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想像力〜コロナ収束後の会場論〜

 こちらをご覧のみなさまにおかれましては、昨今の新型肺炎ウイルス騒動により、大なり小なり影響を受けてらっしゃると存じます。

 今週になって、ようやく各種自粛の効果なのか、東京に関しては、徐々にですが感染数がピークを過ぎたように感じます。しかし、まだまだ油断大敵なのでしょうね。未知のウイルスという敵は、なかなかに厄介な相手であります。

 そんな中、私の脳裏にどうしても浮かんでしまう事柄がありました。

 果たして、このウイルスが収束したところで、これまでのノウハウは意味をなさなくなってしまうのか

 特に、元々小さいながら会場運営に苦心していた時期があります故、会場運営及びイベント運営に関しても考えてしまいます。

 「収束後しばらくは、かつての価値観では対応できない事柄が多々あるなぁ」と感じずにはいられない鬱屈とした気分が私をまとい、払拭できるアイデアも出ず、考えたところでそんな立場についてないので反映できる術もなく、いいおっさんが布団をかぶって一人ウンウン唸っている今日この頃でありました。

 新しい提案はないですが、私の過去の経験と、この新型肺炎ウイルスを取り巻く森羅万象を加味して、想定される「困難」の数々を書き記して見たいと思います。

頼れないゲート収入

 ここのところ、チラホラとウイルス収束後のイベント解禁を見越して、ソーシャルディスタンスを意識し、市松模様のような配置の座席表を目にすることが増えてきました。

 まず前提として、着席して見る公演(演劇・プロレスなど)を主に運営し、且つ民間で運営している会場は、従来の座席で6割以上の集客があるイベントを想定して、賃料を設定しているところが殆どだと思います。

 そこで、もしもご利用団体が半数以上の間引きをして発券したとしても、貸主である会場側の対応は、それまでと変わらない、もしくはそれまで以上の多岐にわたる対応を迫られることになりますので、賃料が下がる可能性は極めて少ないと考えられます。

 つまり、興行を打ったとて、単純に支出の方が上回ることになります。ソーシャルディスタンスな座席は、主催団体の方々にとっては茨の道以外の何物でもないのです。

 こと日本のプロレスに関しては、いくらグッズ販売や映像配信サービスを推し進めても、団体にとってゲート(チケット)収入は命です。こんな座席を想定すること自体、苦渋の選択を迫られている証だと存じます。

 もとより、行政からイベント自粛解除のお達しが出るまでは、主催団体も券売ができず、会場側もそれ相応のリスクを負って予約を受け続けているしかない状態でありましょう。

 このままでは興行ビジネス自体が衰弱の一途です。このままでは身動きがとれない状態なので、国や各自治体から、いち早く収束宣言後のイベントについて指針を示してほしいものです。

真の「密」は興行の外に有り

 たとえ興行を開催できるようになったとしても、それからしばらくは、防疫対策をすることが前提になると考えられます。

 会場入り口での検温、手の消毒、マスクの着用、もちろん座席間隔を開ける配慮もそうですね。

 しかし、それだけでは不十分だと外部に捉えられる可能性が大きい時間帯があります。

 興行の開場前と終了後のお客さんの流れです。

 まず開場前の時間帯。いくら座席間を広げても、入場前の行列を無くすことは難しいと考えます。私の現場での実体験として、どんなに集客に苦戦されていた興行でも、必ず開場前にある一定の行列が出来ます。

 やはりファンの方々の心理として、せっかくチケットを買って楽しみに待っていた興行は開場すぐからも最初から楽しみたいものです。よくわかります。さらに、自由席を設定している興行の場合は、早く入場し席の確保が必要になるのでなおさらです。

 「それではその行列も間隔を開けて待ってればいいじゃない!」というご意見があると思います。
 これについては、会場によっては対応できないケースが出てくるのではないでしょうか。

 例えば、後楽園ホールさんや各地方の公営の体育館は、会場の外にも管轄内の敷地が広大にありますので、そのような距離を取った整列が可能です。

 しかし、具体名は控えますが、いわゆる小中規模の会場に関しては、そこまでのスペースがありません。もし行列を伸ばしたくても、一時的に歩道に出てしまったり、隣接する会社・住宅の前に列をなす必要があります。

 これまでは多目に済んでいたものの、このご時世に許されるものなのか。いわゆる「自粛警察」の格好の餌食となってしまう可能性を秘めています(これについては別項で記します)。

 また、入場前の行列など、場外でのお客様対応に関して、私の経験上、ご利用者側がそこまで重要視していないケースが少なからずありました。

 スタッフを多く抱えている会場さんの場合は良いのですが、私のかつての仕事場は、ワンオペ対応が基本で、且つ興行に関わる全ての対応をご利用団体さんで行うという契約でお貸し出しを行っていました。自ら「東京の地方会場」と自称していたほどです。

