そうは言っても、当の子どもたちは場の雰囲気に呑まれ、駆け出すどころか私の両脇にぴったりくっついていたのだが。くっついているところが、暑い。暑すぎる。

キッチンカーでいちごのかき氷を二つ買い、ベンチに座って子どもたちが食べている間に、チケットの交換所の位置を確認する。子どもが小学校でもらってきた無料招待券は、そのままでは入場できず、交換所でチケットと引き換えてもらう必要があるのだ。同伴の大人一人まで無料、未就学児はもともと無料。このシステムは、かなり有難い。子連れだと、予期せぬことが起こりがちで、キックオフ時間に間に合わないとか、途中で子どもが飽きちゃうとかは、あるあるで、サッカー観戦をするということが、かなりハードルの高いチャレンジングなイベントになりがちである。でも、こうして門戸を広く開けてもらえると、子連れでも、ちょっと行ってみようかな、と、心理的にも物理的にもハードルが下がって行きやすい。

チケット代が浮いた分で長い紙コップに入ったからあげを二つ買おうと並んでいるところで、キックオフの時間になった。「キックオフ」が何かをわかっていない6歳児と5歳児には、目の前のからあげの方が大事なので、慌てず騒がず、からあげを落ち着いてゲットしてからスタジアムへ入る。すでに試合は始まっていたが、メインスタンドの前から2列目あたりに空きがあったので、そこに収まった。
「あおいふくが、こっちのゴールにシュートすんねん」
「くろい ひとは なにしてるの?」
「しんぱんっていって ルールいはんがないか みてんねん」
「ゴール、はいった⁉はいった⁉」「はいってないね」
「はいった⁉」「はいってない」
などど、私を挟んで右側と左側に座った子どもたちからのとめどない質問に答えていたら、前半ももうロスタイムだ。正直今回も、ゲーム自体はちょっと拝めたら充分、ぐらいの心づもりでいたのだけど、子どもたちが曲がりなりにも、目の前の試合を集中して観ていて、そのことがちょっと嬉しかった。
 
ただ、こうなると今度は、いつ切り上げるかの算段を始めるのが親という生き物で、明日は月曜日だし早めに帰って休ませなきゃ、とか、帰ってご飯食べて風呂入るには、逆算するとギリギリ何時までだな、とか考えているうちに前半終了。ハーフタイムショーでは地元のチアダンススクールのパフォーマンスを目の前で見られて、子どもたちと「かわいいねぇ」「すごいねぇ」とキャッキャッウフフしていたら、後半開始。その時点で夕方4時をまわっていたので、子どもたちにあと15分だけだよーと告げて(子どもたちは不満顔)、試合を横目で見ながら荷物をまとめ始める私。えーまだ観たいーという子どもたちの手を引き引き、スタジアムを後にした。
 
帰りがけに子どもたちは、スタジアムのゲートにいたスタッフから、選手の写真が印刷されたうちわを嬉しそうに受け取っていた。心配していた帰りの駐車場への道のりも、もらったばかりのうちわでパタパタ仰ぎながら歩いて、最後にはこどもたちが突然ダッシュし始めて私がおいていかれた。
 
走り去る子どもたちの背中を見ながら、まだ、自分が家庭を築くなんてまったく想像もしていなくて、毎日サッカーのことしか考えていないような学生時代、仲間と話していたことを思い出した。その頃は、日韓ワールドカップが開催された影響もあって(かれこれ20年ぐらい前の話です)、サッカー人気に火がついて、サッカーの試合を観ながら飲み食いのできるサッカーカフェだったり、パブリックビューイングなんかも一般的になった頃だった。それでも、女子サッカーはまだそこまでメジャーではなく、例えば美容院などに行って「何かスポーツやってるの?」と聞かれて「サッカーやってます」と答えると、「へー、めずらしいね!」と返ってくる、そんな状況だった(令和の今はどうなんだろう)。私はその頃よくサッカー仲間とファミレスのドリンクバーを飲みながら、老若男女関係なく、サッカーが文化の一つとして生活に溶け込んでる、みたいなのがいいよね、なんて話を飽きもせずに何時間もしていた。
 
 
スタジアムから帰り、家を出る前に仕込んでおいた麻婆豆腐と味噌汁の夕飯を子どもたちと食べながら、6歳の娘が、「おかーさん、サッカーおしえて!」と屈託なく話すのを聞いて、サッカーとの出会いの場が、広がっているなぁ、と思ったのだった。

                                                                      小山潤

                                          
 

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