 それでも団体さんの興行に対する準備を優先してほしい気持ち、そして私が極度の心配性というのもあり、個人的に機材を事前にセッティングをしたり、開場前に集まるお客様の取り回しなどを手伝っていました。

 しかし、その配慮も虚しく、具体的な表現は避けますが、一部、会場及びお客様を軽視する言動をする人がいたのは事実です。本当に少数の方でしたが。

 話がそれました。

 つまり開場前の入場待ち、そして休憩中の売店や喫煙所、開場後の売店への行列に関しては、「密」としか表現できない状態を招き兼ねませんし、これまでと同じ対応では、ファンの方々も安心して来場ができないのではないでしょうか。

 これはご利用団体と会場が知恵を出し合い、ファンの方々のご協力を仰ぎつつ、興行外の部分でも「密」を防ぐ対策を取る必要があると考えます。

 しかしながら、これも行政の指針次第なのが、なんとも歯がゆく辛いところですが…。

興味がない人にこそアピールを

 いまや日本全国、全世界の人々が、未知のウイルスに怯えて過ごしています。「俺は気にしていない!」なんて息巻いている人は日本では本当に少数です。

 もしもウイルスが収束したと発表されたとて、その恐怖心が人々の心から取り除かれるまでとても長い期間が必要となるでしょう。

 そんな心情の時に、極端な人だかりを見つけたらどう思うでしょう。それも自分の仕事場や住居の目の前で…。

 これも小中規模の会場にこそ起きうる事案です。

 都市部の小さな会場は、先述の通りスペースも小さく、他の建物と隣接している場合がほとんどです。そして、その隣接している建物に出入りする方々は、当然にして会場及びそこで行われる行為に興味を持つことはほぼありません。

「何やっててもいいけど、私達の平和を乱さないでほしい」。
経験上、これが会場の周囲で生活する方々の本心だと確信しています。

 会場側としては、最大限のケアを周囲におこないます。会場を運営をする上で、これが一番重要だと言っても過言ではないと思います。特にプロレス興行を主に貸し出しをしている会場が職場だった私にとっては、とても苦慮しました。

 そうして得た信頼も、一つのトラブルで脆くも崩れ去ります。

 他の敷地に入る人、違法駐車、過度な騒音、飲みすぎてゲロ吐き捨てて帰る人、格闘技興行でのジム同士の大喧嘩…。

 また一から信頼関係の築き直しが始まります。まさに気分は賽の河原の石積みのソレです。

 ここで罪深いのは、そのトラブルを起こした個人や団体ではなく、ジャンル全体に敵意が生まれることです。そして、その敵意はすぐにこちらへ伝わることはなく、ある一定の期間を持って増幅された形で襲いかかってきます。

 私の場合、小規模な会場の管理人とは、その敵意を未然に防ぎつつ、この恐怖心と日々闘うことだと思ってます。現場にいない立場の人は、これが理解できないんですよね…。

 さて、このように部外者の方々は、木を見て森を見ないことが当たり前です。もし私が逆の立場だったら、全く同じ感情になるかもしれません。

 そして、この昨今。殆どの人々がウイルスに対する嫌悪感を感じつつ生活をしていく時代になってます。

 そんな方々に、いかに会場が、そこでおこわれているジャンルが「悪」というレッテルを張られないように立ち振る舞うか。なにも会場側の苦労や、ジャンルを詳しく理解してもらわなくてもいいんです。

 どんなに微に入り細に入り配慮を凝らしたとしても、少しでも油断した行動があれば、「正義感」のある「自粛警察」から「私刑」を処される時代です。

 当然の話として、ウイルス対策を完璧にできる状態になって初めて興行はやるべきです。

 その上で、例えば、各業界全体で一時的でも一致団結し、ウイルスと闘い、対策を徹底していることを、対外的にアピールするのも一案かもしれません。

 ワイドショーで扱われるパチンコ屋のようになってはいけません。ワイドショーの取材班特有の人の見下すかのような立ち振舞を、私は現場で何度も見てきました。そうならないためにも、先手先手で理論武装をし、絶対に悪いイメージで取材できない予防線を張ることは、ジャンルとして大切なことだと思います。

 私はプロレス会場という特殊な現場を退いて、もう一年になりますが、プロレスというジャンル、そして会場運営に、一度でも取り憑かれた人間なので、このジャンルは簡単には潰れないと確信しています。

 それでも、ジャンルを取り巻く状況は極めて厳しいは事実で、各団体のみなさんの活動自粛中のお気持ちやご苦労を想像すると、とても胸が痛いです。

 それでもウイルス収束後に「お楽しみはこれからだ」となることを心より願っています。

 以上、部外者が仰々しいことを書いて恐縮です。
 お目汚し失礼いたしました。

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